第5話 やられ役の牢番、贈り物を用意する
「つーわけで今日からまた牢番になったんですよ」
「……何故それを私に報告するんだ?」
「いやあ、一晩だけとはいえお隣さんだったわけですし」
翌日。
出勤した俺はカティアナに処刑はナシになったことを伝える。
口では興味なさそうに振る舞っているカティアナだが、心なしかホッとしているように見えなくもない。
昨日は俺との会話で笑ってたし、好感度が着実に上がっていると思っておこう。
その方がモチベーションも上がる。
「処刑が取り止めになったのはいいが、どうしてまた牢屋に入っている?」
「いや、牢屋の中って色々落ち着くんですよね。隔離された空間っていうか、俺そういうところ好きなんすよ」
昨日、一日牢屋にいてそう思った。
牢屋の中にいると不思議と雑念が消えて思考に集中できるのだ。
だから今後は何かを考える時、牢屋に入ろうと思う。
しかし、それはそれとして今は考えても答えが見つからなかったので、何となく隣の住人に意見を求めた。
「……なあ、カティアナ嬢。嫌われてる相手と友達になるにはどうすればいいと思います?」
「急になんだ。私に聞いてどうする……」
「いやほら、人生相談? みたいな感じのアレよアレ」
「……どれかは知らんが、そうだな」
一応、俺の悩みを聞いて真剣に答えてくれるカティアナ嬢。
「やはり、一度剣を交えることではないか?」
「戦うってことですか?」
「うむ。私はそうやって友に恵まれた。お前もそうすればいい」
無茶を言う。
だって俺が友達にならないといけないのはルシフェール、つまりは魔王なのだ。
殴り合いしたらヤバイ。俺の命がヤバイ。
ルシフェールをビンタした時は彼女自身も驚いていたのか反撃はしてこなかったが……。
本当なら俺はワンパンで殺されていたかも知れない。
それくらいルシフェールは、魔王という存在は強大なのだ。
「それ以外で何かないっすか? 相手アホみたいに強いんですよ」
「……」
ないのか。
いや、カティアナはゲーム上でも割と脳筋な言動が多いヒロインだし、仕方ない。
と、ちょうどその時だった。
話を聞いていたらしい先輩が牢屋の前に仏のような面持ちで立つ。
「ルガス君。大切なのは相手を思う気持ちですよ」
「……相手を思う気持ち?」
「はい。友の意志を、心を尊重し、時としてその間違いを正す。そこに強い弱いは関係ありません。重要なのは対等であることです。それが友人となるための第一歩なのです」
どうしよう、先輩がガチの聖人みたいなこと言い始めたぞ。
しかし、対等であること、か。
「流石は先輩っすね。少しヒントが得られたような気がします。カティアナ嬢もありがとうございます」
俺は仏先輩にお辞儀して、カティアナにも礼を言う。
すると、カティアナ嬢が目を瞬かせていた。
「私に礼を言う必要はないだろう。役に立つ意見を言ったわけではないからな」
「いやいや、真剣に考えてくれたのは事実じゃないっすか」
「……ふん」
カティアナが頬を少し赤くする。照れてるな。
「相手を尊重する、か」
「如何しましたか?」
「いや、難しいなって思って」
「?」
俺の独り言に首を傾げる先輩。
俺はゲームの知識としてルシフェールのことは知っている。
『プリヒロ』のヘビーユーザーだからな。
ルシフェール以外にもゲームに登場するヒロインについてはかなり詳しい。
しかし、あくまでも知識として、だ。
その気持ちを尊重できるほど俺はルシフェールのことを知らない。
少なくともマリセラに言われたからという理由でルシフェールと友人になることなどできないだろう。
なら相手の趣味嗜好を理解することに努めるべきだと思う。
「……何か贈り物でも用意するか?」
ルシフェールは強力な武器や防具の収集が趣味なコレクターだ。
贈り物ならそういう類いのものがいいはず。
しかし、魔王が気に入るような武器や防具など下級魔族の俺に用意できるものではない。
「ううむ、どうしたものか……。いや、固定観念に囚われるな。何かあるはずだ」
一度すべてのゲーム知識を頭から捨て去ろう。
そうすれば今まで見えなかった何かが見えてくるはず。
「……あっ。そうだ、忘れてた」
俺は割と重要なことを忘れていた。
たしかにルシフェールは全ての魔族の頂点に立つ存在だ。
しかし、まだ年頃の少女である。
「くっくっくっ、いいこと思いついた」
「お、おい、ルガス。物凄く悪い顔をしているぞ」
カティアナが俺の顔を見て引いている。
失礼な。俺はただルシフェールを仲良くなるための方法を考えていただけなのに。
ルシフェールは強い。
それでいて胸が大きく、抜群のプロポーションをしており、言葉遣いは偉そうで感情に任せて行動する傲慢な性格をしている。
でも所詮はお子ちゃま。
「お子ちゃまは甘いもので釣るに限るよな、くっくっくっ」
ましてや魔族は普段から食べているものがダークマターだからな。
要は馬鹿舌なのだ。
もしかしたらべっこう飴みたいな簡単なお菓子でも上手いこと釣れるかも知れない。
たしか魔王城の厨房に砂糖があったはず。
自慢じゃないが、前世の俺は手先が器用で暇潰しがてらべっこう飴で立体細工を作ったことが何度かある。
ルシフェールが好きそうなものを作ってやろうじゃないか。
数日後。
マリセラ様が用意した場で、俺はルシフェールと顔を合わせた。
最初は俺を見てあからさまに不機嫌になっていたが、それも一瞬の出来事だ。
「な、なんじゃこれは!?」
「べっこう飴で作った立体細工、『ゴ◯ラVSキングギ◯ラ』です」
「す、凄いのじゃ!! よく分からんが凄いのじゃ!!」
大好評だった。上手く行ったぜ。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「こういう謎の才能を持ってる人ってたまにいるよね」
ル「そうか?」
「少しずつ好感度が上がってるぞ!!」「ゴ◯ラVSキングギ◯ラの飴細工は気になる」「あとがき分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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