セカンドライフは送れない〜自由になった世界最強は王女と第二の人生を謳歌したいが世界がなんか許してくれないマジで助けて〜
杏林キタリ
世界最強VS偽世界最強
第1話 反魔の腕輪
世界最強の魔法使いアルナ・カーベルト。
その名は大陸全土に轟く。
全系統の魔法を使いこなし極め、新たな魔法をたった1人で開発し、魔王の復活さえ阻止した功績を持つ男。
間違いなく世界最強はこの男である。
アルナは祖国であるセントラル王国に仕える魔法使い。
セントラル王国は元々は力のない国であったが、アルナが生まれたことで全てがひっくり返り、大陸の三分の一を保有する超大国となった。
アルナはセントラル王国の王女イヴと恋仲に。
全てが順風満帆に行っていたはずだった。
「ふざけるなぁ----ッ!」
王の間で叫ぶアルナ。
なにゆえそうも叫ぶのか。
理由は明白だった。
「この拘束はなんだッ!」
13人の魔法使いが拘束魔法をアルナを対象として掛けていたのだ。
それによってアルナは十字架に縛られているかのように空間に固定されていた。
魔法も使えず、なすすべもなくただ叫ぶことしかできなかった。
しかし、普段の彼ならばたかが13人程度の魔法で縛られるようなことはない。
つまり普段ではなかったのだ。
アルナの腕に、禍々しい光を放つ腕輪があった。
「この腕輪がッ、この腕輪のせいで思うように魔法が使えないッ! これは----この腕輪はッ、あなたが! 国王から俺と王女の結婚を認めてくださった証として授けられたものだ!」
「ああ、そうだな」
国王は悠然と答える。
王座に座り、頬杖をつきながらアルナを見下す。
「それは反魔の腕輪と言ってな、もとは魔王が所持していたものらしいが、何かに使えないかと保管しておいたのだ。化物退治にはピッタリじゃわい」
「ばけ……もの?」
「何を分かりませんみたいな顔してるんじゃ、お前じゃよ、お・ま・え! ドラゴンを瞬殺するようなやつが人間なわけないじゃろ?」
「人々を助けるためにしたことだ!」
「そんなに喚くな吠えるな睨むなこの人外」
「お父様!」
王の間の扉が開き、王女セレナが現れる。
しかし、彼女もまた兵士に拘束されていた。
「アルナは化物などではありません! この国に仕える最高の魔法使いです!」
「おお愛しの娘よ。今すぐお主を誑かした化物をお主の目の前で打首にするからのぉ、安心してそこで待っていろ」
「待ってください!」
「やじゃ」
手を振り指示を出す。
魔法使いたちは詠唱を始めた。
「これは----魔力が、いや魔法が奪われいているだと⁉︎」
「お前は強くなりすぎた。お前は月日を経るごとに強力になっていった、今ではもうお前の気分次第でこの国さえも滅ぼせる」
「俺はそんなことは----」
「するかどうかはさしたる問題ではない。もし反乱を起こしたら? もし暴走したら? そう考えただけで夜も眠れんかったわい」
「だとしてもこんな扱いは酷いではないか! 俺はこの国のために尽くしてきた! その最後が、末路がこれなのか⁉︎」
アルナの声は震えていた。
激しい怒りに、それ以上に哀しみに。
「それに、俺がいなくなればこの国はどうするおつもりですか⁉︎ 他国が攻め入ればあっという間に陥落してしまいます!」
「そこは大丈夫じゃ」
「なぜそう言える⁉︎」
「さっきお前が言ったじゃろ? お前の魔法はここにいる13名の魔法使いに分割される。彼らは信頼に足りる。それに、13分割もすれば、誰か裏切っても他が戦えばよい、これこそが十三権分立じゃっ、ほっほっほっほ」
「こんなの、こんなのあんまりですわお父様!」
「喜べ我が娘よ! この国ら安泰じゃあ!」
国王の高笑いが部屋中に響く。
それに続き、兵士たちも笑い出す。
「腐っていたのか……この国はこれほどまでに!」
「すみませんアルナ! 私が気づかずに----」
失意に涙を流す2人。
「よぉアルナぁ」
魔法使いたちの1人が、アルナに話しかける。
その声は魔法使いたちとアルナにしか聞こえないほどの小さな声。
しかし、その声に潜む悪意は巨大だった。
「情けねぇなぁ、アルナぁ」
「もしや貴様、イグナか?」
かつてアルナを失脚させようと、虚偽の報告をし、それが原因で失落した貴族。
それがイグナ。
「お前のせいなんだからなぁ、平民のお前が俺より上に行きやがったよぉ」
「まさか、これも貴様が----」
「一端は俺だけどよぉ、全部ってわけじゃあねぇ、みんなお前が嫌いなんだよぉ〜」
「……今は貴様に構っている暇など」
「俺はセレナと結婚する」
「!」
「国王様との約束なんだ〜、お前をぶっ殺した後、俺と王女様が結婚する! なぁアルナぁ、ベッドの上のセレナは可愛いだろうなぁ、どんな風に鳴いてくれるかなぁ〜、ひひひっヒャハハハハハ」
イグナが薄気味悪く笑う。
だが、すでにその笑い声はアルナに届いていなかった。憤怒に塗り尽くされた理性はもう機能していなかった。
尽くしてきた国からの裏切り。
愛するものの辿る悲劇の未来。
何もできぬ己への怒りと絶望。
「ならばもう、何もかもどうでもいい」
「はぁ?」
イグナ以外の魔法使いたちが吹き飛ばされ、壁に打ち付けられ気絶した。
「は----へ?」
何が起きたか理解できぬまま立ち尽くすイグナ。
それに反して立ち上がるアルナ。
「何で? なんでだよぉ⁉︎」
やっと状況を理解する。
「火炎魔法『大炎火球』」
イグナの手の平から、直径3メートルほどの火球が出現し、アルナへと放たれる。
「神権『破壊神』」
火球がアルナの前髪に触れるほど接近した瞬間、
まるで割れた風船のように四散する。
またも何が起きたか理解できないイグナ。
「ちょっと前から考えていたんだ。全ての魔法を統合した魔法を----」
誰に対してかはわからないが、アルナは呟いた。
「神権『創造神』」
大気に未だ充満していた熱気が収束し、やがて1ミリにも満たない火花になる。
「な、なんだこのちっちぇの」
イグナが膝と一緒に笑う。
理解できたのだ、先程四散した巨大な火球が超高圧力で圧縮されたのだと。
そしてそれが自分に対して放たれることを。
「許して神様----」
「知るか」
高圧力から解放された高熱は光線が如く直進し、イグナの胸を貫く。
体から力が抜け、倒れそうになるが。
「まだだ」
「いやだぁ----ッ!」
右手でイグナを持ち上げ振り回す。
振り回したら次は大理石の床に打ち付ける。
何度も何度も何度も----
本来ならばこの時点で肉塊になっているが、アルナの神権によって、永続的に回復魔法をかけているため死なない。
しかし痛みは当然ある。
強制的に気絶も許されず、ショック死も不可能。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ----」
逆振り子のように床に叩きつけられ続ける。
1往復に1ごめんなさいのテンポで。
アルナは暴力を止める。
「今度は防御魔法だ」
「んへぇ------------」
大きく振りかぶって----
投げた。
投げられたイグナは城の壁をぶっ壊して空の彼方まで飛んでいく、全力投球だったので大陸の端も超えて海まで落ちただろう。
超高速で移動しているが防御魔法によって安全。
海に超高度から打ち付けられるが安心。
泳げたらきっと帰ってくる。
「次はお前だ。国王!」
「待ってくださいアルナ!」
イヴが止めに入る。
「お父様はとても酷いことをしました! ですがそれでも、それでも私の父なのです! どうか命だけは助けてあげて----」
「……イヴ、君は本当に優しいね。わかったよ、だから----」
瞬間で国王の眼前に移動する。
『破壊神』で肉体を粒子まで分解し、『創造神』で合体させ形を戻す。
このステップによって瞬間移動は完了する。
「一発だ」
「うぅああっ!」
国王は後ろに下がろうとするが王座なので出来ず、ただ怯えるだけ。
「回復魔法も防御魔法も使わない本気の一発」
つまり頭蓋骨を拳で破壊しぶち殺す。
「待ってアルナ!」
イヴのその声が届くより先に、音速を超えた拳が国王の鼻先に触れかけたところで----
拳が止まった。
「い、いぃやぁっ」
が、もう一度拳を振りかぶって----
「ぎゃあぁ----っ!」
寸止め。
さらに振りかぶり寸止め。
またも、またも、またも、振りかぶって----
寸止め。
結果何が起こるのか。
王の間に嵐が吹き荒れた。
「うんがぎゃあぁ----」
光速も優に超えているそのジャブを何万発と放っていれば当然だった。
その全てが寸止めであった。
しかし、いつ直撃するかのわからない恐怖が延々と続く、それはある意味肉体的な痛みを超えていた。
「国王、お前はさっきこう言っていた、恐ろしくて夜も眠れないと----いいか、俺はどこにいたっていつだってお前をぶん殴れる。お前は一生死の恐怖が付き纏うんだ。本気の一発がいつか訪れ、無惨に死ぬのを恐れて生きるんだ。それがお前の罰だ」
やがてジャブを終える。
意識をなくした国王と、なにかスッキリしたアルナ、そしてそんなアルナを見つめるイヴ。
その3人しかもう残っていなかった。
「イヴ」
「はい」
「新婚旅行だ」
「はいっ⁉︎」
「旅に出よう」
アルナは第二の人生、セカンドライフを始める。不可能だが。
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