インセクトホテル
阿賀沢 周子
第1話
あれは“インセクトホテル”だったのだろうか。なぜか郷愁を誘うたたずまい。ひなびた屋根には枯れた枝葉。飾らない壁。不思議な空間。“ホテル”とは隣町の行きつけのレストランや、郊外の道の駅で見た背丈より少し小ぶりの”建物”のことだ。
レストランにあった建物には、古本が並べてあり「ご自由にお持ちください」と書いてあった。使い方はともかく、あとで見た道の駅のものと似通った造りで、白樺の柱が特徴的だった。
道の駅では、姿形に惹かれ買おうかどうしようか迷った。小鳥の巣箱にしては妙に凝っている。まるで妖精が優雅に暮らす小さな家という感じで胸の奥底の乙女心が動かされた。が、値段が少し高めだったので断念した。
今朝の新聞記事で、インセクトホテルというものの存在を知った。またの名を“昆虫ホテル”。近年欧州を中心に広がった、昆虫の多様性や生態系を守るためのスペースを設置する取り組みだ。昆虫の産卵や、越冬する場所として、主に森の材料で作られる。
テントウムシやハチ、チョウなど昆虫によって構造や材料が違う。大きさはさまざまで、日本でも公園や市民農園、ビルの谷間に置かれているという。
乙女心が動かされたのではなく、共生本能が揺さぶられたのだろうか。ホテルを作って庭に置いてみたいと考えたが、今年の夏の暑さのせいで庭全体がうっそうとしていて虫だらけ。これはもう大きなインセクトホテルではないかと設置はあきらめた。
インセクトホテル 阿賀沢 周子 @asoh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます