第18話 迫る影:暗黒のファラオ団

深きものたちを撃退し、静寂が戻った森の中。俺はまだ、左目に残る熱を感じながら、胸の奥をざわつかせていた。アザトースの半身――そんな信じがたい話を突きつけられたばかりだ。


「ニャル、俺がアザトースの半身だっていうなら、この先俺に何が起こる?」


ニャルラトホテプの念話は、相変わらず冷静だった。

「主がその力を使うかどうかによります。力を解放すればするほど、主はアザトースそのものに近づく。ですが、使わなければ――破滅を招く脅威に立ち向かう術がなくなります。」


「そんな選択、どっちに転んでも最悪じゃないか…」


「それが、半身としての宿命なのです。ですが、主にしかできないことがあります。今も新たな脅威が迫っています――『暗黒のファラオ団』という存在が。」


「暗黒のファラオ団?」


俺の疑問を察したのか、ニャルは静かに説明を続ける。

「古代の異教信仰に基づき、破滅を招く儀式を行う集団です。彼らはアザトースを直接崇めることはありませんが、その力を利用して世界を混沌に陥れることを目的としています。」


「俺の力を利用するつもりってことか?」


「その通りです。主の存在が彼らに知られた今、手を緩めることはないでしょう。」


その言葉に冷たい汗が背筋を伝った。俺の力が目覚めた瞬間、どこかで何かが目を覚ましたのだろうか。


「具体的にどんなやつらなんだ?」


「彼らは強力な魔術師たちであり、世界各地の禁断の知識を収集しています。その中には、アザトースの半身を支配する術も含まれている可能性がある。特に危険なのは、彼らの指導者――『暗黒のファラオ』と呼ばれる男です。」


「暗黒のファラオ…どんな奴なんだ?」


「その正体は不明。姿形さえ掴めていません。ただし、彼は『黄衣の王』とも呼ばれる存在と繋がりがあるとされています。」


その名前に心臓が跳ねた。黄衣の王――宇宙の深淵に潜む神秘的な存在。ニャルもどこか言葉を慎重に選んでいるのが伝わる。


「そのファラオってやつ、俺たちに何をするつもりなんだ?」


「主を捕らえ、アザトースの力を完全に解放させることが彼らの目的でしょう。その結果、宇宙そのものを混沌に飲み込ませるつもりです。」


「ふざけた連中だな…」


拳を握りしめた。俺の中に眠る力が、そんな危険な奴らの手に渡るわけにはいかない。だが、どうやって立ち向かう?俺一人でどうにかできる相手なのか?


その時、森の遠くから奇妙な音が聞こえてきた。それは風が木々を揺らす音とは明らかに異なり、不気味な呪文のような響きだった。


「…何だ、この音は」


「彼らが近づいています。」


ニャルの声は警戒に満ちていた。


「ここでか?」


「恐らくは主の目覚めを感知して追跡してきたのでしょう。気をつけてください、彼らは主の邪眼を封じる手段を持っている可能性があります。」


心臓が高鳴るのを感じながら、俺は深呼吸して冷静を保とうとした。その時、森の影が動いた。


黒いローブを纏った男たちが静かに現れた。その数は十人ほどだが、その全員が異様な雰囲気を纏っている。顔はフードで隠れているが、彼らの手には奇妙な装飾が施された杖が握られていた。


「お前たちが暗黒のファラオ団か…?」


問いかけに答える代わりに、一人の男が杖を掲げた。そして低く響く呪文が放たれると、空間そのものが歪むような感覚が襲った。


「さあ、始まります。主の力を試される時が。」


ニャルの声が響く中、俺は邪眼に力を込め、戦闘態勢を整えた――暗黒のファラオ団との対決が、今始まる。


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