第12話 清楚なサキュバスの町その3 本能のままに

「トーマ、外が騒がしいですぞ」

眠りについてまだ1時間も経っていない、外から喧騒が聞こえる。


「うーん、厄介事だろうなぁ…どうするかなぁ…」


「コアちゃんとマスターの様子見に行ってもバチは当たらないですぞ!」


「マスターは大丈夫だろ、ただコアちゃんは…たまにはカッコつけるか…明日本屋行けるかな…。」

準備をして外に出るとだれもいなかった。


男達の声がしたと思ったが気のせい、なハズはない、マスターのカフェに行ってみよう。

店には灯がついていた、ドアを開けると2人の男性が酒を飲んでいる。


「いらっしゃい、初めての顔だね、酒しか置いてないけど飲んでいくかい?」


マスターの表情は少し固い

「とびきり強いのを頼むですぞ!すぐ飲めるやつ!」

「僕はお酒だめなので水で」


「おいおい!ペットの方が酒飲んでご主人様は水だってよ!笑わせる腑抜け野郎だぜ!」


「いやー昨日飲みすぎちゃって…いつもは飲みますよ?今度勝負してみます?」


僕は怒らせないように、相手のペースで話をした。

「面白い兄ちゃんだ!これから若いサキュバスと遊びに行くんだ、一緒に行くか?この近くに山から降りてきたばかりのサキュバスが住んでるホテルがあるんだ」


ポメヤは黙って酒を飲んでいる。

「でも帝国から怒られませんか?契約で帝国に店を出すからこちらには手を出さないと聞きましたが」


「俺たちは帝国兵だからな!構わねぇよ!最近近くで演習があってよ、その帰りに寄ってみたら結構な数のサキュバスがいるじゃねぇか、そりゃ遊ぶってもんだぜ!」


「へー、演習はいつまでですか?ここには大勢で?」


「今終わったとこだよ!俺たちは片付けがあったから本隊とは別なのさ!俺たち含めて5人だな!

誰も好き好んでこんな遠くまでサキュバス抱きにこないだろ?帝国に店があるんだからよ!だから今日かぎり、遊ばせてもらうぜ!」


「もう眠いですぞーお会計お願いですぞー。領収書もー。トーマ、コアの元に行きますぞ、きっと寂しがってますぞ。」


「そうだな、猫をホテルに置いたままじゃ可哀想だよな、すぐに帰ろう。」


「ペットがペット飼ってるのか?傑作だな!気が変わったら戻ってこいよ、一緒に楽しもうぜ。」


「その時は是非」


マスターにお金を払い領収書を受け取って外に出た。

領収書の裏にはコアの家への地図が書いてある。

急ごう。


コアの家に行く途中でポメヤが呟く。


「ガラじゃないですな、いつもなら逃げてますぞ」


「いや、今回は命の危険がほぼ無い、コアちゃんを見つけて明日まで隠れてろって忠告するだけだ。面倒だったが帝国兵にも気が付かれてない。」


「あそこですぞ!」


ホテルの部屋番号を確認し、急いで向かう。

階段をポメヤを抱えて走り、部屋の前に到着した。


ドアには鍵がかかっていない、間に合わなかったか…。


ドアを開けると…


「「え?」」


バスタオルで身体を拭くコアちゃんが立っていた。

「トーマさんとポメヤちゃん?どうしたんですか急に…」


「コアちゃーん服ー」


「あっ!今着るので少し外で待ってて下さい!」


「僕達がここにいれば兵士は別の部屋にいきますぞ!間に合ったですぞ!」


数分後扉を開いたコアちゃんの髪の毛はまだ濡れていた。とても艶っぽい。

「帝国兵が街に来て若い子を襲うらしいですぞ!無事で良かったですぞ!」


「なんで急に!今までそんな事無かったのに!」


「演習の帰りらしいですぞ!あのクソ帝国兵!今度あったらバケツに沈めてやる!」


「ポメヤちゃんは頼もしいね!トーマさんは何か飲みますか?コーヒー淹れてきますね!」


コアちゃんは席を立ち台所へ向かった。

「ポメヤ、もう良いだろ、お前が気が付かないわけ無いだろ?」


「まだ分からないですぞ!馬鹿ばっか言うなよゴミ!」

毎回言い過ぎだよな…


するとコアちゃんがコーヒーを持ってきて隣に座る

「トーマさんって筋肉ないですよねー、鍛えたりしないんですかー?」


コアちゃんは僕の腹筋を触り、服の中に手を入れてくる

「痩せすぎですよー、お腹プニプニー、下もプニプニですかー?」


僕はズボンに手を入れてくるコアちゃんの手を跳ね除け…


「間に合わなかった…ごめんね。」


と謝った。


コアちゃんは完全に目が蕩けている、

「何で謝るんですか?」


「この部屋に入った時のメスとオスの匂い、シャワーは血を洗い流してたんだろ?裸を見られるのが恥ずかしいと言っていたのに平然としていた。つまりもう帝国兵が来た後だったんだ、多分僕達が自分のホテルを出る頃にはもう…」


ポメヤは下を向いている。


「なんだ、気がついてたんですか?すんごく気持ち良かったんですよぉ!急に入って来た時はビックリしましたけどぉ、もう全部どうでも良いくらい気持ち良かったんですぅ。」


もう歯止めが効かなくなっている、本能にのまま、理性なんてほとんどない、どうやってオスを捕まえるかしか考えてない


「コアちゃん!白馬の王子様は!?熱い恋はどうするんですぞ!」


「白馬の王子様ならさっき来ましたよぉ、汗の匂いの筋肉質なオジ様ぁ、すごかったんですよぉ、初めてだって言うのに容赦なくてぇ」


紅潮した顔でコアちゃんは続けた。


「トーマさんも私の王子様になって下さいよぉ、いっぱい気持ち良い事しましょうよぉ、私なんでも受け入れますよぉ」


「ポメヤ、帰るぞ」


「ハイですぞ…」


「えぇ!帰っちゃうんですかぁ?私はもうこんなになってるのにぃ」


僕たちは静止を振り切り、ドアを閉めた…。

ホテルの廊下を少し進むとカフェで出会った2人とすれ違った。


「なんだよさっきの兄ちゃんじゃねぇか!結局来たのか!抜け駆けかよぉ!なんだかんだ言っても男はこうでなくちゃな!」


「すみません、我慢出来なくて、」


「抜け駆けとはやるじゃねぇか!じゃあな!飲み比べの件覚えておけよな!」


「はは、楽しみにしてますよ」


男達が部屋に入ってすぐ、ホテルには卑猥な音と声がこだましていた。


「帝国…本当に許せないですぞ…」


「アイツらはゴミだがやっている事はサキュバスに精力の提供をしているだけだ、店で金して抱く感覚と変わらないんだろ、人間から見たらサキュバスはそう言う対象なんだよ、この街に来た時の僕みたいにね…」


「トーマ…泣いてるんですぞ?」


「馬鹿を言うな、普通の事なんだ、世界にはこういう事が数多くあるだろ、普通の事なんだ。

本能のままにって事さ。」


「まあそういう事にしておきますぞ、一応カフェのマスターには報告を。」


「いや、いいよ、いずれ分かるさ。というか僕達があの店に行った時点で薄々分かってただろう。多分遅すぎたんだ、帰って寝よう、明日出発だ。」


ホテルまで無言で帰り、ベッドに潜り込む。

ポメヤは夜中にゴソゴソと抜け出してどこかに行っていた。きっとカフェに行って来たのだろう。


翌朝、久しぶりに見送りがない出発だ、誰も起きていないようだった。

ふと入り口の看板に目をやると、一人と一匹の優しい旅人へと書いた袋が下がっていた。


中にはジュースと軽食が入っている。


これ…ラブジュースじゃないか…媚薬入りじゃないだろうな?


僕とポメヤは次の街、人魚の町を目指す。

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