やられ役の牢番が囚われヒロインに優しくしたらシナリオがぶっ壊れてしまったんだが。
ナガワ ヒイロ
第1話 やられ役の牢番、思い出す
ある日の出来事。
俺が牢番として働く魔王城の地下牢に、鎧を着た若い人間の女が入れられていた。
魔王城に単身で乗り込み、敗れた騎士らしい。
月のような黄金の髪と空色の瞳が綺麗な絶世の美女だが、その目は敵意を宿しており、鋭く光っていた。
「くっ、殺せ!! 貴様らに辱しめられるくらいなら死んだ方がマシだ!!」
「おいおい、連れねーこと言うなよ。オレ様が可愛がってやるってのに」
職場の先輩が女の服を剥ぎ取り、下卑た笑みを浮かべる。
これから先輩が何をしようとしているのか、俺にはすぐ分かってしまった。
しかし、止める者はいない。
というかそもそもこの場には俺と先輩の二人しかおらず、他に牢番はいないのだ。
魔族は絶対的な実力主義社会を形成している。
負かした相手はぶち殺すものであり、捕まえて乱暴するものではない。
だから普段の牢番は『無駄飯食らい』とか『最前線から逃げた意気地無し』とか散々なことを言われている。
でもまあ、実際に俺も先輩もチキンなので最前線が怖くて牢番になったタイプだ。
否定はしないし、あまり気にしない。
ではどうして今回に限って女騎士を生け捕りにしたのか。
それはこの女騎士を返り討ちにした二代目魔王様が超の付くサディストだったからだ。
自分に歯向かった者を苦しめる趣味があり、俺たち牢番にこの女を思いつく限りの拷問をするよう命令してきた。
先輩はその命令を逆手に取り、人間の女を犯そうとしてるわけだな。
流石オーク。
魔族の中でも性欲に脳を支配されている歩く下半身と言われるだけのことはあるぜ。
「ぐへへ、いい身体してるじゃねーか」
「例えこの身体を穢されようと、私が貴様ら魔王軍に屈することはない!!」
「おうおう、気の強い女は好物だ」
「くっ、申し訳ありません、父上!!」
鎧を剥ぎ取られた女騎士は、大きなおっぱいを露わにした。
うおっ、でっか!!
俺はその光景をどこかで見たような気がして、ふと思い出した。
「あっ!!!!」
「うお!? な、なんだ、ルガス。急に叫びやがって」
思い出した。思い出してしまった。
いや、落ち着こう。まずは自分の名前と職業、立ち位置を頭の中で整理する。
俺の名前はルガス。
魔王城の地下にある牢屋の牢番であり、とあるゲームに登場する敵役だ。
そのゲームの名は『プリズンヒロイン』。
通称『プリヒロ』と略されることもあるそれは、囚われのヒロインがエッチな酷い目に遭わされる紳士のゲームだ。
シナリオは至ってシンプルなもの。
まずプレイヤーはガチャで出てきた美少女キャラを育成し、魔王にけしかける。
戦いに勝てばそのまま美少女魔王が凌辱されてハッピーエンドとなるが、負けたらヒロインが凌辱されてしまう。
どちらに転ぼうが可愛い女の子が酷い目に遭うという、制作者の性癖が垣間見える作品だ。
しかし、問題は一定時間が経過することでヒロインは地下牢を脱獄し、再び魔王へ挑めるようになることだろう。
その脱獄の拍子に、牢番の兵士との強制バトルが始まる。
つまり、ヒロインは牢番である俺や先輩と戦わねばならないわけだが……。
これはヒロインの勝ち確イベント。
俺と先輩は必ず殺されてしまう、言わばやられ役の牢番なのだ。
まずい。非常にとてもまずい。
今はまだヒロインが酷い目に遭わされる直前のシーンだからいいが、このままシナリオ通りに進めば俺たちは殺されてしまう。
敗北したとは言え、単身で魔王様に挑むような女騎士である。
俺や先輩が死ぬ気で努力し、強くなったとしても勝てるわけがない。
そもそも戦うのが怖くて牢番になったんだからな。
こうなったら――ッ!!
「先輩先輩」
「んだよ、ルガス。お前にも後で貸してやるから最初はオレにヤらせろよ」
「いや、そうじゃなくて。やっぱ可哀相なんで、酷いことするのやめてあげません?」
何より死にたくないしね。
俺の発言に先輩が同じような間の抜けた表情をする。
「な、何言ってんだ、お前。これは魔王様の命令なんだぞ? 逆らったらどうなるか――」
「まあ、苦しめろって命令ではありますけど。強姦はやり過ぎですって」
「ふ、ふざけんな!! オークのオレが牢番になったのはこういう時のためなんだぞ!!」
え、先輩はそんな理由で牢番になったのか。
てっきり俺と一緒で戦うのが嫌だから牢番になったのかと思っていた。
しかし、このままではまずいのだ。
俺だけがヒロインに優しくしたところでもう一人の牢番である先輩が酷いことをしてしまったら何も変わらない。
ヒロインにとっては俺も先輩も身体を弄んだ憎い敵になってしまう。
この最初の一回を止めるのが重要なのだ。
「じゃあ、仕方ないっすね。この手は使いたくなかったんですけど」
「あ、ああん? やんのかテメェ!! 下級魔族の分際で中級魔族のオレと!!」
もちろん、先輩と戦ったりはしない。
俺は実力主義社会の魔族の中でも一番下の下級魔族だ。
オークという中級魔族の先輩を相手にして敵うはずがない。
なので俺は拳を構える先輩に、懐から取り出した一枚の紙切れをスッと渡す。
「あ? なんだこれ?」
「魔王軍幹部、クィーンサキュバスのクィナ様直々にお相手してもらえる券」
「!? そ、それは、まさか百年先まで予約が埋まっているというクィナ様との一日エッチし放題券か!?」
「うっす。半年前に懸賞で当たった奴っす。ちなみに今日がその日です」
「!?」
俺がそう言ってチケットをちらつかせると、先輩は明らかに動揺した。
「どうしますぅ、先輩? 一生手に入らないかも知れないクィナ様とのエッチ券。今ならタダですよ」
「く、くれるのか!?」
「ええ。そっちの女の子に、というか今後女の子に酷いことをしないって誓うなら、このチケットは先輩のものです」
「わ、分かった!! もう絶対に女に酷いことねぇ!! 契約魔法を結んだっていい!!」
こうして俺と先輩の取り引きが成立。
先輩は期待で股間を膨らませながら退勤してしまった。
後に残された女騎士が俺をキッと睨む。
「……なんの真似だ、貴様」
「そんな睨まないでくださいよ。助けたんですから」
俺はこの女騎士を知っている。
『プリヒロ』のチュートリアルで酷い目に遭わされてしまう女騎士だ。
名前はカティアナ。
ガチャを回さずとも手に入る初期キャラながら、水着バージョンやサンタ衣装バージョンなどがある人気ヒロイン。
俺も割と好きなキャラである。
その人気ヒロインが鎧を剥ぎ取られ、おっぱいを丸出しにしているのだ。
俺は無言で毛布を差し出す。
「取り敢えずこれ羽織っといてください」
「?」
「いや、その、格好が、ちょっとですね」
「っ、み、見るな!!」
最初は首を傾げたカティアナ。
そこで自分の今の格好を思い出したのか、顔を耳で赤くする。
カティアナが慌てて毛布を受け取った。
「俺はルガス。見ての通り、魔王城地下牢の牢番です」
「……カティアナだ。礼は言わんぞ」
そう言って再び俺を睨むカティアナ。
しかし、その眼光は最初よりも鋭さが鳴りを潜めているように感じた。
よし、ちょっと好感度が上がったっぽいぞ。
このままヒロインに優しくしたら、脱獄する時に殺されずに済むかも知れない。
俺はこの調子で頑張ろうと決意するのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「くっ殺ヒロインは素晴らしい」
ル「まあ、分かる」
「新作だー!!」「面白そう」「続きが気になる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビュー、特に★をくださいよろしくお願いします。
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