第3話

 夏が終わって秋が来ると、その涼しさが我々の焦りを募らせる。ガンザヤトは未だ見つからず。


 そしてフクちゃんは少し……否、かなり、大人になっていた。


 少年から青年へ。急速に背が伸びて声が低くなる。もはやフクくんである。


 彼の姿はどうも私にしか見えていなくて、彼の周りだけ時の流れ方が違うようだった。私たちは竜宮城にいて、彼だけが陸地に取り残されてしまったかのように。


 隊員のいない探検隊の隊長である私は一人で、小学校裏を流れる水路のそばにいた。この水は深大寺から溢れて神代水生植物園を潤し、ここを通って野川へ注ぐ。小学校裏でだけ蓋の付いた暗渠になっている。


 学校から直接野川を目指すのであれば、このコンクリートの蓋をゴトゴト踏み鳴らして行くのが最も近道である。


「竜宮城といえば」


 はじめて会った時よりも肩幅が広くなったフクくんに、私は言う。


「深大寺の由来に、亀さんが関係しているらしい。じいじが言っていた……このあたりに住んでいた豪族の娘と恋に落ちた異国の男。しかし娘の両親は二人の交際に反対し、娘を沼地の島に閉じ込めてしまう。男は深沙じんじゃ大王に祈る。その祈りが通じて大きな亀が現れ、男を娘のもとへ連れていく……で、二人の間に生まれた満功まんくう上人しょうにんが深沙大王を祀って建てたのが深大寺」


 ワタシのうろ覚えな説明を、しかしフクくんは大変興味深そうに聞く。


「ボクはその、じいじという人に話を聞いてみたいな」


 でも、それは叶わない。祖父は我が家にて健在だけれど、フクくんの方が、野川から出ることができないのだ。

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