第23話


 聞きかじった話だが世の中には色んな形の家族が居て、跡取りを作るために政略結婚をしたり仮面夫婦として表面上だけ仲良く振舞う人もいるらしい。

 それを思えばセックスの趣味が合わないというだけで他が合っているならマシなのかな。

 けれどすり寄せていけるなら合致した方がより良い夫婦生活を送れることだろう。

 しかも勇太は私に合わせて我慢をしてくれていたのだ。やはり私から彼の趣味に合わせるのが思いやりというものなのかもしれない。


「…千里?」

キッチンへ戻って来た勇太は、シンク上の蛍光灯を見つめる私を不審に思い顔を覗き込む。

 そして私が

「勇太、勇太の趣味に合わせて抱いて」

なんて言うもんだから彼は目をまん丸にして驚いていた。

「はぁ、まだ言うてんの?」

「やっぱり、擦り合わせが必要だと思う。勇太は私に合わせてくれてた、私も…勇太に合わせたい、楽しんで…貰いたいの」


 目線を足元に落とせば勇太は腰を屈めて頬にキスをして、

「泣かれたら萎えてまうよ」

と子供を宥めるように頭をぽんぽんと叩く。

「っ…子作り、したら…もう機会が少なくなっちゃう…勇太の好きなように…してあげたい」

「別れるんとちゃうよ」

「だって、物足りなかったらまた風俗に行っちゃうんでしょう?繋ぎ止めておけないよ、」

「行かへんって」

 この辺りはもう不毛な水掛け論で、どれだけ勇太が操を立てると言っても私は信じられないし、満足させてあげられないことが申し訳なくて逆に行って解消して欲しいとさえ思ってしまう。


「勇太、前…私倒れてできなかったけど、海外の子にシたみたいに、抱いて?私にできないことをシたんでしょう?」

「だから…嫌がられたら困るし」

「我慢する、嫌でも…ていうか勇太なら…たぶん大丈夫」

「……離婚とか言わへん?」

「言わない、あ、でも痛いのと熱いのは嫌だ」

「せぇへんっちゅーの」

「あと汚いのも嫌」

「なんの知識入れてんの?」


 はぁ、と大きなため息をついた勇太はシンクの片付き具合を見て私の手を引き、

「ほんならおいで」

と寝室へいざなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る