8・まだ、
第22話
決戦の日、金曜日。
朝から悶々とする私とは裏腹に勇太はさっぱりしていて、なんとなくの帰宅予定時間を告げて仕事へ出て行った。
あんまり楽しみではないのかな。
少々不安ではあるものの私も精一杯働いて、帰宅後すぐに夕飯作りに取り掛かる。
もうすぐ9月、仕事が少し落ち着いたら旅行したりデートも楽しみたい。
夏バテにならないようスタミナ食を増やしてきたが今夜はお洒落ディナー…ではなくニンニクたっぷりの唐揚げだ。
揚げない唐揚げもしてきたけど油の跳ねる音は聴いていてワクワクするしドキドキ感が半端ない。
勇太は喜んでビールを開けちゃうかな、そんな期待もする。そして寝室へ雪崩れ込んで奮って欲しい。
タイマーを確認しつつ受け皿には魅惑の塊が重なっていった。
鍵を挿し込む音がして夫の帰宅を知る、
「ただいまぁ……ん、ええ匂いする、わ、唐揚げやん、珍しい」
「おかえり、…わぁ?」
そして振り返った私の視界を埋めたのは色とりどりの花、夫が抱える花束からは唐揚げに負けないくらいのいい香りがする。
「どうしたの、これ?」
「誕生日も近いし…喜ぶか思うて」
「嬉しい……ありがとう、」
「つまみ食いしてもええ?」
「だめだよ、もうすぐだから」
花束を座卓へ置いて、素早く唐揚げを奪った夫はハフハフしながら脱衣所へ着替えに向かう。
なんだか幸せ、そしてこの後は…意識すれば
・
「…美味い、最高」
「良かった」
「ビール…いや、やめとこ」
「呑んでいいよ?」
「明日も仕事やし…寝落ちしてもうたら困る」
「そう、」
「あー美味い…おかわりしてええ?」
「うん、いっぱいあるよ、明日のお弁当にも入れてあげるから」
「マジか、祭りやん」
「大袈裟だなぁ」
沈黙を作らぬよう互いに気を配ったのか会話が途切れることなく食事は進み、私が食器を洗っている間に勇太は寝室を整えにリビングを離れる。
きっとアロマを焚いてくれているのだろう。あくまで私の好みに設えてくれる配慮が嬉しかった。
けれどまだ我慢しているんじゃないかな、子作りのために辛抱して私を抱くんじゃないのかな、懸念は尽きない。
性の趣味が一致しなくても日常生活が上手く回ればそれでいい。
一度は彼の提案に乗った私だが、今の今になってそれがひどく虚しいことのように感じてしまう。
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