第ニ話 さてこれからどうしよういやまじに
「どうするよ?」
「どうしようもない」
「諦めんなよ!」
「じゃあどうするよ」
「どうしようもないよ」
セントラル王国王城会議室にて無意味な議論が繰り広げられていた。
国の偉い人たちもお手上げといった感じ。
「国王も今じゃボケたジジイだしなぁ」
「光速ジャブ寸止め1億連発だもんな」
「油揚げみたいに老けてたぜ」
「ほんとだよ。俺たち内閣も無視して勝手しやがってよぉクソジジイが」
「国事行為は内閣と要相談つったのに」
「何が十三権分立だよ、何も面白くねえよ!」
「3日前にアルナが出て行ってから全く帰ってくる気配なし」
「セントラル王国とオリハル国との国境の隙間で農業をしてるらしいです」
「いいなぁ、天下りしてぇ」
もう愚痴大会になっていた。
しかしそうなってもしょうがない状況である。
セントラル王国の英雄であるアルナを処刑しようとしたことで、国民から大バッシングを受けている政府。内閣総理大臣もメガネ呼ばわりだ。
どんなに緘口令を敷こうと無駄で、隣国にはもうこの事実が認知されていた。
アルナのいない、しかも国が混乱に陥っている、そんな攻め込む大チャンスを逃すほど世界は甘くない。
「誰か謝って帰って来て貰えば?」
「ダメダメ、嫁のこともあってブチ切れてる」
「イグリだっけ? あいつ今何してんの?」
「死んだんじゃないの?」
「そんなクソの話はどうでもいいから、これからどうすんのか考えようぜ」
「無駄無駄無駄」
「うるっせえぞハゲ!」
「誰がハゲだこのカッパ!」
不毛な喧嘩が始まった。
髪のないものが髪のあるものの髪を引っ張る絶対に禿げられない不毛な戦いだ。
そんな会議室に光明が差す。
「このわしに任せろお!」
会議室の扉を蹴り飛ばして乱暴に入室する。
入って来たのは9歳くらいに見える少女だった。
「……何でこんなとこに女の子が?」
「女の子ではない! わしの名はキャサリル! 世界で2番目に強い魔法使いじゃ!」
不毛なハゲどもがどよめく。
キャサリル。アルナに次ぐ最強。
長命種のエルフ、尖った耳がチャームポイント。若い姿を羨ましがられるが、本人としてはダイナマイトボディを希望している。
そしてキャサリルはアルナの師匠でもあった。
弟子に軽く飛び越えられた師匠だった。
「今誰かわしのこと馬鹿にせんかった?」
「気のせいかと」
ついにボケてきたのか幻聴まで聞こえている美少女エルフが宣言する。
「あのバカ弟子などおらんくとも、わしがこの国を守護してみせる!」
「いや、あの、流石に1人じゃ無理だと思いま」
「わしは確かに世界で2番目じゃが、バカ弟子にできて師匠にできないことなどない!」
「ですがセントラル王国は大国であり内陸国であり大陸の中央にあり、守るべき範囲が広いというか----」
セントラル王国は大国であったが強力な魔法使いの数では比較的少ない、地理的にも責められやすく、本来ならば隣国から何度も攻め入られてもおかしくなかった。
しかし、アルナがいた。
「世界はアルナたった1人を恐れた。故に何もせずに今まで平穏を保っていた。あいつはいるだけでこの国を守護する」
「ですから、そのアルナがいなくなって----」
「ならば世界を騙せばいい」
「世界を、騙す?」
「国民も、他国も、世界も騙す。アルナがセントラル王国に帰って来たと」
「しかしどうやって? 今、国が何を言おうと国民も他国も信じはしません。本人が衆目に出ない限り----」
「ああもう! 少しは自分で考えるんじゃ! 衆目に出すんじゃ! アルナを!」
「はぁ⁉︎」
「あいつは今国境の隙間で農業を楽しんでいるという、都合のいいことに、好戦的なオリハル国との間じゃ」
ハゲたちがやっと理解し始める。
「オリハル国に宣戦布告する! そうなれは国境間での戦争に至る!」
「戦争に巻き込ませ、半強制的にオリハル国と戦わせることでアルナは未だセントラル王国についてると思わせるのですね!」
「あのバカ弟子が嫁と一緒に作った農園を軽く手放すわけがない! あとは意図的であったことを隠せばわしらには手を出してこない。あいつはそういうバカじゃ。甘ちゃんじゃ!」
キャサリルはわっるい顔をする。
つられ、ハゲたちにもギラギラとした目が宿る。
アルナというぬるま湯に浸かって錆びた野心が今、蘇った。
「愛しいバカ弟子、アルナよぉ」
キャサリルは誰にも聞こえない声で、遠くにいる弟子への言葉を吐き出す。
「世界最強とはこういうことじゃよ。お前が生まれるまではわしがその席にいた。アルナ、残念じゃが、それが最強の宿命なんじゃよ」
晴れて自由を手に入れたと錯覚した馬鹿弟子に、同情しながらも悪辣に利用している自分が矛盾だらけであることを、キャサリルは受け入れた。
「イヴ様、感謝致します。初代国王との約束通り、必ずや何をしてでもこの国を守ってみせる所存です」
セントラル王国とオリハル国との国境の隙間。
つまりアルナとイヴが暮らす平原。
2人は木陰でひと休み。
アルナはなんのストレスもなさそうで幸せそうな顔をしている。
イヴの柔らかい太ももでぐっすり寝ていた。
膝枕でいちゃつきやがっていた。
「むにゃむにゃ」
「あらあら、寝言で本当にむにゃむにゃって言う人がこんな身近にいるとは」
小さく笑い、アルナを起こさないように小声で語り出す。
秘密の思惑を。
「私がなぜこの場所で農業をしようとねだったと思います? わざわざこんな中途半端なところで」
イヴは語りながら、広大に耕された畑を見る。
「ここに愛着を持ってもらい。王国にそれを利用してもらうためなんです」
アルナの髪をとく。愛おしそうに。
「私はあなたを愛している。これは真実です。しかし、それでも尚、私はセントラル王国の王女なのです。民を見捨てることはできません」
アルナにセカンドライフは送れない。
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