第5話
彼はふた玉分をペロリと平らげてゲップを堪えて、口を結ぶ私に代わり話し始める。
「あの…勘違いせんとって欲しいねんけど、俺は千里が好きやねん。ちゃんとした暮らししてるとこもメシが美味いとこもな。俺を選んでくれたとこも含めてやで、幸せにしたいと思うてる」
「……うん」
「ほんで…セックスのことやけど…昨日はビョーキのことがショックで頭に血ぃ昇ってもうて、口汚い言い方して悪かった。ほんまにすまんかった、けど本心や…夜の生活は正直合えへんと思うてる」
何が合わないんだろう。具体的に聞きたいけれど知ったところで私に挽回できるチャンスがあるのか。
私もセックスにあまり重点は置いてなかったけれど、他の女性に私の役割を盗られていたとなると気分が悪いし、この怒りは妻として正当なものであろう。
「あのさ、風俗…っていうのかな、どれくらい利用してるの?」
「んー……あの、セックスする訳とちゃうのよ、抜きだけとか…マッサージとかな、そんなん…月イチくらい…」
「へぇ…それは、今後も行くつもりなの?」
「…治ったら……いや、千里が許してくれて、小遣いが復活したらな」
許すか許さないかだと一生勇太は風俗には行けないだろう。そしてお小遣いは私が巻き上げた訳ではないのでそれは好きな時に復活させれば良いと思った。
それより私は「まだ行きたいんだ」というショックが大きくて、開いた口が塞がらないと言うか何をどう交渉しようかと脳がフル回転して目線も落ち着かない。
「その…妻が居ながらね、風俗店にお世話になることに…負い目は無いの?」
「ごめんけどあれへん、独身の頃からやし娯楽やねん…そこの女が好きな訳と違うから」
「ちょっと…分かんないなぁ…」
彼は女性や女体に興奮するし性対象として見る。私はそれを特定の相手だけに、つまり私だけにできないのかと…言いたいのだけど「合わない」とはっきり言われているのだから無駄なのだろう。
「他所で解消すんのはほんま娯楽よ、レジャー。愛してなくても触られたら勃つんやもん、スッキリしたいし。なんやろな…美容院、色んなとこ試したりするやろ、美容師の腕とか顔とかで選んでさ、そんなんと一緒、感覚としては」
「…あのさ、私が許さずこのまま離婚とかになったらどうするの」
「離婚したいん?俺は嫌やけど。千里のこと好きやし」
「……」
あぁ腹が立つ、私の心がまだ彼にあると知っていて高姿勢で来れるのだ。
舐められている、けれど好きだと言われれば嬉しい。こんなに虚しいのに彼を嫌いになることができない。
だいたい離婚した後と今の生活の損得を比べてみれば現状維持の方が損が少ない。消費エネルギーや心身の疲弊を考えると今のままやっていくのも良いのかな、ガンガンと頭痛がしだすと思考も停止する。
「…そう……じゃあせめて…バレないようにしてくれる?」
「分かった、そうする」
「…あの…」
「なに、調子悪いか?顔色もおかしいぞ」
てめぇのせいだよ、ついつい昔使っていた口調が飛び出しそう。
「頭は痛いかな、片付けるね」
と席を立てば
「ええよ、俺が洗う」
と彼は丼を持ち上げ台所へ向かう。
悔しい、この優しさはご機嫌取りなのか違うのか。
私は頭痛薬より性病の薬を優先して喉へ流し、明日の仕事に備えて早めに就寝した。
つづく
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