第3話 やられ役の牢番、説教する





「「え?」」



 カティアナとルシフェールの声が重なった。


 ルシフェールは自分が何をされたのか理解できなかったようで、間の抜けた顔をしている。


 一拍遅れてルシフェールが俺を怒鳴り散らした。



「き、貴様!! 今、余に何をしたか分かっておるのか!!」


「食べ物を……」


「食べ物? 食べ物がなんだと――」


「粗末にするなァ――ッ!!!!」


「ひぅ!?」



 俺の怒声に対し、ルシフェールがビクッと身体を震わせた。


 お説教タイムの始まりだ。



「お米一粒には七人の神様がいると言う。それを踏みつけて、挙げ句に蹴飛ばす? 罰当たりにも程がある!!」


「米に神じゃと? そ、そんな話、聞いたこともないのじゃ!!」


「やかましいド阿保ッ!! まだ話の続きだ黙って聞けッ!!」


「ひゃい!?」



 俺は魔王を黙らせて説教を続行する。



「肉野菜炒めに使った肉と野菜は、それぞれ牧畜家や農夫が時間をかけて作ったものだ。それを――」


「ふ、ふん、どちらも下級魔族の中でも最底辺の者共がやるような仕事ではないか!! 誰よりも強い余がそれを足蹴にして何が悪いのじゃ!!」


「はあー」



 俺は思わず溜め息を吐いた。


 たしかに魔族的価値観で言えばルシフェールのしたことは悪事ではない。



「で?」


「……は?」


「たしかに魔王様の仰っていることは間違いではありません。で?」


「で、って……」


「何故わざわざ足蹴にする必要があるんです? まるで自分の強さを誇張するように弱者を卑下するなど、それこそ典型的な三下の雑魚のすることです」


「!? き、貴様、下級魔族ごときが、余に向かって、三下の雑魚じゃと!?」



 顔を真っ赤にするルシフェール。


 しかし、まだ俺が一番言いたいことを言えていないので言わせない。


 ルシフェールが口を挟む前に言おう。



「あと何より」


「ま、まだ何かあるのか!?」


「俺が作った肉野菜炒めをめちゃくちゃにしやがったことが許せねー!! もう一発叩かせろ!! 今度はグーで!!」


「ひいっ!?」



 俺が拳を振り上げると、ルシフェールは頭を両手で守るようにしてしゃがみ込む。


 ……その姿を見て俺は冷静さを取り戻した。



「魔王様」


「ひぅ、こ、今度はなんじゃ!?」


「……魔王様。さっきは感情的になって叩いてしまいました。それは謝罪します」



 俺はその場で膝をつき、頭を垂れる。


 すると、ルシフェールは自分の魔王という立場を思い出したらしい。


 仁王立ちして俺を見下ろした。


 怒りを隠せない様子で俺をキッと睨み付けてくるルシフェール。



「い、今さら謝っても遅いのじゃ!! 貴様は余に逆らった罪で死刑とする!! 絶対に死刑なのじゃ!!」



 死刑。そうか、死刑になるのか。


 どうせ殺されるなら、言いたいことを言わせてもらおう。



「魔王様、一つ言わせてもらいます」


「ふん。遺言か」


「ええ、そうですね。……魔王様、貴女は強いだけです」


「……どういう意味じゃ?」



 俺はルシフェールの末路を知っている。


 ヒロインたちと戦いで敗れ、その後でどうなるのかを見た。


 だからこそ、確信をもって言える。



「もし自分が負けた時のことを考えたことはありますか?」


「余は何者にも負けぬのじゃ!!」


「仮定の話です。魔王様が負けた時、貴女に従っている全ての魔族が反乱を起こすはずです」


「は、反乱? そのようなことあるはずが……」


「ないと言い切れますか? 貴女は気に入らないものを排除し、歯向かってきた者を拷問して楽しもうとする性悪だ。断言します。一度でも負けたら、いえ、負けなくても貴女に本当の味方と言える者はいない」



 ルシフェールはヒロインに敗北した後、配下たちに反旗を翻される。


 その結果、酷い目に遭うのだ。


 今まで苦しめてきた人類は無論、配下であるはずのオークやゴブリンたちにも酷い目に遭わされてしまう。


 誰もルシフェールを助けようとはしない。



「ま、負けなければよい話なのじゃ!!」


「いつかは負けますよ。実際、魔王様は最強と謳われていた先代魔王様を倒して魔王の座に就いたのですから」


「……」



 俺の言葉にルシフェールは肩を震わせながら、黙り込む。



「……ぃ」


「ん?」


「うるさいうるさいうるさいのじゃ!! 余は負けないのじゃ!! 負けなければいい話なのじゃ!! うわーん!! お母様に言いつけてやるのじゃー!!」


「うわあ」



 ルシフェールはポロポロと涙を流しながらどこかへ駆け出した。


 途中で転ぶが、そのまま立ち上がって走る。


 その背を見送った俺は、ずっと黙って成り行きを見守っていたカティアナの隣の牢屋の鍵を開けて中に入った。



「俺の人生、終わった」



 やってしまった。


 ついカッとなってビンタしたのもアウトだが、その後も不味かったと思う。


 いや、ビンタは謝ったからセーフだよな?


 セーフだと思いたい。……多分、明日には処刑だろうなあ。


 こんなことになるくらいならクィーンサキュバスのクィナ様とのエッチ券、先輩に譲らない方がよかった。


 俺が牢屋の中でも三角座りをしていると、隣の牢から声を掛けられる。


 カティアナだ。



「お、お前は何をやっているのだ!? 魔王の頬をひっ叩くなど!! というか何故自分から牢屋に入った!?」


「多分今晩だけだけど、お隣さんとしてよろしくな!!」


「どうしてそこまで元気なのだ!?」


「人間って、行くとこまで行っちゃうとはっちゃけちゃうんだよ」


「お前は魔族だろう!?」



 カティアナに言われて気付く。



「ははは!! そうだったな!! 忘れてたわ!!」


「忘れてたって……。お前はなんというか、魔族らしくないな。駄目な人間の相手をしてるような気分だ」


「実は俺の前世って人間なんだぜ? 思い出したのは昨日だけど」


「……ふふ、ははは。なんだそれは。もう少しマシな冗談を言ったらどうだ」



 カティアナが笑う。


 明日には死刑だが、最後に美女の笑顔を見られてよかった。










 そう、思っていたのだが……。



「貴方、ルシフェールの頬を叩いたそうね?」


「……うっす」



 俺はゲームには登場しなかった人物、魔王ルシフェールの母親から呼び出しを食らったのであった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「作者は寝取られモノの同人誌を見て勢いでやった結果、目覚めてしまった。やってから後悔することってあるよね」


ル「いや、アンタの性癖暴露とか聞きたくないですよ」



「これはルシフェールが悪い」「呼び出しくらってて草」「あとがき本当にどうでもいい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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