第19話 興味深いストリッパーの話
健二は抱き合うようにしてベッドに横たわった。
「君たちはいつも同じメンバーで踊っているのか?」
「そうね、決まったメンバーは六人だけど、他に地元の興行主が連れて来る若い娘が三、四人加わるわ。最近はAVから来る娘が多いから、彼女たちはM字開脚でも大股覗きでも、何でも悪びれずに大胆にやるしね。大体、今の娘はストリップに対して嫌悪感や抵抗感があまり無いのよね」
「一日に昼と夜の二回公演じゃかなりきついんじゃないのか?」
「それだけじゃないわよ。夜の舞台が跳ねた後にグランド・クラブなんかでヌードダンスを踊ることもあるのよ。流石にすっぽんぽんにはならないけど、でも、最後にバタフライも外してヘアくらいは見せないとお客が納得しないから、そういう処へは若い娘を出させるの。彼女たちに修行の場数を踏ませる訳ね」
「なるほど・・・」
「それに、お金も欲しいし」
「結構稼いでいるんじゃないのか?」
「ワンクール十日間で契約するんだけど、ギャラの平均額は十日で三十万円、トップクラスの踊り子で百万円程度ね。ただ、月に九十万円と言っても、そこから衣装代やレッスン代、宿泊費や交通費を払わなくてはいけないし、公演が終わって、翌朝地方の劇場に移動して、昼から舞台に上がるなんてこともザラだから、決して高いとは言えないわ」
「高くは無くても、潤ってはいる?」
「キャリアや集客力、或いは、知名度などで変わるけれども、デビューして間もない新人なら一般企業の新卒初任給より少し多いくらいかな。手元に残るのは雀の涙ほどよ」
「それでも、止めずに続けるのは何故なんだろう?」
「あのライブ感や高揚感が格別なのよ。一度味わったら虜になっちゃう。ステージの上での高揚感に魅入られて踊るあたしたちの姿に客もまた酔い痴れるのね、きっと」
「だから、最近では“スト女”まで現れたのか?」
「お客さんの前で着ている物を一枚一枚脱ぎ捨て、躰も心も素っ裸にして、キレキレのダンスを披露する踊り子の真剣さやガチンコで舞台に挑んでいるあたしたちの姿に本気度を味わって感動するんじゃないかな。尤も、踊り子の方も衣装を一枚一枚脱ぎ捨てて行くうちに心が解き放たれて行くのよ。全裸になる頃にはもう完全に心身ともに解放されているわ。あの解放感は女の裸をセックスの対象としか見ない男性には解らないだろうなぁ、きっと」
健二は思った。
日常には世知辛い現実がある。会社ではワンマンな上司から執拗なパワハラやセクハラを受け、派遣社員と言うだけで辛い思いをしている。会社のトイレで秘かに泣いているかも知れない。独身で一人暮らし、彼氏は欲しいが今のところ宛ては無い。将来の不安も在るし時には生きるのも嫌になる。全てを投げ出してしまいたくなることもある。それでも缶チューハイを握り締めてストリップを食い入るように見ていると、エネルギーを貰えるのか?どんなにムカつくことがあっても、気持がリセット出来ちゃうと言うのか?魂が震えるほどに怒真剣に踊る踊り子を見て、これは自分を解放する行為だと、感動するのか?・・・
「男性のお客はあたしたちの緊張感に胸を撃たれるんじゃないのかなあ?それが又あたしたちの醍醐味でもあるんだけどね」
「醍醐味?」
「うん。ストリップの舞台構成は踊り子が自分で全部考えるのよ。だから、袖の取り方や仕草、表情や衣装など、踊り子によって魅せ方が全く違うしみんな工夫しているのね。そこにストリップの奥深さがあるし、だからこそ女の色気で男性のお客を勃起させることができる。お客はAVなどの映像を観るよりも一体感を味わえるし臨場感も感じるわけよ」
「君たちは全国を廻って興行するんだよな?」
「そうね、ほぼ全国を廻るわね。一カ所に長く滞ると飽きられるし、飽きられたらお客は入らないし興行収入も上がらない。だから、全国を渡り鳥よ」
「人気ランキングなんてのも有るって聞くけど?」
「何処の誰がランキングを点けているのか知らないけど、でも、人気が無いと当然お客が入らないしギャラも上がらない。羽振りも効かない。人気はとても大事だと思うわよ」
「と言うことは、やはり、人気の有るショーとそうで無いショーとが有るってことだな」
「ずいぶん昔になるけど、“酒井百合子とノーパンティショー”と言うのが凄い人気になったことがあるの。踊り子が全員、最初から最後まで、一糸纏わずに素っ裸で躍ったのね。それが評判を呼んで、その後はどのショーもみんなバタフライも着けなくなって、どんどん卑猥になって行った。もっともその分、公然ワイセツ罪で警察に捉まることも多くなったけどね」
「そうだな、警察に捉まるわな」
「ストリップは法に触れるので何回かは捕まるわ。不特定多数の人に性器を露出するということでね。踊り子は二回捕まるまでは実刑にならないという噂も有るけど、初めての逮捕では大体四十八時間で釈放されるわね。去年、あたしの知合いも二人捕まったわ」
「やるのは勝手だけど、辞める時は自分の自由では辞められない、って噂を聞いたことがあるけど真実なのか?」
「ええ、辞められるのは事務所が引退を認めた時だけ。それ以外は“飛ぶ”と言って逃げるしかないのよ。その筋の人が握っている世界なので、身動きが取れなかったり、抜けられなかったりする。挙句に、借金を背負わされたり、セックス産業に売られたりして、若い娘が思うほど生易しい甘い世界ではないわ」
話している内に、健二は胸苦しくなって来たが、彼女の方は、何時の間にか、すやすやと寝息を立て始めた。ノーメークの素顔も整っていてチャーミングだったが、思いの外にあどけなかった。健二は、自分と同じ歳くらいかと考えていたが、ひょっとすると、俺より一つ二つ下かも知れないな、と思った。
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