幽閉お姫様と嘘つき執事
Karura
初めてのお外!(お姫様編)
「お嬢様、そろそろ起きてください」
「シェパード……もうちょっと寝かせて」
そう言って、しばらくすると冷たい空気が肌を伝った。私はたまらんとシーツを手繰り寄せようとするが見つからない
「お嬢様、シーツはもう片付けましたよ。いい加減起きてください」
「えぇ……」
不貞腐れながら体を起こすと、カーテンが揺れる音とともに体一面に気持ちのいい風が吹いた。
「お嬢様、12歳のお誕生日おめでとうございます。年を重ねるごとに美しさが増している気がしますね」
「ありがとう。シェパード」
「では、お嬢様。お手を失礼して」
「えぇ」
シェパードに手をつかまれながらベットから降りようとする……
「おっと」
と躓いてしまった。
「ごめんね。シェパード」
「そこは謝るのではなく感謝を言ってください」
「ありがとう」
「よろしい。それと、私が貴方を支えるのは執事として、≪貴方の目≫として当たり前のことです。特に貴方が気に追う必要はありません」
「ごめんn」
「ん?」
「ありがとう。シェパード」
私は生まれつき目が見えない。だからこうしてシェパードに手を引かれなければまともに歩くことさえできない。
しかしソレを≪不便≫に感じたことはない。なぜなら私にとってソレが日常であり≪普通≫であるのだ。
≪不便≫とは、≪便利≫ではないときに使うらしい。確かに目が見える人からすれば目が見えないのは≪不便≫だろう。しかし、目が見える人が、見えているときにずっと≪便利≫と思いながら見ているだろうか。答えは否。それを≪普通≫と捉えているからだ。≪便利≫と感じるのはメガネをかけたときくらいだろう。そして逆に外した時に≪不便≫と感じるだろう。
わかっただろうか。≪不便≫とは現状から落ちたときのことを言うのだ。ならば元から目が見えなければそれが≪普通≫なのである。
まぁ、ただそう思いたいだけなのかもしれないが……
「今日ぐらいは外に出たい」
「駄目です。お嬢様。それに外に出たいのであるのならお庭に行けばいいじゃないですか」
「外は寒い……」
私は物心ついた時には幽閉されていた。意味不明な文章だが、それ事実なのだから仕方がない。
「顔が問題なら顔を隠しながら、行けばいいじゃない。ターバンとかで頭をぐるぐる巻きにしたりして……」
「溢れ出る美しさと言う物がありましてね。いくら顔をターバンや仮面で隠しても魅了されてしまうのですよ」
魅了。私についた呪い……らしい。シェパードが言うには、私が二歳の時には見た人全員が私の美貌に魅了され、跪いたらしい。
「それに外は危険です。いくら私と言う≪目≫があっても、万能なわけではありません。屋敷のように整備はされていませんし、もしはぐれでもしたら……」
「もういい、もういい。大丈夫だから」
「ありがとうございます」
「それに外に出たらお父様に何を言われるかわかないしね……」
それからしばらくして私は父である王の命によって城の離れに押し込まれた。どうやら、騎士や諸候までもが私に魅了されて仕事に手が回らなくなってしまった……らしい。
「12歳になられて大人になったようで、このシェパード、感無量です」
「煽ってる?」
「お嬢様、段差があるのでお気をつけて」
「話を逸らすんじゃありません」
段差があると言う事はそろそろご飯か……
「シェパード、今日の朝ごはんはなに?」
「いいウインナーが入りまして、それを茹でた物と野菜、バケットになっております」
「ふーん」
「何かお気に召さないものでも?」
「なんでも、ただ誕生日なんだけどなぁとだけ」
「ディナーには期待しておいてください」
席に誘導されてその通りに座る。換気の為窓を開けているのか、ダイニングには少し肌寒い空気が流れていた。
「配膳は、3時の方向温野菜、9時の方向バケット、12時の方向ウインナーとなっております」
そう言い切るとカチャンと窓を閉める窓が聞こえる
「ごめn」
「ん?」
「ありがとう」
体を直し、食事を始める。右手を出すといつもの場所にフォークがあった。それをつかみ、ウインナーからいただく。
プリっとした表皮を歯で裂き中の肉をすする。瞬間
「あっつ!」
「水は2時の方向です」
急いでグラスをつかんで、水を飲む。結構起きてから、時間が経っていたので冷めていると思っていたので、驚く。
「ウインナーは冷めると、油が固まるので温度にはこだわっているんですよ」
二度寝を許さなかったのそれが原因か……
「うまい」
「ありがとうございます」
悔しいがうまかった。
※※※
今日は寒いので、庭ではなくサンルームで太陽を感じる。耳を澄まさなくてもストーブがバチバチと音を立てているのが聞こえる。
「お嬢様、これからディナーの支度をしてきます」
「早いわね」
「特別な物を用意するので」
「それ言っちゃていいやつなの?」
「……行ってきます」
「期待してるわよ」
シェパードはスタスタとキッチンに向かって行った。
「暇だなぁ」
なぜだか今日は眠気がなかなか襲ってこない。普段なら暇になったとたんすぐ寝れるのだが……
「散歩をしよう!」
久しぶりに一人で歩くことにした。一応杖は常に腕にくくりつけてあるため、歩こうと思えば一応歩くことはできる。
肘置きから、杖へ。腰から、足に体重を任せ立ち上がる。
昔、本で聞いたとことがある。人間には五感以外にも≪感覚≫があると、別に第六感の事を言ってるわけではない。味覚、聴覚、嗅覚、触覚、視覚のほかにも痛覚や平衡覚なども≪感覚≫と言うものに入ると言いたいのだ
「……おっと」
私には、視覚がない。通常の人間は、視覚と平衡感覚を使って体のバランスをとるのだが、私には平衡感覚しかない。普段はシェパードに体重を預けてるものだから、たまに一人で歩くと倒れそうになってしまうのだ。
「どこに行こうか……」
散歩すると言っても、どこに行くかは決めていなかった。今の時期庭は寒いだろうし、キッチンに行くのはシェパードの邪魔になりそうで申し訳ない。
「ん?」
今なら外に出れるんじゃ……いや、もしばれたらシェパードに悪いし……でも、今日は誕生日だし許してくれる……よね?それに
「ばれなきゃ大丈夫だし」
そうと決まれば、すぐ出発だ。杖で回りを探って、安全を確認出来たら進む。これを繰り返す。
「123、123」
屋敷の地形はもう頭の中に入っている。何せ10年も住んでいるんだ。出口ぐらいわかる。……一度も使ったことはないけど。
※※※
しばらく進むと≪コツン≫と杖に何かが当たる感覚があった。
「ついたぁ」
約10分もない移動、それでも全神経を張り巡らせて移動すると言うのは疲れるものである。こんな風になるのなら普段から一人で歩く練習をするべきだった。
そう思いながらドアノブを手探りで探す。すると、すぐに見つけることができた。ドアノブをひねり開けると、冷たい風を体全体で感じることができた。
「上着でも持ってくればよかった」
もう日ができっているのにこの気温、今年は冬が来るのが近そうだ。
※※※
外を歩く背徳感に酔いながら、しばらく歩くと人がいるのかあたりがざわつきだした。
「何……あれ……」
「うっ!おえっ」
そういえば朝言ったターバンでも巻いとけばよかっただろうか……
「俺、騎士様を読んでくる!」
「やっやめて!」
騎士を呼ばれると、お父様に外に出たことがばれてしまう。何とかして阻止なければ、そう思い走ろうとすると足がもつれ倒れてしまった。
「来るな!化け物」
そのまま這いずって声の主へ近づく。すると
「消えろ。醜い化け物め!」
強い衝撃。どうやら誰かが攻撃してきたらしい。
「やめて!叩かないで!」
私は抗議の声を上げるが、全然攻撃はやまない。
「俺がこの町を守る!」
それどころか、攻撃の手が増えてきた。蹴りや、こん棒様々なもので殴られる。まだ刃物を出されてないことが唯一の救いだろうか。
しばらく経つと、どこからかカチャカチャと鎧の音が聞こえる。どうやら騎士たちが来たようだ。お父様に知られてしまうのはまずいが、これで攻撃の手はおさまるだろう。
「なんだこの化け物は……」
え?
「どうしましょうコレ」
「もしかしたら悪魔の手先かもしれん。今のうちに処分しておこう」
処分?すると、近くから、≪シュー≫っと金属がこすれる音がする。
「動くなよ。化け物」
声が近くから聞こえる。頭が混乱してうまく動かないが、今から殺されるのだと察した。
「お待ちください!」
「あなたは……」
「シェパード!」
近くからシェパードの声が聞こえ安堵する。
「お嬢様、あれほど外に出ないように言ったじゃないですか!」
「ごめんなさい」
肩をつかまれながら、シェパードに怒られる。
「シェパード殿、もしやその方が……」
「はい……今回のところは見逃してくれませんか?」
「……国王には報告させてもらいますぞ……行くぞ!」
またカチャカチャと鎧のこすれる音がする。騎士たちは去っていったようだ。
「お嬢様。帰ったら説教ですよ」
そう言って、私を立ち上げらせおぶる。私は首に手をまわし、右足と左足を持ってもらう。
「お嬢様、あまり中足をプラプラさせないでください」
そう言われ、中足をピンとのばす。小っちゃいころも良く注意されてたっけ……
「ありがとうございます」
「ねぇシェパード」
「なんです?お嬢様、謝罪なら大丈夫ですよ。あとでたっぷり説教させていただくので」
「ちがう」
「では、なんです?」
「私って……醜いの?」
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