妖精と魔法と足りないもの1つ

相堀しゅう

1

「そこまで!  勝者、エルドレット・ダミア!」

 ワッと歓声が上がる。

「すげぇ、一年なのに優勝したぞ!」

「流石、ダミア家だな」

「きゃー! エルドレット!」

 その場にいた誰もが、誇らしげに右腕を掲げた少年、エルドレットに賞賛の言葉を浴びせ、名を叫んだ。

 この試合はエルドレットが通う学園で年に一回開催される大きな催しの一つで、簡単に言えば魔法を使った一対一のトーナメント式の模擬戦だ。学年問わず出場できるのだが、経験や知識の差で三年生の生徒が優勝することが圧倒的に多い。一年生が優勝するのは数十年振りだった。

 拍手喝采の人々にエルドレットはとびきりの笑顔を向けていたが、


 まぁ、こんなもんか。


 内心はそんなことを思っていた。



 それから一年後、エルドレットはニーウェ魔法学園高等部の二年生になった。

 ニーウェ魔法学園は、その名の通りニーウェ王国の王都にある学園だ。六年制で中等部と高等部に分かれている。通う生徒は貴族階級の者が多く、高等部は途中入学もできるから一般家庭の生徒も多いが、中等部の生徒はほぼ貴族だ。

 エルドレットは椅子に座り、机に頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺めた。

 雲一つ無い綺麗な青空が広がっている。


 退屈だな……。


 エルドレットは物心ついた時から刺激に飢えていた。

 というのも、エルドレットはそもそも生まれが上流の貴族。金銭的なことで困ったことは何一つない。

 勉学もできた。魔法の力は言うまでもなく、他にも剣術だったり、チェスのようなゲームだったり、楽器演奏だったり、大抵のことは苦労せずにできた。

 だからこそ、日々が退屈だった。

 刺激を求めて家族や使用人の目を盗み、森の奥深くや洞窟の中なんかに入ってこっぴどく叱られたことが何度もあった。怪我をした回数も数えきれない。それでも心の内にくすぶる欲求は収まらない。


 何か無いかな。


 すると誰かが前に立った。見ると同じクラスの友人だった。

「どうした?」

「エルド、お前が好きな話を持ってきた」

 エルドはエルドレットの愛称だ。

 友人はエルドレットが日々刺激を求めていることを知っている。つまり好きな話とは、刺激される話ということだ。

「なんだ」

 まぁ期待しすぎるとそうじゃなかった時に落胆する。期待半分で聞くと、

「今年入ってきた一年生にすごい生徒がいるらしい」

「すごいって何がだい? 早く言ってくれ」

 友人はニヤリと笑った。

「その生徒は『固有魔法』持ちと『ネイバー』なんだ」

「は?」

 エルドレットは目を見開いた。その反応に友人も嬉しそうにニヤつく。


 「固有魔法」とは、その人にしか使えない魔法のことで、エルドレットも持っている。

 ちなみにエルドレットが持つのは「炎の固有魔法」。他の人が呪文を唱えて炎を出す中、エルドレットは呪文無しで炎を出すことができ、さらに彼自身に他人の炎魔法は効かない。

 確かに固有魔法は珍しいが、貴族や軍には固有魔法を持つ人はそれなりにいる。

 それよりエルドレットが興味を惹かれたのは「ネイバー」だ。


 この世界には火や水といった自然のものから生まれた妖精が存在し、人間が魔法を使えるのは妖精のおかげだという話がある。

 人間の中にはその妖精が好む魔力を持ち、自身の魔力と引き換えに妖精の力を借りられる者がおり、それを「ネイバー」と呼ぶ。

「ネイバーなんて百年以上存在が確認されていないって言われているが、本当か?」

「あぁ。別のクラスのやつがその生徒と妖精が話しているのを見たって聞いた。間違いない」

 珍しい固有魔法持ちに、さらに珍しいネイバー。両方の性質を持つなんて、その希少性は世界のあらゆる珍しいや貴重と名の付く品々なんか比じゃないし、そもそもお金で手に入れられるものでもない。あらゆる奇跡が重なった結果のものだ。

 エルドレットの好奇心がこれでもかと刺激される。


「その生徒の名前は分かるか?」

「確か、シンシア・ガルデライト、だったはずだ」

 ガルデライトは知っている貴族の名だが、

「ガルデライト家にそんな子いたか?」

 いたら間違いなく噂になっているし貴族社会を揺るがしていたはずだが、そんな話は聞いたことがない。

「養子で、シンシア・ガルデライト自身は平民の出だそうだ。噂じゃ幼い頃に事件に巻き込まれて実の両親が亡くなり、軍に引き取られたとかなんとか」

 噂通りだとすれば、そんな希少な力を持つ子どもがいると知ったら手に入れようと争いになるだろうし、それで両親が亡くなり、軍に引き取られ、貴族の養子になるのも納得がいく。

 ガルデライト家は中立派で、ガルデライト家の人々の人柄の良さは誰もが知っている。そこなら安心だろうと当事者でもないのに思った。

「なるほど」

 エルドレットは笑みを堪えきれなかった。


 シンシア・ガルデライトに会ってみよう。そうしない手はない!

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