余韻

ももいくれあ

第1話

カノジョは髪の長い女の子だった。

その髪は腰までスルリと、まるで栗毛馬のよう。しなやかで、みんなに好かれるその性格や、生い立ちはまさにサラブレッド。

小学生の頃、そんなカノジョをいつも少し離れたところから、じっと見ていたワタシ。

内気で、小柄で、ショートカット。まるでカノジョとは真逆のタイプだったワタシ。

そんなワタシには、ひとつだけ夢があった。

 それは、とにかく有名になりたくて、有名になったら、フィガロに乗りたかった。

フィガロと言えば、1991年から翌年まで販売されていた日産の小型オープンカー。

コンセプトは、「日常の中の非日常」あまりに人気のため当初8,000台の予定を限定2万台に増やし、3回に分けて抽選するという販売方式がとられたほど。あくまで個人的な意見にはなるけれど、そのフォルムはどこか馬車のような雰囲気を纏い、てんとう虫のようなイメージ。ボディ、ミラー、ホイールなどは丸みが強調されていた。ワタシが小学校の帰り道にいつも見ていたその憧れの車は淡いグレーとホワイトのツートンカラーのやわらかい印象だった。

 小学生の時に見ていた憧れの車。その憧れの車を手に入れるためだけに、ワタシは、ひたすらに、色々なことにチャレンジした。幸い、ある程度の才能があったのか、イラストを描くと周囲から褒められ、金賞や銀賞をもらった。それらは学年ごとに絵画大会でもらえる賞だったが、それでも数名しか選ばれないうちの1人になれることは当時のワタシにとっては誇らしいことだった。

それに気を良くしたワタシは高校2年生の時に、市のゆるキャラの賞レースに応募した。

 結果は佳作。

ただ、2次予選まで残ったうちの1人だった。そのキャラクターはエビをモチーフにした、エビっこ。

着ぐるみとしてはなかなかユニークなデザインだと、snsで一時期話題となって、フォローが500人を超えた。

500人?これって、ちょっとした人でも叶う夢?でも、ワタシには特別で、名誉な思い出として、未だに記念品の下敷きを自宅の部屋に飾っている。


 カノジョ、と言えば、小学生の頃から生徒会役員だったり、中学校では英語弁論大会に出場し、審査員特別賞を受賞。絵を描けば県の展覧会に推薦され、最優秀賞を受賞する。というそれはそれは華々しい成績をおさめ、その容姿もあいまっていつでも周囲の注目を浴びていた。

 小学生の頃カノジョと同じクラスになり話しかけられて以来、ずっと憧れの存在。可愛くて、賢くて、気さくなカノジョは人気者。その人気者が話しかけてくれるからこそ保たれていたワタシの立場。中学生の時、ちょっとしたいじめにあっていた。誰にも内緒にしたまま、ただただ耐えて学校に行っていると、ある時カノジョが話しかけてきて、ワタシに任せておいて、といってなんらかの働きかけをしてくれた結果、ある日からパタリといじめはおさまった。

 そのことをきっかけにワタシの中でのカノジョの存在価値、存在感はどんどん膨らんでいき、気持ちは高まるばかり。これはもしかしたら恋?しているのかもと一時期疑うほどに、カノジョのことばかり考えるようにり、カノジョへの想いでココロも頭もいっぱいになっていった。もはや、カノジョなしでは生きている意味がないくらいに、気持ちは傾いていて、寄り添っていった。

 本当にどこをとってもワタシとは比べものにならないカノジョだったが、カノジョはいつでもワタシのそばにいてくれた。それが、とても不思議だった。カノジョによると、ワタシはカノジョの癒しだと言う。見ているとどこかホッとするそうだ。

おっちょこちょいで、忘れん坊で、慌てん坊で、オテンバで、頼りないワタシ。コバンザメのようにカノジョにいつもくっついているワタシ。そんなワタシが放っておけないとカノジョはそう言ってくれた。


 中学までは地域別区分けだったからその立ち位置は安泰だったが、高校となると話は別だった。カノジョは当然、学区で一番偏差値の高い学校に進学した。ワタシは、というとまぁ、変わり映えのしない学校に入学した。学校が変わってもカノジョとワタシは毎週の様に学校帰りに会ったり、電話で話したり、今までと距離感も気持ちもちっとも変わらなかった。

 その後、当然のように大学に進んだカノジョとかろうじて周りに褒められたことがあるイラストを頼りにデザインの専門学校に進んだワタシ。それでもワタシとカノジョは月に何回か電話したり、月に1回位のペースで会っては食事をしたり、どこかに出かけたりしていた。そうやって、なんとなく、切れることなくキモチ的にも物理的にもワタシとカノジョは繋がっていた。















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