第26話 未成年者飲酒事件
類は友を呼ぶ。悪いことは連鎖する。事件は脱税事件だけでは終わらなかった。
「音楽教室脱税事件」が一段落した一月ほど後に、今度はオゾンホールにおける「未成年者飲酒事件」が新聞やテレビや週刊誌などで報道された。茜が企画した「オゾンホールシアター」での「サンドウイッチ・パーティ」で未成年の男女が酒を飲んだのである。
それは、近頃売出し中の人気俳優を抱えた地元のマイナー劇団を呼んで前衛芝居を上演した後の打上げパーティでのことだった。追っかけの若い女の子達が人気役者を囲んで握手をせがみ、そのうち、生意気盛りの男女数人が会場のジュースだけでは物足りなくなって、自分達で缶ビールを持ち込んだ。会場は盛大に盛り上がっていたし、大学生やOLも混じっていたので、茜は、主催者としては少し困るなあ、と思いつつも、跳んで行って取り上げる訳にも行かなかった。つまり黙認した形になったのである。流通小売業の有名企業である「スーパーオゾン」主催のパーティで高校生たちが公然とビールを飲んでいた、ということで問題が大きくなった。
記事は辛辣だった。
「オゾンシアターにおけるいかがわしい芝居と不純なパーティ!」
「高校二年生の普段は実におとなしい女子生徒が、赤い浮かれた貌で門限を過ぎて帰宅した。母親が問い詰めたところ、パーティで酒を飲まされた、と返答した。男の役者たちに手まで握られた、と告白した生徒も居る。スーパーオゾンでは未成年の子供達を集め、芸能人相手に酒を飲ませて、乱痴気騒ぎをさせるのか!」
「大体、こういう問題は世の人々の前に、明らかにしなければ駄目なんです」
テレビの画面でそう訴える中年の主婦も居た。
茜は青ざめた。
この問題の処理は茜には無理だった。石田室長の指示で対応したのは苦情処理専門の調査部長と上司の係長だった。
「テレビに新聞・・・」
「新聞に週刊誌・・・」
二人はそう呟きながら一緒に部屋へ入って来た。茜はもう一度、ことの詳細を話した。
「高校生を集めたパーティでアルコールか!役者共がお触りか!真実に何と言うことを・・・。ちょっと出来るかと思うと・・・今の若い奴は何を考えているんだ、秋商戦たけなわの選りに選ってこんな時期に・・・」
係長は茜に未だ何か言いかけたが、途中で急に言葉を切った。
「もう、いい。もう良いから、君は帰れ、家に帰れ。当分自宅謹慎だ。いいか、誰にも会うな!何も喋るな!記者やレポーターが押しかけて来ても居留守を使え!・・・いいな!此方から連絡するまで自宅待機だ!」
茜は一言の弁解も出来ないまま会社から真直ぐに自宅に戻った。
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