2024年7月 ホラー冒頭博覧会 「人で優しい生徒会長が神社の裏の杉の木でしているのは」

主催者:

 南雲皐

概要

 《企画詳細》

・提出作品について

 上限40字のタイトル

 最大400字のあらすじ(空白・改行込み/任意)

 下限3,000字〜上限5,000字(空白・改行込み)


 ジャンルがホラー(※)であること

 完全新作であり、内容に関して公にしていないこと

 連載を意識したものであること(3/19追記)

 なろう投稿のためR15表現までに留めること(3/19追記)


 《スケジュール》

・参加者募集期間

2024/03/16(土) 21:00

 〜2024/03/18(月)23:59

・原稿提出期間

2024/07/06(土)12:00

 〜2024/07/20(土)12:00

・開催及び投票期間

2024/07/27(土)12:00

 〜2024/08/17(土)12:00

結果発表は8/17中を予定しております。


順位:

 10位/16作品

 06:美人で優しい生徒会長が神社の裏の杉の木でしているのは

 1位票:1/2位票:1/3位票:0/いいね:6

 総合13ポイント

 7怖いポイント


題名:

 06.美人で優しい生徒会長が神社の裏の杉の木でしているのは

本文:

 誰にでも優しい、美人でスタイル抜群な生徒会長は、副会長でもある、私の幼馴染のナイスガイな彼と、全校生徒がみとめたお似合いなカップル。

 でも、幼馴染のナイスガイは、美人な生徒会長よりもおたくでヘタレで胸ぺちゃな私にいつもちょっかいを出して来る。そんな私をじっと見つめる生徒会長の目は笑っていない。まあ、でも、男と女の関係なんてそんなもんだろうと思って適当にやり過ごしてきた。

 しかし、ある日、私は生徒会長が秘密にしてきたストレス発散の方法、堪忍袋の場所を知ってしまう。生徒会長の、私に対する嫉妬の炎が、夜の闇の中、神社の裏にあるひとけのない空き地にそびえる大きな杉の木に、カーン、カンと響く。


 ──カサ、カサ。

 カサッ……

 カサッ……


 あの子に気づかれないよう注意しながら、足元に生えている雑草をそっと踏みしめて歩いている、はずなのに。私の耳には、図書館の児童書コーナーで大騒ぎしている子供たちの喧騒のように、はっきりと草のつぶれる音が聞こえてくる。


 落ち着け、大丈夫。

 彼女に対してこちらは風下側だから、においや音は届かない。

 はず。


 ドックン、ドックン。

 ドク、ドク。


 お祭りでたたいている太鼓のような、大きな心臓の音が身体を通して頭の中に流れ込んでくる。


 すーはー、すーはー。

 大丈夫、大丈夫。


 心臓の音が外に漏れることなんかない。

 はず。


 じめっとした嫌な感じの汗が、首筋をつつーと流れて背中の下着に吸い込まれていく。それでも吸いきれない汗は、何とも言えない体のベタベタ感となって体にまとわりつく。

 虫よけと制汗剤を目いっぱい体中に塗り込んできたから、どうせ家に帰ったらシャワーで全身を流すだけだ。もう少しだけ我慢しようね、わたし。


 大丈夫、大丈夫。

 なむあみだぶつ、なむあみだぶつ。

 なんみょうほうれんげきょう。


 私は、自分が思い出せる全部のお経を、声に出さないよう心の中で大声でつぶやきながら、一歩、一歩、人がほとんど通ったことがないような草ぼうぼうの道を進む。


 目指すは、神社の裏の大きな一本杉。

 昼間でも木々に囲まれて日が差し込まない薄暗い場所。

 その一本杉に、五寸釘で打ち付けられている使い込まれて崩れかけの藁人形。


 ──わたし、なんでこんなことしてるんだろう。


 夕闇がせまる塾帰りの道すがら。

 大通りから外れて、人気のない神社への道。


 その道を通って神社に向かっていく人影を見て。

 まさか! あの人が?

 そんな思いで、そっと後をつけるようにして神社の裏の一本杉に向かう。


 一本杉に近づきながら、昼間見つけた一本杉の小さな広場をふと思い出す。

 思い出すとそれだけで気持ち悪くなる風景だった。


 ワラ人形が打ち込まれた杉の木の裏側には、注意しないと気が付かないぐらいの、草の生えていない場所がある。なぜ草が生えていないのか、いや生えていないのではなくて、草の生えていた地面を掘り返したから、そのあたりだけ真新しい土になっている場所。

 その真新しい土には、木の枝を折って作った棒が、まるで墓標のようにたくさん地面に突き刺さっている。それらの墓標一本一本には、生前の犬や猫のものであろう首輪がひっかけたままに。いったいどれだけの犬や猫がその木の棒の下に埋まっているのか、考えただけでも恐ろしい。


 まさか、あの子が、あの人が、そんなことをしているなんて思いたくない。


 そして極めつけは、あのワラ人形。

 人形からはみ出ている長い髪の毛は、多分人間のものだろう。

 その髪の毛の持ち主はいったい誰か?

 なんとなく嫌な予感が頭の中をかすめる。


 私が使っているブラシ、学校に持って行った時に貸してほしいと熱心に頼んできたのも、あの子。まさか、とは思うけど。

 借りたものはキレイにして返すのが基本だものね、そういって微笑んでいた。


 そう、全部嘘だと言って。

 私の勘違い。


 私は頭の中の妄想を吹き飛ばすように、ぶんぶんと頭を振る。


 カーン、カン。

 カーン、カン。


 誰かが金づちで何かをたたいてる音が、もうすぐ闇になる森の中で重々しく響く──。


   ◇


「祥子さん、プリント出しました?」


 学級委員長であり、生徒会長でもある学校一の人気者、小笠原文子さん。彼女が柔らかい微笑みを浮かべながら声をかけてくる。

 最新の乙女ゲームをダウンロードして第一章までやり切ったおかげで、目の下にクマを作ってのそのそと教室の後ろから滑り込んだ私、神田原祥子にはあまりにまぶしい笑顔だ。 


「ごめん! いいんちょ。もう一日待って」

「あはは。しょーこ、またゲームで徹夜か?」


 両手を合わせて委員長に頭を下げて必死に弁明している後ろから、私の幼馴染でナイスガイな田中太郎が非情にも追い打ちをかける一撃をあびせる。


 ち! 小さい頃はお前のおもらしを黙っててやったのに。いつのまにか、ぐんぐん身長が伸びたとおもったら乙女ゲームの主人公のようなナイスガイになりやがって。いつか悪役令嬢になって、夜中に寝込みを襲ってやるから。その時は恐怖でおもらしすんなよ。


「そ、そうですか。しかたないわね。先生には上手くいっておくから、早く提出して頂戴ね」

「良かったな、しょーこ。いいんちょーが優しくてさ」


 委員長は、しかたないわね、という風に肩をすぼめる。

 ナイスガイは、サムズアップを私に向かってぐいと向ける。


「ところで、田中君。生徒会の打ち合わせがあるのだけれど、お昼休みお時間良いかしら?」

「もちろん良いっすよ。しょーこのダメダメをフォローしてくれる委員長の頼みを断れるわけないじゃないっすか。それに俺、一応、生徒会長の補佐ですもんね」


 おたくでヘタレで、そばかす全開。しかもゲームのし過ぎでメガネ女子。そんな私を幼馴染というだけで全力でフォローしてくれる学校一のナイスガイは、女子からの圧倒的な信任票で生徒会副会長を拝命するはめに。


 学校一の美人でスタイル抜群、さらに誰にでも優しい才女な文子さんと、さわやかナイスガイな太郎くんの、生徒会ツートップは全校生徒公認のスーパーカップルでもある。

 会長と副会長が二人で生徒会室に向かうときには、廊下で騒いでいる一般生徒諸君は道を開けるのだ、ああ、まるでモーセが海を割くように。


   ◇


 ──憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。

 わたくしの太郎くんの心を独占しているアイツが。


 おたくでヘタレで、そばかす全開で、しかも、女子だったら大事なポイントであるはずの胸だってわたくしのように大きくないし。

 メガネをかけて太郎くんの関心を引こうとしてるところなんか、もうー、なんて嫌なヤツ。


 乙女ゲームで徹夜して宿題のプリントも決められた日までに提出できない、人生の落伍者じゃないの。


 それなのに、なんで太郎くんはあの女の話ばかりするのかしら。

 ああ、憎たらしい。

 じゃまな女。

 まるでドロボウ猫。


 あなたは私たちの宝もの。

 誰にでも優しい子に育ってね。

 誰にでも好かれる輝く子になってね。

 誰もが憧れる、誰もが目指す、そんな力あふれる子に。


 お父さまもお母さまも、わたしが物心つく頃から多大な期待を押し付ける。

 ううん、わかる。

 親は子供にたくさんの願いを押し付ける。

 それが愛情だと思って。


 自分たちが出来なかった、してこなかった思いを全部子供に託そうとするの。


 だから頑張った。

 親の期待に応えようと頑張ってきたの。


 でも、わたくしだって神様ではない。

 頑張ってきた、そのぶんのストレスをどうするのか、は教えてくれなかった。


 がんばれ、がんばれ、まけるな、まけるな。

 頑張れないときや、負けそうなとき、疲れた時は、どうしたら良いの?


 お父さまもお母さまも、だれも教えてくれない。

 負けてもいい、頑張らなくてもいい、休んでもいい。

 そんなこと誰も言ってくれなかったわ。


 ──あはは。


 だから、ここの場所を見つけた時はうれしかった。

 誰にも見つからない場所。

 わたくしの堪忍袋。


 さわやかな笑顔に疲れたら。

 勉強のストレスがたまったら。

 お友達の対応にイライラしたら。


 人間に飼われてる犬や猫は気がつかないの。

 人間の笑顔の下に隠された狂気にはね。


 人間から与えられた餌に毒が入ってるなんて絶対に思わない。

 うふふふ。

 そうやって、口から泡をだして倒れる姿を見るの。


 すーっとした。

 そうか、こうやってストレスは発散すればいいんだ。

 大人は教えてくれないけど、わたくしは見つけた。

 ほほほほ。


 ──それと、同じね。


 ドロボウ猫。

 わたくしの太郎くんにちょっかいを出す、メス猫。

 あいつも、同じ。


 あいつの櫛を借りて、あいつの毛髪を盗む。

 あとは、藁人形に仕込んで。

 うふ。


 これで太郎くんはわたくしの、わたくしだけの。


   ◇


 カーン、カーン。


 背の高い雑草たちのおかげで、私のすがたは向こうから見えていない。

 私が見たもの、それは。


 呪いの藁人形に一心不乱にくぎを打ち込んでいる、生徒会長の後ろ姿。


 ──ぷるるる!

 ぷるるる!


 暗やみの中、静寂を破るように鳴り響くスマホのライン着信音。

 スマホ画面に表示される母から頼まれた買い物リスト一式が、まばゆいばかりに私の目に飛び込んでくる。


 林の中でひときわ光るスマホの明かりは、彼女からも良く見えたのだろう。

 杉の木の下、金づちを持って立ち尽くす生徒会長の狂気に満ちた目が、スマホを握りしめる私を刺していた。

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