今日のお客さまは”異世界帰り”らしくて――

渡貫とゐち

オードブル#掌編「発見!」


「あっ、堂々とキスしてるカップルがいる!!」

「やめろ指を差すな、ああいうのは見て見ぬフリをするんだよ!」

「……いいなあ」

「しないからな?」


 腕を組む彼女とのキスが嫌なわけではなく。

 きちんと誤解を解いておかないとこいつはすぐに拗ねるから面倒だ。

 面倒くさいのが、可愛いのだから否定しているわけではないのだが。


 それにしても駅のホームで堂々と。いやまあ、いつどこでなにをしようが本人の自由と言えばそうなのだが。もちろん人が不快に思うことをしてはならないが(不快の加減が他人の主観なので、極端なことを言えばなにもできず、視界に入ることもできない、なんて結果にもなりかねない)――全裸になる、類のものでなければいいのではないか? キスくらい大目に見てもいい。してもいいが、こっちから騒ぎ立てるのはさすがにマナー違反だろう。


 向こうが文句を言わずとも、気を遣うべきなのだ。


「わぁ、ぶっちゅーなキスだあ」

「だからまじまじと見るなって……え?」

「うわー、長々とキスしてるー、熱烈ちゅーじゃんっ」

「いや、え、気づいていない? キスどころかあのふたり、足が浮いてない?」


 カップルの両足が、地面から離れてるように見えているのは俺の見間違い!?


「舌まで入れてる!」

「浮いてるって! ほらっ、やっぱり浮いてるじゃん! 浮いていることよりキスが目に入るの!?」

「キスしてる!」

「浮いてる! えっ、つ、翼まで生えてるッ、白い羽根が飛び散ってキスどころじゃなくない!?」

「キス見てたらしたくなっちゃった……ねえ、しよ?」

「待ってあのふたりどっか飛んでいっちゃったけど!?」


「キス! キスしたいのっ! 変なこと言って誤魔化すなーっっ!」


「違うわ! あのふたり、キスしながら飛んでいったんだってば!! ――キスどころじゃねえよ!」

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