クラスの中二病少女、実は異世界から帰還した勇者でした

蜂月八夏

第1話 中二病のクラスメイト

 学校のチャイムが鳴り、授業の終わりと昼休みの時間を同時に知らせる。

 俺——真泉誠まいずみまことはこの春から高校生となったが、元々あまり人と関わることが得意なタイプでもないのであまり友達はできていない。

 そんな中、俺の一つ前の席にいるクラスの中でひときわ異質な存在感を放っているクラスメイトがいた。


「聖典を後世に受け継ぐための説法が終焉を告げる鐘が鳴ってしまったか……」


 それが井瀬勇名いせ ゆうなだった。

 彼女は紺色のブレザー制服こそ校則通りにきちんと着こなしているものの、それ以外は特徴的過ぎて一度見たら忘れられないような外観をしていた。

 赤髪のセミロングで猫の耳のように髪の毛が横へぴん、跳ねており彼女の頭の上には意志を持っているかのようなアホ毛が一本、特徴的に揺れていた。

 右側の髪は黒色の十字架のような髪留めで止められており、長く伸びた前髪が右目を覆っている。

 一方、左目はカラーコンタクトでも付けているのか青色に光り輝き、照準のようなマークが見える気もする。


 そんな色んな意味で目立ちまくっている井瀬勇名。

 昼休みの時間を知らせるチャイムが鳴ると同時に立ち上がり、俺の前まで移動して両手を腰に当てて立ちふさがる。

 俺はその自信に満ちた彼女の顔を見上げる。

 青い左目がこちらを真っすぐと見つめていた。

 そして、彼女は微笑みながら口を開いた。


「我が戦いを見届ける観測者、真泉誠よ。今宵も我が冒険譚をその頭に刻み込むべく、私と共に天の頂の先で血肉を取り込もう!」


 彼女は右手の指を三本、十字架のように真っすぐ伸ばした状態で仮面のように自分の顔に当て、ポーズを取りながらそう言い放つ。


「……えーっと、話がしたいから昼食一緒にどうって意味であってるか?」

「そうとも言う」

「分かったよ……」


 勇名とそんな会話をしていると、後ろからひそひそと話し声が聞こえる。


「またやってるよ、井瀬さん……」

「顔は美人なのに、どうしてああなんだろうか……」

「真泉もよくあの人に付き合えるな……」


 教室のあちこちから、呆れたような声が聞こえてくる。

 そう、彼女は度を超えた中二病で有名な女子生徒だ。


 しかしそんな惨状でありながら成績は不動の学年一位で、スポーツも無敗という万能少女。

 そのせいで先生もあまり怒れないというある意味、普通の不良よりも厄介な生徒である。


 見るからに怪しい外見と、中二病発言を繰り返す彼女について行けるものはおらず、クラス全体から白い目で見られ友達と言える友達は俺以外にいない。


 とはいっても、俺も友達がいないため似たようなものなのであまり馬鹿にできる立場ではないのだが。

 最初の頃に仕方なく彼女の話に付き合って居たらいつの間にか気に入られてしまい、こうして付きまとわれている。

 勇名は外見こそ美人なのでそれをうらやむ男子もいなくもないが、ほとんどが同情的な目で見てくる。


「井瀬さん」


 廊下を歩いていると一人の女子が話しかけてくる。

 黒髪のロングで、上品な赤い宝石のような髪飾りが特徴的な清楚な女の子。

 クラス委員で勇名に次いで成績の良く美人なことで有名な姫井玲奈だった。

 というか、勇名がこんな惨状なのでどちらかというと姫井さんの方が男子からは人気が高い。


「井瀬さん。先日提出してくれた進路調査票についてなんだけど……」


 姫井さんは一枚の紙を取り出し勇名に見せる。


「この第一志望、正義の味方っていうのは何かしら?」


 その進路調査票には、第一志望、正義の味方と太く筆圧の強い文字で書かれていた。

 第二志望から第三志望までは全て空欄になっており、正義の味方以外のことは一切書かれていなかった。


「そうだ。何か問題があるか?」

「大ありです! 小学生じゃないんだから、真面目に書いてください!」


 勇名はそれを聞いても首を傾げ、何がいけないのか分からないという顔をしていた。


「?? 大真面目なんだが……なんでそんなに怒っているのか私には分からない」

「怒るに決まってるでしょう! こんなの先生に見せたらクラス委員の私まで怒られます!」


 普段は姫井さんは冷静な態度を崩さず、常に冷静でいて感情を表に出すことは少ないのだが、勇名の前でだけこうして感情を露わにする。


「せめて書くなら警察官とか、消防士っていう書き方とかにしてください!」

「おぉ! 確かに! それも悪くないな。 玲奈は頭がいいな」

「貴方はもう少し常識的な考えを持ってください……」


 姫井さんは頭を抱え、深くため息をつく。


「とにかく、それは書き直しておいてください……」

「仕方ない、ここは玲奈の顔を立ててやろう」


 勇名が進路調査票を受け取ると、姫井さんは疲れた様子で去って行った。


****


 そんなこんなで彼女に誘われたまま学校の屋上へと移動する。

 屋上への扉を開けて屋外へと出る。

 この学校の屋上は広々としている割に人が来ることはほとんどない。

 近くのベンチに勇名と腰かける。


「毎回思うんだが、なんで屋上で?」

「私はいつも組織に命を狙われている身。

 いつどこから奇襲があってもいいように広い場所で人が少ない場所にいる必要があるのだ」


 勇名は親指を伸ばしながら顎に右手を当て、口角を上げてかっこよくキメた笑みを浮かべている。

 正直なところ、屋上はいつも人がいないので周りの好奇の目にさらされることがないのでそれは助かるのだが。

 というか人が少ない場所にいる必要があると言っているが、俺はその奇襲とやらに巻き込まれてもいいのかよ。


「はぁ……その組織って言うのは確か……」

「そう、前にも話した通り私もまだ詳しくは調査できていないが、おそらく異能を持つ超能力者を集めて国家転覆を目論む秘密組織。

 ある時私はその刺客に襲われたことがある。

 難なく撃退したが、それ以降私と組織は幾度となく戦い合っている」


 いつものように勇名は自身の中二病設定を語り続ける。

 彼女と友人関係になって1か月が過ぎたが、彼女のこうした設定を聞くのにも慣れてきた自分がいる。


「それだけの戦闘を現代で繰り広げてるのなら、騒ぎになってないとおかしくないか?」


 つい彼女の中二病設定にツッコミを入れてしまうが、彼女はむしろ待ってましたとばかりに腕を組んだまま話し始める。


「当然だ。一昨日、爆発事故がニュースでやっていたのを見ただろう?

 あれは私と組織の戦いの名残。なんとか騒ぎにならないように証拠隠滅しようとしたが隠しきれなかった」

「迷惑だな……」


 今のようにちょっと試してやろうと何度かいじわるな質問をしたことがあったが、勇名はそれにすら揺らぐことはなくすらすらと更なる設定を答え続けてきた。

 これだけ設定の量があったら多少の矛盾とかが発生しそうなものだが、そういったことは今までに一度もなかった。

 ここまで設定作りが上手いのなら作家にでもなった方がいいのではないかと思ってしまう。

 爆発事故はガス漏れの所為だとニュースでは言っていたし、彼女の仕業のわけないのだが。

 それを即座に自分の中二病設定に取り込んでしまうというのはその設定作りの綿密さにはむしろ関心すら覚えてしまう。

 しかし実際のところ、学年一位の成績は持っているわけだから、そういう設定を作るのは得意な頭も持っているということだろうか。


「話はいいけど、弁当は食わないのか?

 お昼休み終わるぞ」

「あ、そうだった」


 俺は学校の行き道でコンビニで適当に買った焼きそばパンを頬張る。

 一方勇名はと言うと、まるでお花見の時に持ってくるような二段重ねの豪華な重箱のお弁当を袋から取り出す。

 そして蓋を開けると弁当の中身は見たことないような食材が並んでいた。


「これは、かつて異世界で討伐したダークファングボアの肉!

 現実世界で言うところの猪のようなものだが、強さ、そしてその肉の質はそれとは比べ物にならない。

 異世界ではこの肉一つで金貨に相当する価値がある!」


 俺が勇名の弁当に視線を向けるとふふん、と自慢げに鼻を鳴らしながら説明を始めた。


「へ、へぇ……確かにあまり見たことない肉だな」


 本人曰く異世界で採取した野草や特産の果物、討伐した魔物の食材らしいのだが、そんなわけもないので「彼女の家は実はお金持ちとかで家で特殊な食材か何かを仕入れてきている」と勝手に解釈している。

 その理由なら学校でこんな暴れまわっていて先生たちが黙殺している理由が納得できるし。

 

「お前にも分けてやろう」

「え」


 すると勇名はあろうことか箸でダークファングボアの肉(自称)を掴んでこちらの口に差し出してくる。

 このままではいわゆるカップルがやるような「あーん」の状態になってしまう。


「それは、まずいのではなかろうか」

「最強の勇者である私の施しを受ける機会を無下にする気か?」


 勇名は不機嫌そうにこちらに睨んでいる。


 この態度から分かるように彼女は色恋にはすこぶる疎い。

 前に男子に告白されたことがあったが、「組織と共に戦いたい同志」だと解釈して修行と称してグラウンドを全力疾走100周に付き合わせた結果、その男子はすっかりダウンして数日学校を休んだらしい。

 それ以降彼女に告白するような無謀な男子はいなくなってしまった。


 実際俺も彼女のことを異性とは見てないし、見るつもりもないのだが——


「ほら、食べないのか?」


 ずい、と勇名はこちらに顔と箸を近づけてくる。

 距離が近い。彼女の青い瞳が真っすぐこちらを射貫くように見つめてくる。

 中身は非常に残念だが外見は非常に整っている。

 特徴的な赤い宝石のような髪が屋上に吹くそよ風によって揺れ、彼女の髪の香りがこちらに漂ってくる。

 観念した俺は仕方なく箸の先にある大き目の肉の切れ端をぱくりと頬張る。


「どうだ」

「……美味しいです」

「そうだろう。私が異世界で狩った上位の魔物の一つだからな!」


 勇名はえっへん、と両手を腰に当て自慢げに胸を張る。

 実際あまり感じたことがない触感だったが、とても美味しかった。

 まるで出来立てのように熱々で、噛むたびに肉汁が出てくる。

 かけられたソースも極上のもので、本当に彼女が作ったお弁当なのかと疑ってしまうくらいだった。


 そんな感じで、俺は中二病のクラスメイト、勇名に絡まれる日々を毎日のように過ごしていた。

 彼女の中二病設定を聞かされ続けるのは正直面倒くさいが、他に友達もいないからと諦めているし、そうした毎日がずっと続くのかと思っていたが——

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