生成陣もしっかりおかしかった☆そして軍勢現る

「まさかここまでとは……」


 ケンシンの言葉には感心と呆れが混ざっていた。


「……都合がいいと喜べばいいのか、反動が怖いと怯えればいいのか迷うな」


 デバイスのメッセージ機能を使ってケンシンに4層まで呼び出された俺は、砦の内部に居た。そこに設置したゴブリン系生成陣から生み出されたモンスターを見ての感想がこれらだ。


 なんでかって? アーチャーとライダーしか生まれていなかったからだ。ピンポイントでケンシンが欲しがった2種類。ここまで来ると、不気味に思ってしまうのも仕方ないはずだ。


「……次は門のとこに配置するホブゴブリンが欲しいと言えば叶うので――」


「……」


 ケンシンの言葉が途切れた理由? 簡単だ。目の前の生成陣が光ると粒子が生まれてゴブリンを象っていく。これまでのゴブリンたちよりも一回り大きな体躯をしているのが見てわかる。


 俺たちが見守る先で現れたのは、やや色の濃いゴブリンだった。前述の通り体も大きい。武器だって木の棍棒ではなくて、鉄製の丸盾と短剣を持っている。それが2体だ。


 もうひとつの陣からはアーチャーとライダーが2体ずつ。数の違いは能力に比例しているのだろうか? 


 ダンジョンの意思を感じてならなかった。


「…………透様」


「俺のせいじゃないからな。璃砂のせいにしておけ」


「御意……」


「……? なにか言いたいことがあるのか?」


「いえ……まるで数が圧倒的不利な戦が待っているから希望しているモンスターを生成してくれている気がしましてな。まぁ気のせいでしょう」


「不吉なこと言うじゃん……」


 軍神の勘。当たる予感しかない。


「少し考えたのですが……件の人物のことです」


「例のクラスメイトか」


「はい。指揮官としての実績づくりですが……素直に来ますかね?」


「というと?」


「このダンジョンがある国は大国ですが内乱も多いです。つまり一枚岩ではない……果たして、新たな指揮官候補を素直に受け入れるのか疑問に思いましてな」


「あ」


「恐らく、召喚した派閥に所属しているかと思われますが……違う可能性すらあります」


「……最悪、攻略を失敗させたい勢力も居るってことだな?」


「御意。仮に所属しているのが皇帝派だった場合、追い落とすために他派閥が結託する可能性も考えられます」


「酷い話だ」


「誠に。その場合、入念に偵察してからではなく……逆に情報の少ない今のうちに来るのでは? と思ってしまった次第」


「…………」


「話を聞く限り、いくら指揮官向けのスキルを所持していてもしょせんは素人です。周囲の人間にそういうモノだと言われてしまえば従ってしまうので――ん? ……透様」


 ケンシンが不意に自身のデバイスに目を落とした。その眼光が鋭くなる。その視線がゆっくりと俺に向けられた。


「……聞きたくない」


「司令室に転移しましょう」


 はい、来たんですね。理解しました。





「ダンジョンの外ってこうなってたんだな……」


 街道から少し逸れた小高い丘の麓にある洞窟。これがダンジョンの入口らしい。周囲が平原となっていて開けているから本来は見通しがいいんだろうなぁ……と現実逃避してしまう。


 今みたいな状況ではその立地が悪さしかしていないんだけどな……。


「……数が少ないですな。千に足りない兵力でダンジョンを攻略するつもりなので? やはり敗けることを望まれているようですな」


 司令室に設置されている1番大きなモニターには兵士が所狭しと整列している様子が映っている。その後方には複数のテントが張ってあるのまで見えた。


 あの真ん中のが指揮官用なんだろうな。ひとつだけ明らかにサイズが大きいし、装飾までされている。まるでここを狙ってくれと言われているような気がしなくもない。露骨過ぎる……入口に立っているふたりの兵士は、護衛なのか見張りなのか。悪いことばかり考えてしまう。ただ入口が開放されているから角度を変えれば中を窺えそうでもあった。


「ケンシン、あのテントの中を覗けたりしないか?」


「……距離的に微妙なところですな。試してみましょう」


 ケンシンがモニターに接続されている端末を操作すると、映像が徐々に拡大されていく。ただ残念なことに……。


「……角度的に見えないか」


「……こうすれば如何でしょう?」


 どういう仕組になっているのかはさっぱりわからないけど、軍勢を上空から見下ろすような画角だったモノがゆっくりと下りていく。結果……距離があるため鮮明に見えるわけではないけど、中に人が居ることはわかった。


「……女の子だな」


 俺たちと同年代の女の子。ほぼ間違いなく朔美が言っていた娘だと思う。テントに置いてあるテーブルの向こう側をウロウロ。その足取りがふらついているのは、身に着けている鎧が重いのかもしれない。ヘルムをしてないから顔が見えるが……「絶望」って単語がしっくりくるような表情だ。そんな彼女はダンジョンの入口を見て大きなため息をついた。


「……真っ青ですな。負け戦で殿を命じられた者ですらもう少しマシな表情をします」


 ……それ、ケンシンが追撃側だからでは? ある意味、自棄になって覚悟を決めているだけだと思う。あなた負け戦なんてほぼないでしょ。俺の記憶が正しければ生涯で2敗じゃなかったか?


 疲れたのかテーブルについた女の子。テーブルに両肘をついたかと思うと、両手で長い黒髪をガシガシとかき乱していた。と思ったら腕を枕に突っ伏した。肩が震えているような気がする。あれ泣いてね?


「……なんか可哀想になってくるんだが?」


「……ですな。状況が悪いことを理解しているようです。素人と言いましたが、素質のある素人ですな。生き残ることができれば面白いかもしれません」


 ケンシンの眼差しがどことなく優しい……彼女に同情しているのかもしれない。


「生き残ることができれば、ね」


「御意」


 ケンシンはあの娘を保護することに賛成と。あの娘の様子を見た限り、実はそれなりに良い立場で現状に満足しているって感じじゃないもんな。俺も賛成。ただし本人の意思を優先。


 璃砂と朔美にも確認しないとな。答えはわかっているが、一応な。

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