短編集
白井ミコ
ブードゥー教のゾンビ
「ゾンビパウダーを飲ませる。」
この村には掟を破ったものや罪に問われた者をゾンビパウダーを飲ませるという習慣がある。
ゾンビパウダーには睡眠薬と脳に影響せず体の活動を停止させるものが調合されていた。
僕の幼馴染、アモンはまだ幼いのに人を殺してしまった。
明日殺される。
僕はアモンの牢まで会いに行った。
「アモン...」
「アーデュル、ごめん。」
「なんで!!家族なんて殺したんだよ!なんで...!なんで...!君が殺されなくちゃならないんだよ!!」
アモンは幼少期の頃から虐待されていた。
(きっと耐えれなくなってしまい、殺してしまったんだ。全面的にアモンは悪くないよ...)
「しょうがない。僕のいうことは通用しないし、信じてもらえない、村の掟だし。村長もゾンビ奴隷を欲しがってる。」
そこからは沈黙が続いた。
僕はただただ近くに立っているだけだった。
耐えられないなら逃げればいいじゃないか。僕に頼ってくれてもよかったじゃないか。逃げた方が殺人を犯すよりも罪が軽くなるはずだ。大人も耳を傾ける可能性が上がるはずだ。
アモンの両親は村人からの印象がとても良かった。しかし、それは表向きだけだった。アモンに虐待されていると話を聞いた時、僕は疑って夜中にアモンの家の裏まで声を聞きに行った。
「うるさい。喋るんじゃないよ!!」
その声がした後すぐに何かがぶつかる音がした。僕は逃げ出していた。
「もう夜遅いので、家に帰りなさい。お家の人が心配するよ。」
牢の管理人さんが話しかけてきた。
その声で僕は現実へと戻される。
アモンは僕を心配そうに見つめる。
「俺の裁きは明日の夜だから。じゃあね。」
「またね。」
そう僕は明るめに返事をして、涙を堪えながら逃げるように家に帰った。
僕の心とは真逆に、月が綺麗に輝いていた。
-次の日-
起きたら、アモンがゾンビパウダーを飲んで埋められたと噂が回ってきていた。
(君は僕が悲しまないように、わざと噂が回りきった時間帯を言っていたんだね。)
埋められたところには管理人が1人はいるはずだ。
昏睡状態から覚めた、ゾンビ化した人を奴隷とするために。
目覚めたゾンビたちは近くの農園に買い取られ、働かせるらしい。
-数年後-
僕は60歳になった。
今は犯罪率が減り、ゾンビ奴隷も減りつつある。
それは誇らしいことだと思っていた。
しかし、村長は不満を持った。
もっとゾンビ奴隷を欲しがった。
そこで年に一回、生贄を捧げる儀式を始めてしまった。
年老いた僕は生贄には選ばれない。
毎年約25年間、若い子が生贄として捧げられているのを見てきた。
その間、村中ではお祭りが開かれている。
1人だけが辛い思いをして、他の人は楽しむ日である。
今年もその日がやってきた。
今日捧げられるのは15歳の少年だ。
もう慣れた。
悲しいとは思わない。
今夜この子が起きた時、僕が連れて他国に逃げよう。
ここから出ていこう。
絶対助けてあげるから、養ってあげるから。
(僕の孫息子よ、昏睡状態から目覚めておくれ!)
ここで目覚めてくれなかったら僕の努力はなんだったんだ。
僕はこのために生き埋め場所の管理人になったんだよ!
この日はアモンが殺された日みたいに月が輝いていた。
「あれ?アーデュル爺さんは?」
そう村の子供が問いかける。
「あー、あの爺さんは亡くなったよ。崖から落ちたんだって。」
*****
主人公のアーデュールの幼馴染はゾンビ化した後、数十年働かされて、使えなくなった時に殺されていました。
一方、アーデュールは人生を“正しく”生きてきました。子宝にも恵まれました。しかしある日、彼の孫が生贄に選ばれ、捧げられてしまいました。孫が目覚めたら、逃亡する予定でしたが、彼の孫は目覚めませんでした。そのまま帰らぬ人となってしまったのです。そうなったらアーデュールには生きる意味がありません。孫が亡くなった夜、崖から身を投げ、自ら命を絶ったのです。
この話は映画とかでよく出てくる、ゾンビについてです。学校の授業で習ったのでそれを元に書いています。
ブードゥー教は部族的宗教であり、そんな大きい規模ではありません。そんな宗教で犯罪を犯した人をゾンビ奴隷にしていたそうです。ゾンビパウダーには大量の睡眠薬と神経を麻痺させる薬が入っていたらしいです。小規模の宗教で行われていたので、殺す技術がなく、丸一日経つと目覚めてしまうらしいです。殺したと判断され、埋められているので、生き返った人は土から出てきます。薬の効果で神経が麻痺している人が、足を引きずっていたり、片目が開かなかったり、そんな姿が今のゾンビの原型です。
犯罪率が減ったある時、ゾンビ奴隷をもっと欲しがり、生贄で捧げるようになってしまうのです。今は行われているのかはわかりませんが。
こんな宗教もありますが、中には面白い名前の宗教もありまして。空飛ぶスパゲッティーモンスター教ってご存知ですか?鍋を被っただけで簡単に入信できる宗教なんです。意外と人気でアメリカでは流行っているらしく、デザインも特徴的で、ツッコミどころがあって面白いです。よければ調べてみてください!
このように世の中には良い宗教ばかりではないと、むしろ悪い宗教の方が多いですけども、覚えてくれていたら幸いです。
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