希望の摩天楼

1人の少女がテーブルに座ってパソコンをいじっていた。


何やらとても忙しそうに、指が動いている。


部屋にはキーボードの音だけが響いていた。





「おかえり、アルル。」


「ただいま、ハル。アリアはまた部屋にこもってるの?」


「なんか思いついたらしくて、実験に没頭してる。」


「アリアは戦闘も向いているからそっちを重点的にやってもらいたいくらいだよ。」



アリアは治療薬や解毒薬を調合している。

アリアはハルが所属するグループで薬のスペシャリストだ。



そうリビングに入ってきて話すアルルは長袖長ズボンを履いており、返り血で服が汚れていた。

おしゃれ好きな彼女が服を汚して帰ってくるとは、相当腹を立てたのだろう。


「派手にやってきたね〜。まずお風呂入ってきたら?お湯も沸かしてあるし。」


「ありがとう!ちょっとお腹空いてるから軽く食べれるものない?」


こういう時、ハルは機嫌をとるに限る。

ハルは冷蔵庫を漁り彼女の好きないろんな味のチーズを差し出す。


(今日の夜食はチーズたっぷりのグラタンか。)


ここまで一緒のチームでやれるのはこういう些細な気遣いがあってこそだ。


(少し怖いけどアルルはとても頼りになる。)


「あら。帰ってたの?おかえりなさい、アルル。無事で何よりですわ。」


アルルが自室から顔を出した。


「ナイスタイミング〜!アリアもチーズ食べる?」


「ええ!喜んでいただきますわ。」


こんなたわいもない日常。

これがいつもの日常だ。






3人はそれぞれとあるマフィアの団体に所属している。


マフィア界を統一しようということで始めたのがこのグループだ。


各団体から優秀者を1人ずつだし、グループを作った。


このグループが崩れると団体同士の団結も友好関係も全て崩れることになるだろう。







ある日アリアが任務に出て行ったが、翌日になっても帰ってこなかった。

どうやら失敗して、通信機も武器も全て的に奪われたらしい。

珍しくアルルがハッキングして特定した。

彼女、パソコン使えたっけ?


(今頃アリアは拷問でも受けていることだろう)



急いでハルとアルルは現場へ向かった。

敵は全て倒されていた。


(他のグループが来てたか。)


ハルはアリアが生きていてくれと願うばかりだった。


「ここが拷問室じゃない?」


ハルが鍵を開けるとアルルは一目散に中へ入って行った。


「アリア...?アリア!!」


そこには血まみれに横たわる1人の少女と1人の男性がいた。


アリアは酷く冷え切っていて、手の施し用がない状態だった。


アルルは嗚咽が出るほど泣き叫ぶ。


男性の方は若干温もりが感じられた。


(少し前まで生きていたのか。)




後日、2人で相談してアリアの死は、それぞれの団体に伝えないこととした。


要するに隠蔽した。


アリアがいなくなってから2人で任務をこなすようになっていた。


前の仕事量は約1.5倍に膨れ上がっていた。


ある日、2人で任務に当たった後


「...よね。もう十分頑張ったよね...」


そう言って、アルルは後片付けしていたハルに背後から襲いかかる。


「全員のことを愛してる。だからアリアがいなくなったのなら、私も後を追いたい。もう限界だよ。だからハルも一緒に...」



「死んで」


そう言って、銃を突きつけられた。


彼女の瞳に光はなくて、希望も見えなかった。

絶望の表情。


きっと全て終わりなんだ。

楽しかった人生も、悲しかった出来事も。

幸せだった時間も。


アリアはいなくなってアルルが可笑しくなってしまった。

彼女はここが唯一に居場所だったのだろう。


全てがなかったように明日には白紙になる。

裏社会の人間だ。

生きた軌跡は何一つ残らない。


ハルはゆっくりと目を閉じる。


仲間に裏切られた。

それでもハルは裏社会の人間であることを誇りに思った。


来世があるとするならば、どんな人生を歩もうか。


2人だけの夜の世界で銃声が響いた。

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