部活であってデートじゃない!!

焼鳥

【短編】部活であってデートじゃない

「相馬は何処行きたい?」

「水族館とかどうですか、まぁ自分が行きたいのもありますが。」

「じゃあ水族館で決まりだ。」

高校の一室、俺が所属している部活『郊外活動部』は二人だけしかいない。

宵月綾乃よいづきあやの、俺をこの部活に誘った張本人であり、苗字に相応しい月のような綺麗な銀髪で、あまり表情が表に出ないが優しい子だ。

そして俺が道間相馬みちまそうま

綾乃さんと不釣り合いなパッとしない生徒だが、何故彼女と同じ部活をやれてるのかは理由は分からない。

「私は今週末空いている。相馬は空いてる?」

「俺も空いてます。」

「じゃあ日にちは決まり、あとは行く場所だけだね。」

『郊外活動部』は名前の通り、外で活動をする。活動内は単純で、「行った場所の内容をまとめて学校に報告」するだ。現に四回ほど学校側にレポートを出しているが、先生からの評価は良く、学校側のイベントの場所候補などに使われているらしい。

その影響で本来なら一年後の生徒会の総決算の時に部費が決まるのだが、特例で臨時の部費を貰えている。なので、高校生のお財布事情をあまり気にせず公共の施設に行くことが出来る。

「いい加減俺達以外の人も勧誘しませんか。一応部活扱いされてますけど、生徒会のルール的に来年は難しいですよ。」

「今はいいかな。この部活に入りたがる奴なんて全員私狙いだから。」

「まぁそうですね。」

彼女は校内でもよく耳にする程の人気がある。告白しては玉砕していった男子の話を聞き飽きたぐらいには知っている。だから今の対応も理解している。

「君ぐらいの安心出来る人ならいいけど、そういう人を私は知らないからね。」

「そう言われると恥ずかしいですが。」

綾乃が俺の言葉に少し笑いながら、二人で行先を決めた。


「遅くなりました。」

「全然待ってないから大丈夫だよ。」

「・・・似合ってます。」

「ありがとう。」

集合場所にいたのはだった。

「じゃあ行こうか。」

「はい。」

二人で水族館に向かうも、彼女の装いに相馬は気が気じゃなかった。

(こうして何処かに行く度にお洒落してくるから、勘違いしそうになる。)

今日は白のワンピース、彼女の雰囲気も相まって周りの目を引いている。横に立っている俺が悪目立ちするほどにだ。しかも自分の好みに刺さりすぎてるので、まともに彼女を見れない。

(勘違い野郎になって、彼女に迷惑はかけたくない。)

そう、。これを間違えてはいけない。

「間違えちゃいけないけど。」

手を握ってくる彼女を見て、間違いを犯したい気持ちが強くなっていった。


「多いね。」

「なんかイベントやってるみたいですね。」

水族館は休日+イベントでかなり混んでいた。

「写真OKな場所あるか聞いてきます。」

「行ってらっしゃい。」

サービスカウンターに向かう彼を見送り、待っている間に今日の服装を改めてチェックする。

「相馬が好きと言っていた服なのだが、お気に召さなかったのかな?」

予定を立てたり、レポートを提出する間の時間にちょくちょく彼の好きな服装を聞いているが、今日の服も彼が好きと言ったものだ。

「もしくは私の体とは相性が悪いのか?まぁ大きくは無いけど。」

そう言いながら胸を触り、大きさを確認する。

「やはり大きい胸の人の方が相馬も好きなのかな....」

「何か言いました?」

「!!おかえり。」

どうやら許可が下りたようで、マップ内の撮影OKな場所に赤丸が描かれている。

「思ったより多いね。」

「イベントが野外のショーを軸に作られているので、写真撮影が可能な場所が増えてるみたいなんです。タイミング良かったです。」

「そうだね、じゃあ行こうか。今日は沢山巡ろ。」

「はい。」


「綺麗...」

「凄いですね。」

大きな水槽の中をイワシの群れが渦を巻いて泳いでいる。

写真などで見た事はあるが、実物は今まで見たことが無かった。確かにこれは目玉の展示といえよう。

「いつまでも見れる。」

「綾乃さんが満足するまで待ちますよ。」

「ありがと。」

休憩用のベンチに座り、二人で静かに眺める。

「少し肩借りていいかな。」

「・・?まぁ大丈夫です。」

彼女がポンと頭を肩に預け、少しだけ目を細める。

「少しだけ寝てもいいかな。」

「いつ起こせばいいですか。」

「20分ぐらいでお願い。」

そう言った後に彼女は眠りに入った。

「今の内にこの展示のレポート書いておくか。」

持ってきていたメモ帳に体験した事を書き留めていると、チラホラ周りから声がしているのに気付いた。

「見せてくれるね~。」

「ラブラブじゃん。」

そんな感じの声だ。

(恥ずかしい。マジで恥ずかしい。)

付き合ってないし、なんならお相手さんはそういう目で自分を多分見ていないので、余計に来るものがある。

「早く起きてくれないかな....」



私と相馬の出会いは高校受験の時だった。

あの時の私は緊張に緊張を重ねている状態で、頭がパンクしていた。

「無い、無い。確かに入れたのに。」

受験会場である高校の前に着いた時に鞄の中を確認したが、筆箱が入っていなかった。確かに前日に入れた記憶があったが、勘違いだったようだ。

既に時間もギリギリで、近くのコンビニで買いに行くお金も用意していない。

「どうすれば。」

同じ受験生に頼む事をしても、快く貸してくれるとは思えない。監督の人は貸してくれる訳が無い。八方塞がりでしかない状況だ。

「大丈夫か?」

悩んでいると、私服の男の人に声を掛けられた。周りが皆制服なので、余計に彼の存在感が異質だった。

「なんか忘れたのか?」

「筆箱を忘れて。」

「あげるよ。」

彼はリュックサックを漁って、一先ず今日を乗り越えられるぐらいのセットを取り出した。

「どうせ俺は落ちるし、使ってて手疲れない物にしといたから使ってくれ。」

ポンと手渡されてて、そのまま彼は何処かに行ってしまった。

「名前聞くの忘れてた。」

その後無事に受験は合格し、晴れて高校生になれた。

「いないな。」

高校生活が始まって、自分は見た目が良いことに気づかされた。入学してから一ヶ月しか経たずに声をかけてくる男子が多かったからだ。同じクラスなら分かるが、他クラスの生徒からも声をかけられ始めたら流石に気づくというもの。

それであの時貸してくれた彼以外に興味が無かったので、全員断った。

相馬と再会したのは偶然だ。

先生の手伝いをしていて放課後まで学校に残っていた。

「俺が授業に着いていける訳ないだろ。なんで受かるかな...選択問題で神がかったのが運の尽きだったか。」

廊下で彼とすれ違った。恐らく補修で残っていたのだろう、凄い愚痴を吐いていた。

「あの、ノート貰いに来ました。」

「?あぁ了解。ごめん俺のせいだよな、遅くまでお疲れ。」

彼は渡して、あの時と同じように去ってしまった。

「いた。合格してたんだ。」

それが始まりだった。

少し経つと彼が何処にも部活に所属していない事を知り、先生に頼んで部活を作った。

「今時間ありますか?」

「宵月綾乃!?あるけど...」

「今私しかいない部活があって、二人だと形式上になるらしいの。だから入って欲しいの。」

「俺なんかでいいんですか!?他にもっと適材な人がいると思いますが。」

「貴方は信頼出来る人なので。」

「信頼・・・ですか。まぁいいですよ。」

彼は私を覚えていなかったけど、それでもいい。こうしてまた出会えたから。

「よろしくね相馬。」


「・・・う~んおはよう。」

「ようやく起きた。首痛くないですか?」

「大丈夫。相馬の肩の高さが丁度良かったから。」

「それはなによりで。」

「夢見たよ。」

「あんな短時間で見ることあるんですね。それで何見たんですか。」

「それは・・・忘れちゃった。」

「あるあるですね。」

これは教えられない。それを教えたら

「イルカショーやってるみたいだから行こ。」

「俺濡れて良い服じゃないですよ。」

「私もだよ。でも行かなきゃ損だよ。」

彼の手を引く。


「また部費貰えたら何処か遠出とかどうかな?」

「いいですね。修学旅行の場所選びとかでレポート出せますよ。」

「いいね。相馬は何処に行きたい?」

「鍾乳洞とか見たいですね。小学生の時に行ったきりなので。」

「じゃあ予定空けとかないとね。」

「そうですね!」

彼がふと足を止める。

「あの綾乃さん。」

「何かあった?」

「その・・どうして今日はその服を選んだんですか?」

「それはね。」

彼の耳に小さく囁く。

「君が好きだと言ったからだよ。」

「え・・え!?」

顔を真っ赤にする彼を見て、笑いが零れる。

「それはデー。」

「部活だよ。」

彼の口に指を当ててその先の言葉を止める。

いつかになるかもしれない。

けど今は、

「部活であってデートじゃないよ。」

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