shino's novel 企画参加11/26

shino

There is NOTHING.





 ――はい。私が、殺しました。特に理由はありません。ただ、無性に、誰かの命を消してやりたくなったのです。



 検事の人に動機を説明しても、訝しげにするだけでした。周りの人達もやはり揃って同じ顔で。人を殺すのに崇高な動機が必要なのか? 私に言わせれば、何にでも理由を付けたがる人間の心理こそ、理解の外でした。

 こんなスタンスで居続けるもんだから、そりゃあ判決も相応なものを下されるに決まっています。無期懲役でした。傍観席の真ん中で被害者遺族が「死刑にしろ」と泣き叫んでいる姿は、私には些(いささ)か滑稽に見えました。

 だから、ここでやったら面白いと思って、スライディング土下座をしてみたんです。けたけた笑いながら。警察だか警備員だかが私を急いで立たせる中で、被害者遺族だけでなく皆が何か叫んでいました。裁判長がそれを注意する声も聞こえてきて。とにかく膝が痛かったです。





 ――そうですね。この、柄に刃物をしまえるやつ……あ、ジャックナイフって言うんですか。これは常に持ち歩いていました。街を歩いていてふと誰かを殺したくなった時、迷わないように。



 私は現行犯逮捕でした。凶器の確認をしている時の現場検証でも、野次馬が何か言っていたような気がします。その後すぐに現場はブルーシートで覆われました。その後、その場での尋問と同じ事を、取調室でも尋ねられたんです。警察ってのは、どうやら“共有”というものができないらしいんですよね。ふふっ、おめでたい組織ですよね。

 だから、「それは現場でさっき答えましたよ」と笑いながら教えてあげたんです。「共有は大事ですよ。良かったですね、これでひとつタメになりましたね、おめでとう」と。この時の……、名字何だっけな、何ちゃら刑事の怒った顔もまた滑稽でした。





 ――……………………。



 私は学校では目立たない存在でした。特にいじめられもせず、当然いじめる側でも無くって。友達なんて存在はそれこそ論外で、教師に指された時以外では本当に何も喋らない、孤独な学校生活を送っていました。

 放課後、図書室で本を読んでいる時に、学年一頭が良く容姿端麗な美少女から声を掛けられる――などというライトノベルみたいな展開も全く無く、吹奏楽部の奏でる金管楽器の音色と、野球部の気合いの籠った掛け声を聞きながら本を読んでいたら、気づけば3年が経っていました。

 私には、何も無かったんですよね。





 ――だから人を殺めたくなったのかもしれませんね。



 刑務作業の休憩中、同じ刑務所に服役している知りたがりの中年男性に、事の経緯を根掘り葉掘り聞かされ、仕方なく答えていた。高校の時の事まで聞いてくるとは思わなかったが。でも、振り返ることでなんだか自分の事を今更ながら知れた気がする。

「何にしても、殺しは良くねえやな」

ただ、最後にその男性に言われた一言で、私の人生全てを否定されたような気がした。

 ところで、ここには食事の時に拝借したフォークが1本。何ちゃらナイフは流石に無い。そしてこれから私がする行動にも、何の意味も無いのである。

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