第12話
生活の中において重きを置く部分というのはそれぞれに差があって、私は仕事と家事が多くを占めている。
結婚したので『恋愛』のカテゴリは薄くなり、空いた部分には今後『子育て』とか『教育』とかが入っていくのだと思っている。そこに『恋愛』があった時でも『セックス』の内訳が占める割合は小さくて、嫌いではないけど必須ではない、それくらいの位置付けだった。
勇太がシたいならと無様でない程度に
まぁ彼の中での『セックス』は『恋愛』ではなく他の、例えば『趣味』とか『生理現象』カテゴリに入っているのかもしれない。
しかも私とのそれは窮屈なのだから『苦行』とか『修行』なんて枠を設けてあるんじゃないかとさえ思っている。
こんな状態で幸せなセックスができるはずないじゃない。
ふぅと息をつくと寝室からふわり、
「……!」
私のお気に入りの香りが漂ってきた。
「これ…アロマ焚いたの?」
「うん…ロマンチックなんが千里は好きやから」
「無理しちゃって…」
「背伸びやな…俺からしたら身の丈に合うてへんプレイやけど…演じるのも楽しい」
これを焚いて、少しでも私の希望に添うように準備をしてくれたのか。
悔しいなぁ、善人は1回の悪事で評判を地まで落とすし悪人は1回の善行でその評価を上げてしまう。
善行をどれだけ積み重ねても以前の関係には戻れないだろうけど、こうして精一杯挽回を狙って頑張ってくれる姿を見るとやはり絆される。
私はしょぼんと体育座りになった夫と同じ高さまでしゃがんで、
「………どんな風に…シたの、海外の子と」
と尋ねると夫は顔を上げて
「ん?んー…」
と目を泳がせた。
少しだけ芽生えた嗜虐心でぐりぐりと彼の痛いところを攻撃する。
金魚のようにぱくぱく動く唇が存外に愛おしい。
「ねぇ、どんな感じだったの?私とは違うんでしょう?」
「ん、んー…そらぁ、プロやし、うん、いや、」
「同じ風に…シてって言ったら…できる?」
「はぁ?嫌やん、そんなん…無理よ」
風俗店のシステムに明るくないけどそんなに特殊な展開のプレイをしてきたのかしら。私としては歩み寄ったつもりだったが彼は弱った顔で首を横に振る。
「お店でシたみたいに抱いて」
「なんで、千里はそんなんできひんやん」
「いいじゃない、私が同じ役割ができるんなら…いや、できても風俗には行くか、そういう人だもんね」
「もう行かへん、それは誓うから……ち…千里は…嫌われたないよ」
「嫌われるような酷いことスるの?」
あらちょっと恐いかも。
発覚時に風俗についてはインターネットで調べてはみたけれど、画像とかが載っていなかったので絵的なイメージは湧かなかった。
男性ユーザーの体験記みたいな物も読んだがそれが一番分かりやすくて参考になった。
勇太が同じようなお店を経験しているのなら少し引くけれど…女性に対する願望とか欲望を教えてくれるのならば関係回復に近付くのではないかとも思っている。
「ちゃう、いや…泣かれたない…」
「風俗でも女の子泣かせてるの?」
「ちゃう、抜きで泣くてどんなんやねん…ちゃうの、あのー…い、いつもみたいに優しい優しいはせぇへんよ、って…」
「…乱暴は嫌だけど、男らしいところは見てみたい」
「………千里…」
夫はよっこらせと尻を上げて私の腕をがっしり掴み、
「…ええんなら…その、風俗云々やなくて…普段のと言うか…ちぃと荒い抱き方すんで?」
と上から意地悪そうに凄んだ。
「…む、難しい?」
「ぷふっ……いや、あの…そういうとこが好きやねん…千里、先に風呂入っておいで、いつもと違うエッチしよ」
「うん…あの、痛い?」
「痛くはせぇへん、入っといで」
「…あ、熱い?」
「千里、思うてる風俗の種類が違う気がするわ…ええわ、一緒に入ろ」
首を傾げた夫は私を風呂場まで引っ張り、ホストクラブの香りが残る服をぽいぽいと脱がせて自身も裸になる。
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