第5話
年が明けて寅年になった。寅月寅日寅時が彼の示した刻限である。
私の孤独な調査によると、満功上人の祖母は虎という名前で、たいへんな美人だったということがわかっている。そして満功上人の父、すなわち亀に乗って最愛の人を迎えに行った異国の男の名は、
一月十七日の夜明け前。私はダウンジャケットをしっかり着込んで家を抜け出した。ほんのり雪が降っていて、空気はどこか湿っぽい。
私は今日この日まで、すでに判明したガンザヤトの場所を、彼に言わなかった。彼の願いを叶えると、私の願いは決して叶えられないということがわかっていたからだった。
「やぁ、おはよう」
いつもと同じ調子で挨拶をする彼はしかし、もうほとんど老人の域に入っていた。フクくんからフクさんへ。黒髪が白髪へ。
腰の曲がったそんな姿を見れば、私の気持ちも冷めるだろうとどこか期待していたが、残念ながらそんな気配はなかった。
「これから、ガンザヤトへの入り口を教えるけれど……」
その代わり、私も連れていってほしい、と言った。フクさんは少しの躊躇いを見せた後、黙って首肯する。
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