学園最強精霊使いに何故か好かれている
イケのタコ
第1話 出会い
バタフライエフェクトとは、一匹の蝶の羽ばたきにより、巡り巡って台風が起きるというもの。
その時に蝶が飛ばなければ起きなかった現象ともいうべきなのか。小石が転がり、大きな石になって返ってくるといったところだろう。
という話があっても今はまったく関係ないと、イーナは教科書を閉じる。
「えーと、時間が余りましたので、一つ質問に答えて行こうと思います」
教壇に立っていた先生は時計を見ながらそう言った。
「何故、禁術を使ってはいけないのかという質問がありました。魔術を学ぶ際に必ず教えられる禁術。では何故使ってはいないのか。第一に使った魔術師自身の命を奪うからです。禁術を使った者は数日以内に死ぬことがすでに分かっています。そして、倫理的、非道的な術が多いことも関係しています」
「はい、先生」
講義室の中、生徒の一人が手を上げてから立ち上がる。
「ですが、禁術の中には人を癒すものもあります。禁術によって数日後に死ぬのは因果関係はまだはっきりしていませんし、それらを禁術とするのはあまりにも基準が曖昧では」
「確かに、禁術の中には立派な術として使われていた時代もありました。ですが、どの国であろうとどんな人物だろうと願っていないものに術は変質し最悪を迎える。術を発動した際に毒の粒子が発生するなど、様々な説はありますが、何が原因であるかは、はっきりとした物は見つかっていません。しかし、昔からたくさんのありとあらゆる所で混沌と最悪に落ちたと記録が残されています。そうですね、人の目では見えない何かが動いてると、言ったところでしょうか。
ですから私は『術』は生きていると思っています。術式は子供を生み出したと言っても過言では無い。意見、意思があるからこそ、作り出した主の範疇を超えて意思を背くのでは無いかと思っています。ですから、そこの君、安易に術を使わないように」
長い話終わり。質問してきた生徒を先生は咎めるように指し、生徒は後頭部を撫でて恥ずかしがる。その生徒の周りにいた友人達は「バカじゃねの」と軽く叩き、講義室は笑いに包まれ授業は終わった。
さて次の授業。
次の場所を確認しつつ、イーナは机に広げていた物を鞄に入れて移動しようとしていた。
その時だった、正面から何かが飛んでくるのが見えてはかけていたメガネが嫌な音を立て吹き飛んだ。
無惨に転がるメガネと小さな小石。そして階段を勢いよく登ってきては、イーナの横を走り去っていく生徒数人。
そして、講義室を出ていく時に聞こえてくるのは喜びの声と落胆の声。
「よし、当たった。俺の勝ち」
「くそっ、奢りかよ」
その生徒達は笑いながら去っていくのだった。
またか。
イーナは呆れつつも、床に落ちたメガネを探すために膝をついた。
裸眼では物の輪郭ぼやけ、光も当たらない場所に落ちために手探りで探すしかなかった。それが中々見つからず、あったと思えば椅子の柱だったりで見つけるのに苦戦する。
「ねぇ、これ君のメガネ」
落ち着いた声が降りかかって、四つん這いのままイーナが見上げれば目の前にメガネの様なものを持った誰かが立っていた。形はがっしりとしており、声も低いから男だと分かるが、黄色と青という色しか見えず、特徴を捉える事は一切出来なかった。
「そうだと思います。見えないですけど」
「片方、割れてるけど……」
「見えないより良いので」
「そうだよね」
メガネを受け取ろうと手を出したが、男の手によって先にメガネを掛け直された。
「レオン様、次の予定がありますのでお早めに」
「すぐに行く」
片方のレンズは割れていたが、一気に視界がクリアになり、周りが見える。
残念ながら、メガネを見つけた男は呼ばれて振り返り、顔を見る事なくそのまま走り去ってしまった。
誰だったのだろうか、去っていく背中。名前と黄色い頭しか情報がない。
礼を言いそびれてしまった。また、会えると良いけど。
考えながらイーナは割れたメガネのまま立ち上がり膝の埃を払い、やり残していた机の片付けを始めた。
ここは某と言われるほどに有名な魔術学園。ここに入れば必ず将来が有望となると謳われ、国の権力者はこぞって子供を入学させるらしい。
しかし、どんな権力者であろうと狭き門の学園。難関な試験に受かり、学園側から許可がなければ決して入る事は許されない。そういった事もあり、学園の試験に受かれば年さえも関係ないので、10歳くらいの子供が先輩だったりする事もある。
そんな猛者ばかり集まる学園で、イーナはある理由でここに来ていた。
と言っても、特別な理由はなく。国際交流のようなものだ。お隣同士仲良くなってきたから、お互いに学生を交換して学校に行かせようというものである。
だから、イーナと同じ理由で在学しているものが何人かいる。
断れば、良かった。メガネ……何個目だろ。
壊れたメガネを見ながら、どこにでもいるよう平凡な学生であるイーナは次の授業に向かうために廊下を歩く。ここに来て数ヶ月、親しい友人も出来ず学園に馴染めずにいた。
有用な学術が学べる学園だとは言え、強者しかいない中での弱肉強食、弱いものはこうやって弾き落とされていくのは至極当然。
何一つやり返せない自分が情けないと思いつつ、落とされる前に自分から身が引く方がまだ傷が浅いだろうと。
こんな中途半端に帰ってもいいのか。まだ出来る事があるのではないかと勘繰り。止まる、止まらないと、どちらの選択をしても気分は最悪であり、晴れる事はない。
そうして考えている内にメガネをヒビを見て、前を見ていなかったイーナは前から走ってくる生徒にぶつかった。
走ってきた生徒も前を見ておらず、予期していない出来事にお互いに尻餅ついた。
「っ!」
イーナが謝る前に、生徒は尻を強打しようが四つん這いに手と足をバタバタと動かしては、立ち上がりにそのまま走り去って行く。
顔面蒼白で何も言わずに去っていく生徒に、少し恐さを感じつつ、慌てて何だったのだろうかという疑問が湧いてくる。
考えたって仕方ない、その時はそう流すしかなかった。何故彼が顔面蒼白で走って来たのかを、後日口伝えで知ることなる。
「昨日、聞いた?中庭であった話」「聞いた。馬鹿だよね、あの人に戦い挑むなんて無理だって」
後ろ指、指されながら生徒達に噂されているのは昨日ぶつかった生徒だった。先生に連れられて、生徒はずっと下を向いて歩いていた。
「えっ、私が聞いたのはあっちから仕掛けて来たって」「そうなの……でも負けるのは当然だよね。自分だったら逃げるよね」
あれは違う、これはそうだと様々な噂が聞こえてくる。真相は分からないが、大筋は中庭で恐ろしく魔術が強い生徒と平凡な生徒が戦ったらしい。結果は、当然の如く恐ろしく強い生徒が勝った。
その出来事が起きた後日。一応、学園の許可なく術は使ってはいけない決まりとなっているので、両生徒朝から
先生に呼び出されていた。
そして、術を使ったもう一人が先生によって連れ出されていた。
「キタ、キタ。先輩だぁ」「相変わらずかっこいい、惚れ惚れする」
先ほどの生徒と違い、堂々と前を見て通り過ぎていく男子生徒は後ろ指を指されるどころか、甘い声援が飛んでくる。
確かに、思わず手を振りたくなるほどにその生徒は綺麗な顔立ちをしていた。絡まりのない艶やかな金髪、鼻筋は通り、卵のような綺麗な肌に身長は180以上ある。世の女子達が叫びたくなる理由が分かる。
かっこいいーーー、っとイーナは思わず通り過ぎていくのを隣にいた女子達と同じように眺めていた。
呆然と目で追いかけていると、金髪の男と偶然にも目が合った。
見つけた。
声としては聞こえなかったが、金髪の男にそう言っているように見えた。
「きゃー、こっち見てくれたぁ!」「きっと私を見たんだわ」と隣の女子達が騒いでいたので、イーナはなんだそう言うことかと思う。
てっきり、自身に言われたと思っていたが大きな勘違いだったようだ。
きっと可愛い、女子でも見つけたのだろう。
イーナは途端に興味を無くし、いつのまにか集まっていた野次馬を掻き分けて、次の教室に向かう。
その人が、黄色い悪魔と二つ名で呼ばれているのはまた別の機会に知る事となる。
学園最強精霊使いに何故か好かれている イケのタコ @sikakui
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