一般兵士の大戦記〜雨と血が滴る良い漢!〜

五平太

平等に与えられるモノ


「あ〜最高や!至急!増援くれや!」


硝煙臭いジメジメとした塹壕の中でガタイの良い男が相棒の泥まみれのライフルを抱き締めながら狂ったような声を上げハイライトオフの瞳で天を仰いでいた


彼の名前はロードリス・ロドリゲス 何処にでもいる農家の三男坊だ


「ロード…増援なんかねぇよ…」


彼の隣でまたもやハイライトオフの小柄な男がぼそっと言う


「あへ…あへ…リンゲン…交代の日まで後何日…?」


ロードがガンギマリした目でリンゲンを見つめる


「今日を入れて後10日」


「あへ…あへ…」


リンゲンの言葉に絶望にまた現実逃避の様にあへあへと言い始めるだが世界は彼を現実に引き戻す


『来たゾぉ!!!敵の砲撃だぁ!!!!全員耳を塞いで屈めぇ!』


近くから伝令の叫ぶ様な悲鳴が彼の耳に届くと同時に耳をつんざく様な重低音が世界を支配する


屈むのが遅れたリンゲンは次の瞬間全身からトマトソースを吹き出しロードの隣に虚ろな目をしたリンゲンの頭部がドチャ、と音を立てて落ちてくる


「……リンゲン……」


だがこんな事戦場では当たり前だ、さっきまで話していた奴が目を離した隙に死んでいる事なんて日常茶飯事だ、戦場では運の悪い奴から死ぬそれだけだ


「くっそ…何で…」


彼は悪態を付きながら耳を抑え塹壕の中で砲弾が落ちてこない様に必死に神に祈りながら戦場では自慢の肉体もデカいだけの的になる身体を産まれたての子鹿の様に震わせ屈んでいた


彼は英雄になりたかった 彼は昔から身体が大きいため運動の成績が良かった地元でスポーツをやれば敵無しだった。この戦争が始まった時彼は我先にと兵士として志願した。


周囲から持て囃され彼の脳内には英雄になり故郷に帰還する未来像が描かれていた。そして彼は戦争で活躍し英雄に……はなれなかった戦場で与えられるのは名誉を得る機会ではない等しく全てのモノに死が与えられた


人が人を殺す 引き金を引けば人が死ぬ 誰かが撃たれ叫ぶ 誰かが誰かを殺す たった1発目の弾丸によって撃たれた人の人生を無意味な物にする


偉い人がかつてこう言った 全ての人の生には意味があると そんな訳がない 死ぬばそこで終わりだ

ただ戦死と記録されるだけだ 無意味な戦争で死んだ人には価値が無い だがそれではやっていられないから人はそれに価値を見出そうとする 


命をかけて国を護った 勇敢に戦い抜いた 仲間の為に散った 役目を果たした…で?それで飯が食えるのか?喰えないさ死人に口なしって奴だ


笑えるだろ?それでも人は戦場で戦う 家族を護るため 愛する人を護るため 国を護るため 金のため 誰かのため 人の数だけ戦う理由がある


確かに意味の無い事なのかもしれないそれでも俺たちは戦う…いや…戦わなくちゃ行けないんだ


「なぁ…そう思わないか?」


俺は銃剣の切っ先を突撃して来たプロリアの兵士の首に突き刺しながら問いかけているとそいつの仲間が俺の腕を拳銃で撃つだからソイツを捕まえてヘルメットを外してソイツをヘルメットで撲殺する


腕から流れる血で俺の軍服が汚い赤い色に染まる

俺はふと手首辺りを見る 軍服の袖には2つの名前が刻まれている ルイス・アーネスト アンナ・アーネスト 昔の持ち主とその妻の名前だろう 彼もこの無意味な戦争で死んだ アンナは今どんな気持ちだろうか夫は死にその夫の服は今も戦場で知らない奴の血で汚れている


もう一度空をみる 空は今にも泣き出しそうな顔をしている







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