第14話  ミ=ゴとの接触

アザトースとの邂逅から数日が経過した。阿佐間融の日常は一見すると普段と変わらないように見えたが、内心では常に不安と緊張が渦巻いていた。あの異次元の扉が再び現れるのではないかという恐怖。そして、右目に宿る力がさらに暴走するのではないかという危惧。


その日も、いつも通りの夜だった。月が薄い雲に覆われ、街は静まり返っていた。融は人気のない山間の小道を歩いていた。日常に紛れる異質な感覚を忘れるため、いつもこの場所で静かな時間を過ごすのが習慣になっていたのだ。


しかし、その夜は違った。突如として、空気が重たく変質し、辺りの音がすべて消えた。木々のざわめき、虫の声、遠くから聞こえる車の音さえも、すべてが静寂の中に消え去った。


「なんだ…?」


不安を感じた瞬間、視界の端に異様な影が映った。それは空から降りてくる巨大な物体だった。黒い甲殻に覆われた昆虫のような姿――だが、その不気味なプロポーションは地球の生物とは明らかに異質だった。羽のような器官が振動し、不快な高周波音を発しながら融の前に降り立つ。


「ミ=ゴ…か?」


その名が自然と口をついた。融が過去の文献で目にした存在、地球外の昆虫型生命体――ミ=ゴ。宇宙を旅する科学者であり、狂気をもたらす種族だと伝えられている。だが、なぜ自分の前に現れたのか?


ミ=ゴの一体が前に進み出た。その姿は黒光りする甲殻に覆われ、無数の触手が不規則に動いている。翅を震わせながら、不自然に人間の言語を再現するような声で語りかけてきた。


「阿佐間融…お前に興味がある。」


「俺に?」


「ああ。お前の右目、そこに宿る力…我々の知るアザトースの力に近い。だが、完全ではない。我々ミ=ゴの技術を以てすれば、その力を完全な形に導ける。」


ミ=ゴはそう言うと、甲殻の間から小さな球状の物体を取り出し、融に見せつけた。それは淡い緑色の光を放ち、見るだけで心がざわめく不気味なものだった。


「これが…何だ?」


「アザトースの種子だ。我々が加工した道具。これを用いれば、お前の右目に宿る力を安定させ、さらなる進化を与えることができる。」


その言葉に融はぞっとした。アザトースの力を進化させる?そんなものを手にしてしまったら、自分はさらに深い闇へと足を踏み入れることになるのではないか?


「なぜ、俺にそんなものを渡そうとする?」


融の問いに、ミ=ゴの翅が甲高い音を立てる。まるで嘲笑しているかのようだ。


「我々には興味があるだけだ。この地球という星に巣食う、お前のような存在がな。」


「俺のような…?」


ミ=ゴの触手が一瞬止まり、緩やかに振れながら告げる。


「お前の右目に宿る力が、我々の知る宇宙の均衡を狂わせる可能性があるのだ。それを見届けたい。」


融はその言葉に混乱した。均衡を狂わせる?一体、何を意味しているのか?


「俺は…」


そう言いかけた瞬間、再び空気が震えた。ミ=ゴが突然、翅を激しく振動させ、警戒するような動きを見せた。


「この気配…人間以外の干渉者か…」


その言葉に、融も何か迫り来る存在の気配を感じ取った。新たな存在の到来が、さらに深い混乱を呼び寄せようとしていた。


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