スターゲイザー~魔法が中心の世界で魔法の才能0でも勇者を目指す少女の話
河酉颯茲
第1話 星を見る
子供の時、星が燦々と降り注ぐ空をあの子と見ていた。他愛ない会話をして二人で笑いあった。いつもと違う夜空はとても綺麗で今でも鮮明に思い出せる。
「あんたは大人になったら、何になりたいの?」
あの子は空に向けていた目を伏せ、私に質問をしてきた。だから私は笑顔で答えてやったんだ。
「私は最強の勇者になりたい!」
一瞬彼女は驚いたのか目を見開いて私を真っ直ぐに見つめていたが、直ぐに呆れた様な息をつき夜空を見上げ言われてしまった。
「勇者って、あんたね~分かってんの?どんくさくてあわてんぼうのあんたなんかあっという間に食べられちゃうわよ。」
その言葉にむすっとして言い返す。
「今はそうかもだけど大人になったら分からないじゃないか!」
その言葉に軽く笑ってあの子は私の方を見た。
「だから、その時は私も連れていってよ。あんたの面倒を見れるのは私だけなんだから。」
その瞬間、星の輝きが尚更光り輝いて私たちを照らしたような気がした。私はこの瞬間を忘れはしないだろう。
「ああ、勿論だ!」
ガヤガヤワーワー。ガヤガヤワーワー。
「聞いたか?西にあるテーラーの森でやたらでかいトカゲの足跡が見つかったらしいぜ。」
「なんだそりゃ?」
「それがよ~、爺さんらいわく、ドラゴンなんじゃないかって話なんだが。」
ギィィ…。カッカッカッカッカッ。
「アッハッハッハ!ドラゴンだって?そんなの大昔に勇者パーティーが討伐しきったって話だろ?そんなの今の時代いるわけないじゃないか。」
「だよな~、大方異常成長したトカゲの魔獣だろうな。」
カッカッカッカ…。ドサッ。
「おい見ろよ、あの女。」
「どいつだ?」
「金髪で箒持った奴だよ。」
おーーい。
「あぁ、あいつか。」
「これも聞いた話なんだが、魔法学校に通ってたらしいんだが…。」
きぃきぃ。
「魔法がつかえないんだとよ。」
ギルド酒場は今日も賑わっている。昼はクエストの受注場所、夜は酒場、荒くれ者たちの集まるこの場所は私には結構心地よいと気に入っている。喧騒を音楽に椅子を傾けながらゆっくりとウェイトレスを待つ。
ダンッ。途端、先ほど私の話をしていた客席から樽ジョッキを叩きつける音がした。この状況でそんなことをしでかすのは間違いなくあいつしかいないだろう。
「お待たせいたしました。以上でご注文はよろしいですか?」
叩きつけた張本人であるウェイトレスはあろうことか客を一瞬威圧した後、何事もなかった様に私の方に向かってきて来た。
「行儀が悪いわよ、レーテ。」
「お前は、客は神様って言葉知ってんのか?凛火。」
そして私を注意しだす始末だ。幼馴染ながらその豪胆さには感心してしまう。
「悪神は躾けるに限るのよ。」
彼女は当たり前のように答え伝票を取り出し注文を聞いてくる。その態度に軽く引きながら私はビールと野菜系の料理を2個頼んだ。
「いつものね、じゃあ少し待ってて。」
凛火は厨房のほうにスタスタと歩いて行く。それを見送って私はまた椅子を後ろに傾けて品をゆっくりと待つ。
「おい、お前。」
横から、凛火に威圧され先程から萎縮してた大男が私に話しかけてきた。どうやら大変ご立腹らしい。
荒くれ者の多いこの場所では喧嘩など日常茶飯事で、ある種のイベント行事である。今まで野次馬として楽しんで見ていたが、どうやら今日は私が当事者になる番らしい。
「お前あの女と親しいみたいだなぁ。」
「まぁ幼馴染だからな。」
「じゃあその幼馴染に俺をコケにしたらどうなるか教えてやらなきゃな~!」
男が殴り掛かってくる。それを傾けた椅子ごと後ろに倒れながらバク転をしながら避ける。すると男は威力そのままに止まり切れるはずもなく倒れた椅子の足に躓いた。
「おいおい、八つ当たりかよ。まぁクエスト終わりの整理体操くらいに丁度いいか。」
体勢を直し男に向き合い挑発的ににやけてみせた。そうすると尚のこと頭にきたようで魔法で腕に炎を纏いだした。
「上等だ!この落ちこぼれ魔術師が。」
野次馬たちがぞろぞろと集まり賑やかになる。
おおきく振りかぶるその体躯を活かした殴り方は当たればまぁまぁ痛いだろう、おまけに炎ときた。しかし大振りなので避けるのは容易い。だが。
「なに!?」
「重いは重いが、思ったより痛くねぇな。」
だが、ここでの喧嘩は避けるより受け止めた方が盛り上がるし何より精神的に有利がとれる。
「なんで火を触って平気なんだよ?」
男が恐れた声でつぶやく。が、私は無視して問いかける。
「そういやぁ聞いてたぜ。私が魔法を使えない落ちこぼれだって?」
「な、なんだよ…。」
「じゃあ事実確認させてやるよ。」
「ま、まさか!?」
とたん焦りだす男は掴まれた腕で私の手を振り払おうと力を込めるがそれを易々と逃がす私ではない。掴んだ腕を引っ張り、体勢が崩れて近づいた男の顎先に人差し指をあて魔力を込める。
「や、やめ…。」
「ばぁんっ!」
刹那、静まり返る酒場。男は怯えた様子で膝をつき威勢のよかった炎は見る影もなく鎮まっていた。
「うっそ~。そう、お前の言った通り私は普通と違って全く魔法は使えないんだなこれが。あ、でもお前くらいなら簡単に
そのまま私は倒れた椅子を元に戻し再び座り直した。周りにいた野次馬たちは拍手したり歓声を上げたりする人もいれば、私の方を見て、噂ほんとだったな、じゃあやっぱりあれもあの子が…なんて言っている人もいた。
「く…くそぉぉぉ!!」
立ち上がってもう一度殴りかかってくる男。だが、私は目もむけない何故なら。
ドグシャッ!!
「そこまでよ。」
最強の幼馴染が来るからだ。
「お待たせしました、ご注文のビールです。」
「おう、ご苦労。あぁ…でも客に飛び蹴りはどうかと思うぞ。」
「やっぱ邪神は退治するに限るのよ。」
どの口が言うのか、元をたどれば凛火が喧嘩を売らなきゃこんな事にはならなかったのに、とは思ったが言わない方がいいこともあるのでその言葉をビールとともに飲み込む。
「で、どうすんだこれ、大丈夫なのか?新米ウェイトレスさん?」
「大丈夫よ、ギルドマスターの事言いくるめるから。多分減給は食らうだろうけど。」
平然とそんなことを言うこいつに一抹の不安を感じる。そんな私をよそに彼女は堂々と厨房のほうに帰って行った。その姿を見ながらゆっくりともう一度ビールに口をつけた。
「大丈夫なのか、あいつ?」
スターゲイザー~魔法が中心の世界で魔法の才能0でも勇者を目指す少女の話 河酉颯茲 @satuko0414
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