地道な迷宮探索者の俺、家出した姪と初心者攻略を配信する。

星宮華涼

第1話 地道な道

 人生は地道だ。

 いやなことばかりだ。

 めんどくさい契約の中で俺は、人間は生きている。

 俺、怒井康介どいこうすけは才能もなく、対人関係スキルも皆無なダメ人間だ。


 常々思うが、人はなぜ生きるのか?――そんな中二病なことを考えてしまう。

 かつて自分は華やかなものだった。

 でも、人は成長していく度に自分を優しく包んでいた幻想は剥がれ、絶対の法則である現実が見え始め、今は幻想なんてものを考える暇もなく、ただ仕事に打ち込んでいる。

 仕事はいやだ。

 それは自信もっていえる。

 転職を考えるが、自分の趣味嗜好から他でもこの感情は消えないだろうと思った。

 なりたい職業なんてない。

 自分が望むものは幻想しかない。


 あぁ、わかっている。それは夢だ。他人からしたら目に見えないものを追い求めている……子供と同じだ。

 自分の家庭環境は普通だ。

 両親はどっちも健在だったが、ぐれた姉がいる。

 そして勉強より運動のほうが得意だった社会不適合者の俺は弱小の会社の近くに引っ越しして一人暮らしを始めた。

 その会社は小さい規模の迷宮を攻略する会社であり、けっこうブラック気味なものだった。

 歴史でいうなら、二百年前に現れたとされる迷宮。その定義は人工的だが、この世界の人間たちが手を加えず、気づかず、各地に出現する遺跡のことである。


 ダンジョンっていえば、わかってくれるだろう。

 その未知なる迷宮を攻略するという職業、迷宮攻略者が誕生し、指定された迷宮を探索し、遺物を手に入れ、構造を記して地図にし、どんな危険度なのかを確認するのが主な仕事であり、もともとは自衛隊の人達がやってくれていたが、遺物による技術革新によってこの国も前より危なくなり、国家内部に発生した迷宮の対処は自衛隊のやり方、ノウハウを受け取ってそれ専用の会社が建てられたのが始まりだ。


 無論、この仕事は危険であり、武器は国から支給される両刃、黒一色の片手剣や電撃銃がある。

 自分が働いている弱小会社なら、危険度は低く、地道に攻略していくのが、安全であるが、たまに同僚が殉職したりとこの界隈なら結構、当たり前になってしまうこともある。


「ほら、次の案件だ。聞いたぞ、お前の家の近くにダンジョンができたって?」


「あはは、そうですね~」


 未知の地下遺跡が自分の家の近くにできたことで自分に何もメリットなんてない。

 迷宮の内部で出てくるのは遺物以上に代表的なものとしてモンスターが出現するのだ。それこそが迷宮攻略者の死因の9割がモンスターである。


「お前にはメリットあるだろ。期間は一か月、そこから伸ばしていくが……一日の成果、遺物を必ず持ってくることだ。わかっているな?」


「は、はい。了解です」


 はじめに言うが、迷宮攻略者の仕事は非常にきつい。

 攻略する迷宮においてモンスターの発生率が低く、遺物が多く、迷宮が広くもなく狭くもないケースなら、いいが、そんなことは運しだいだ。

 だからこそ、この仕事に希望なんてもたない。

 まずはじめに意識することは自分の安全と仕事の成果に繋がる行動をすることだ。

 別に自分の家の近くに迷宮があったとしても一回会社に来て、出勤簿に記入し、探求道具を持っていくため、何も変わり映えもない仕事内容だ。


 それが俺の仕事、迷宮攻略者だ。


 明日から早速迷宮攻略があるため、そそくさ家へと帰る。

 基本、帰宅は十時。

 コンビニに行き、食べ物を買って帰宅する。


「え……?」


 マンション、しかしオートロックなんてものはないもの。

 二階の一番奥。そこに人影があった。

 一瞬、いやな思い込みで全身が冷ついたが、よく見ると黒いスーツを着た怪しい人物ではなく、扉に寄りかかり、スマホを見るしぐさは今時というか、若い。

 そして淡い桃色の長髪、制服……学生だ。

 そんな人物が自分の家の前にいる理由、そして見覚えのある人物。


宮子みやこ?」


 俺の姉の子供、苗字は変えていない姪、怒井宮子どいみやこ

 小さい頃に会い、ぐれたがお金の問題で姉については両親が愚痴のようにこぼしていた。

 いろんな男をとっかえひっかえしていたようで、予想通り、両親はわからない。


「あ、おじさん。ごめん、母さんが」


 自分に気づき、そう言って小さな紙を差し出す。


 そこには「もう嫌になったからそっちに送る。あんたにはいいでしょ」という文字が書いてあった。

 姉の性格は知っている。

 高飛車、プライドが高く、美人だったからこそ、それを武器にして良い男に近寄り、その恩恵をもらう。

 学生の時はカーストの高い男子、顔がよかったことからいろんな男子とつながった。

 そんな性格であるため、大学に行ったが、男漁りは本能のようにしていき、俺が二十二歳の時に宮子を産んだ。

 そして実家に行き、子供の存在を知らせ、その同情からお金を今もせびっている。

 まだ姉が男漁りをしているのは想像がつく。もう抜け出すことなんてできないだろうし、かかわろうとしない。

 そしてこの手紙、姉の筆跡で書かれている。

 本気なのか、冗談なのか、あるいは両方か……三十八にもなって彼女がいないことなんて見抜いてそんなことを言っているのだろう。

 まぁ、この状況はエロ漫画の導入部分だが、実際にそんな気や度胸なんてない。

 だから会話の最初は状況の確認だ。


「嫌になったって?」


「そのままの意味だよ。ついに捨てられたの。わたしも別にあんな人と一緒にいたいとは思わないし」


「……まぁ、そうだよな」


 その気持ちはすごく理解できる。


「でも、ずっとなんてことはできないから、児童保護に」


「嫌だ。そんな人生の底辺みたいなところ」


「……まぁ、まずは中で話そう」


 少し会話をしただけで姉譲りの強気、我儘が感じられることに嫌な予感をしながら、鍵を開けて、姪を家に上げる。

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