勇者から秘湯屋に転職します

藤泉都理

第1話 物凄く恐ろしい




 魔法使い、武闘家、僧侶と共に厳しくも辛い八年もの修行、十年もの旅路を経て、とうとう魔王を倒す事に成功した勇者、奏斗かなと


 魔王を倒す為の厳しく辛い修行、魔王を倒す為の厳しく辛い旅路、魔王を倒した事も然る事ながら、魔王を倒した事による罵詈雑言、力で魔王をねじ伏せるなんて最低人でなし生きている価値がないおまえの口は何の為に付いてんだ言葉を伝える為にあるんだろうが言葉を尽くせ何十年かかろうと尽くし続けろもう暴力しか振るわない言葉を使わないってんなら口を閉ざし続けろ一生誰とも言葉を交わすなおまえに言葉を発する資格はないと、一部、そう、一部の多種多様な生物から怒涛の如く放射された事により、心身が消耗。


 もう何もしたくない起き上がりたくないこのままベッドと同化するからベッドもろとも燃やしてくれと、魔法使い、武闘家、僧侶に願い出たところ、連れて行かれたのが秘湯だった。


 りんごの香りがほのかにするその秘湯に浸からされた奏斗は、ただ静かに泣き続けた。

 泣いて、泣いて、泣いて。

 その一人しか入れないような小さい秘湯の湯を入れ替えてしまうくらい泣いて、静かに言った。




 勇者から秘湯屋に転職する。




「他国の魔王の討伐行脚に行くように王様に嘆願されたけど、僕はもう行かないよ」


 か細い声でそう言えば、一人だけ秘湯に入る奏斗を囲んでいた魔法使い、武闘家、僧侶は言った。三人とも言ったのだ。物凄く恐ろしい形相で。




 んな事、許すわけねえだろう。

 











(2024.11.27)




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