初依頼
それからしばらくして、冒険者ギルド一階の広場で俺達は話し合っていた。
騎士や魔術師の立場を急に辞めて大丈夫なのか、とか……。
「絶対王様カンカンだよ? バチギレまで行くかもしれないよ? 急に辞めて冒険者なんてして大丈夫か?」
「お母さんみたいな心配だね、シェイド! 大丈夫だって、ボクはシェイドと離れ離れになる方が辛いから!」
「最近意見が反発してたけど、珍しく同意、マリア。私もシェイドがいないと辛くてどうにかなりそうだから」
「アンタら一応特待生的な扱いされてたでしょうが!!!」
俺は頭を抱える。
もしこの二人が辞任した原因が俺にあるとバレたとするなら、俺はどうなってしまうのか。
ギリというかオーバーで打首喰らうかもしれない。
今日は雨、ブロンズ級の依頼もめっきり少なくて俺の偏頭痛も加速する。
そしてこの二人のせいで頭痛は更に加速した。
「それで……突然だけど、聞きたい事があるんだ」
「聞きたい事?! なぁに?! スリーサイズとか?!」
「シェイドも大胆になったね……ふふ」
「あ〜全然違います。昔の約束の、事なんだけど……覚えてくれてるか?」
「二人一緒に冒険者になる約束だよね!」
「二人一緒に冒険者になる約束。覚えてるよ」
「王宮騎士の方が立場上だし、シェイドも喜んでくれるかなって思ってたんだけど……シェイドはやっぱ、冒険者の方が良いよね!」
「こっちも、ほぼ以下同文」
……三人一緒、だったんだけどなぁ。
どうしてこんなに二人だけってのにこだわるんだろうか……。
物悲しいと同時に、時の流れって残酷だなと思う今日のこの頃だった。
「正しくは、三人一緒に冒険者になる、だ! まぁ、奇しくも約束と状況は一緒って訳だ。肯定的に捉えよう、俺が原因で君達が辞めた事を忘れる為に。」
「三人一緒だとシェイドとイチャイチャ出来ないじゃん! ずぅっと、ずぅっと夢だったのに……! ルナもボクとシェイドはお似合いだって思うよね?!」
「いや、全然。私の方がシェイドの事を理解してる。適性もない剣術を無理矢理覚えさせようとしてた人にお似合いとか言いたくない」
「お前らは喧嘩するために冒険者になったんですか?! 一回、依頼持ってくるから手を膝に当てて待っててくれ!」
俺がそう言うと、二人はすんなりときっちりとした姿勢に戻った。
犬みたいだな、この二人。
──────
「戻ったぞ〜……誰?その人」
俺が戻るとルナとマリアの席の横で地面に埋まっている冒険者らしき男性が居た。
どういう状況?
「ナンパしてきたから、こう」
「ボクはシェイド以外に興味無いから!」
もう俺は、こいつらに関しては気にしたら負けなのだと思う。
気を取り直して、二人に依頼内容を伝える事にした。
「それじゃ、依頼内容伝えるぞ。最近大量発生しているスライムを……」
「大量発生?! 腕が鳴るなぁ〜っ!」
「魔法の威力、試したい」
「ゴールド級がほぼ全部討伐したので残党の1匹の討伐をお願いします……」
俺たちはズッコケた、もちろん俺も。
「き、気を取り直して……俺達パーティで初の依頼だ。気を引き締めてやって行くぞ!」
「一匹でも、シェイドに格好良い所は見せれるよね!ふんふん!」
「大魔法で、消し飛ばす」
「皆様やる気十分と言うことで……おし、行くぞ!」
俺達は武器や手荷物を他に、依頼場所の草原に向かう事にした。
傘も持って行ったけど……ルナのバリアの効能が強すぎて、傘とか必要無かった。
──────
「早速到着……したけど。広過ぎないか?! ここ?!」
「流石。王都はスケールが違う」
「領とかよくわかんないけど、王都が所有してる所がこんなにだだっ広いんだから魔物とか勝手に侵入しても気付かないよね……」
早速だが、俺達はスライム探しに奔走する事になった。
草原近くの森の中や狭い洞窟の中まで、色々。
結局、スライムが見つかったのは昼過ぎ。
草原の中央付近でぷるぷる震えてた。
「よし、早速討伐だ……気付いてない今がチャ」
「シェイドが怪我したらダメ。【ヘルファイア】」
ルナが突然そう言い放つ。
すると、巨大な炎の球体がスライムに向かって豪速球で放たれる。
一瞬でもスライムがそれに触れたかと思うと、ジュッという酷い音を立てて蒸発した。
「わ〜! 雨なのに湿気らな〜い! すご〜い! じゃないんだよ!!! やり過ぎ!!!」
「ルナ、ずるい〜! ボクもシェイドに良い所見せたかったのに〜! ねぇね、シェイド。二人で一緒にルナに内緒で冒険に行かない?きっと楽しいよ……?」
「お前は幼馴染を裏切ろうとするな!! ルナ多分聞こえてるよ?! 遠くで凄い顔してるよ?!」
俺達の初依頼はあっけなく、いとも容易く終わった。
その後はギルドに戻って依頼達成の報告をして、銀貨の入った小袋を貰った。
順調に一日の終わりを迎える、はずだったのだが。
「そういや、宿屋に泊まれるくらいの代金持って来てるか?あの依頼のお駄賃で泊まれるの、一部屋位なんだけど……」
「持って来てないね!」
「ない」
……俺は、随分と寝苦しい夜を過ごす事になりそうだった。
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