女装趣味の俺に、百合至上主義の義妹ができた件
佳奈星
第1話 胸躍る新生活の始まり?
見たことのない美少女が、そこにはいる。
白を基調とした繊細なレースに包まれ、幾重にも重なるフリルが舞うスカート。陶器のごとく透き通る肌に、朝露をまとった桜のような唇
そして――
「かわいい」
一片の淀みもない澄んだ美声。
もはや罪だ。なぜ存在が許されるのかわからない。それくらいの「かわいい」を詰め込んで凝縮したような美少女は、目の前に実在している。
「かわいいなぁ、俺」
鏡の向こうに映る美少女に、俺はうっかり惚れてしまいそうになった。
無理もないことだ。こんなにかわいい美少女を好きにならないなんて、男じゃない。
いくらそれが、自分自身だったとしても、だ。
「よしっ! これくらいの光加減でいいかな」
ポーズを決め、スマホでパシャリ。
何枚か撮影し、気に入った一枚を選んでエンスタグラムの非公開アカウントに投稿した。
公開はしない。これは俺だけのプライベートな記録だ。
とはいえ、本当に自分に恋をしている訳じゃない。
可愛い女の子の姿が好きなだけで、ナルシストではないのだ。普段の容姿が優れているだなんて、思ったことなどない。
そんな俺でも可愛くなれるのが、『女装』という魔法なのだ。
高校一年生15歳、
趣味は、女装……誰にも言ったことないけど。
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お隣さんの花壇で、リンドウの花がそっと顔を出した九月の入り。
外では涼しさが漂う中、我が家の中ではホットな話題が持ち上がった。
「お母さん、再婚することにしたわ」
息子を一人で育ててくれたシングルマザーである母が、再婚を考えている。
これは俺にとっても、喜ばしい話題だった。
我が家は決して貧しくはなく、むしろ広すぎるマイホームでの母子二人暮らしに、俺はどこか寂しさを感じていたからだ。
「どんな相手?」
「すごく紳士的な人なのよ。そうね、彼との出会いは――――」
好奇心で深堀りすると、母さんはいつも以上に楽しそうに話しだした。
俺も新しくできる義父に早く会いたくなったほどだ。
話を聞いていく中で、一つ気になることがあった。
どうやら再婚相手にもまた一人娘がいるらしい。
義姉か義妹ができるとなれば、それは胸が熱くなるものだ。
兄弟か姉妹には、ちょっとした憧れがあった。
どんな子が来ても、俺には受け入れる準備ができている。
しかし、一つだけ気がかりなことがある。
「そうだ。俺のアレって……大丈夫かな?」
「もちろん。むしろ楓貴を受け入れてもらえなくちゃ、お母さんも一緒に暮らしたくないもの」
アレというのは、俺の『女装』についてだった。
新しくできる家族に、女装趣味がどう思われるかが気になり、少し不安になったが、我が母は俺を優先に考えてくれていたらしい。ちょっと照れ臭くなった。
「あ、でも彼の娘さんにはまだ伝えてなくて」
「できれば秘密に」
「わかったわ」
もしかすると、若い女の子はそういった趣味を毛嫌いするかもしれない。
実際、どう思われているのか知るのが怖くて、エンスタを公開していないのだ。
周りから見られた感想を知らない以上、隠したかった。
自分の好きな「かわいい」が否定されるのが怖いから。
その後、事は順調に進み――ついに、顔合わせの日が訪れた。
とある料亭にて、初対面を兼ねてディナーを楽しむらしい。
そこで、さらに衝撃的な偶然が待ち受けていた。
「初めまして――
物腰が柔らかく丁寧な所作で挨拶をした彼女が、浮世離れした優雅な銀髪を携えた、まぎれもない美少女だったから――だけではない。
「あれ、蛍火の知り合いだったのか?」
「はい。クラスメイトです」
――新しい義父の一人娘が、俺もよく知っている人物だったからだ。
「すごい偶然じゃないか! まさに運命だな」
義父は場を盛り上げようとしてくれているのか、その真面目そうな風貌のわりに、やや大げさなことを言った。
両親もお互いに、子供の顔は初めて見る様子だ。
夏には学校で運動会もあったが、数百人の生徒の一人を憶えているはずもないだろう。
「まさか私も息子の知り合いだなんて、驚いたわ。でも……それなら仲良くなるのも早そうね! 蛍火さん、息子をよろしくお願いします」
「ええ。これから仲良くしましょうね。えっと……兄さん」
落ち着いた雰囲気をまるで崩さない彼女は、上品にほほ笑む。
クラスメイトから突然、「兄さん」と呼ばれて、違和感を拭えないはずもなく……俺は動揺しきっていた。
「あ、ああ」
教室で見る彼女はいつも優等生だったけれど、話したことはほとんどなかった。
ギャップはないはずなのに、イメージ以上の可愛さは、破壊力があったのだ。
それも彼女は、朝比奈蛍火は――クラスで二番目に可愛いと評判の女の子。
俺は、かわいい女の子に目がない。
胸の高鳴りが、激しくて仕方がなかった。
「……これから、よろしく。蛍火さん」
義妹になる以上、正しいと思って口から出た言葉は、まだ不慣れさが目立ったぎこちなさを孕んでいて、彼女の表情を直視することができなかった。
「はいっ、これからの生活が楽しみですね!」
だから――この時の俺は何も知らなかった。
下の名前で呼ばれた時、彼女の眉がピクリと反応していたことに。
……彼女の強烈な本性と、これからとても厄介なことに巻き込まれる羽目になることに。
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