父に一時的だけ家に来ないかと言われたが、やる事があると伝え断った。


 上司には落ち着いてから出社しますと連絡したら、良い記事を出してこいよと言われた。ちなみに早見も同じことを言われたらしい。



 俺は警察からの聴取で警察署に行ったり、または警察自らの訪問もあった。


 警察はまず村があるのかを検証し、そこに住んでいる村人を全員確保するらしい。



 その後。


 俺は三日間家に引きこもり、理玖さんから貰ったUSBメモリの記録をパソコンに入れ、端から端まで調べた。

 早見はカメラに入ってる写真を加工したりするらしい。


 後に上司と早見と俺でリモート会議をするらしいので、それまでには纏めておかないといけない。


 理玖さんが記録したものは、村の実態、村人の分析、そして理玖さんの想い。


 初めに、村についての資料を読み始めた。


ーーー


 平和であった柳村に、突如辻島牡蠣太郎が侵入して惨殺をし始めた。


 全ての男性、子供を殺し、若い女性だけは殺さなかった。


 その時に生き残った女性は四人。女性はみな、辻島牡蠣太郎の残酷さに怯え、従うしかないと思っていた。女性と牡蠣太郎は死体を焼いたり、バラバラにして埋めた。


 辻島牡蠣太郎は四人の女性を毎日犯していた。特に一番健康体である雪子には念入りに。


 それをする動機は、自分の子供が欲しかったから。


 女性三人は子供を合計五人産んだ。雪子だけは六人産み、その中に綾女と理玖が居た。


 綾女と理玖以外の子供には少々の知的、身体障害を持っており、一番重度なのは真春(マー君)だった。


 辻島牡蠣太郎は全ての子供を愛し育てた。特にまともな能力を持ってる綾女と理玖にはやれる事をどんどんやらせていった。


 すると産みの母親は、牡蠣太郎は良い人だと讃え洗脳された。勿論子供達は牡蠣太郎を父親のように思い込んだ。


 当時の牡蠣太郎に逆らうものは居なかった。


 惨殺後の一ヶ月後に、牡蠣太郎は親戚の人と密かにコンタクトを取り、ヘリコプターによる物質配給を始める。そのおかげで飢えはしのぎ、教育にも力を入れれる余裕が出来た。


 女性と牡蠣太郎子供達を育てながら働き、一見穏やかな日常を送ってるように見える.......。



ーーー


 ........。これが村の実態なのか?


 雪子さんが何故歯も髪もボロボロだったのは、子供を産み続けていたからなのか。そして綾女さんも理玖さんも雪子さんが母親って........。


 吐き気がしてきた。気持ち悪いというより、腹部に小さな虫が居るような不快感が纏ってる。


 まだ資料はある。もっと衝撃な内容だろうかと思うと読みたくないが、記事にするなら読まないといけない。


 警察の手に渡る前に、全部自分の目で確かめたい。


 俺は次に村人の分析についての資料を読み始める。


ーーー


 村長 辻島牡蠣太郎


 ある日辻島牡蠣太郎は名を伏せ、村人には村長と呼ぶよう伝えた。


 村長の仕事は村の見張り。綾女に任せているとはいえ、細部は村長が見ており、彼女の暴走を止める為にも存在していた。

 

 当時の残酷な人格は封印し、穏やかな村長を演じていた。なぜなら増え過ぎた村人達から自分に敵意が向かないようにする為。


 とはいえ残酷さは相変わらず。今でも村長は自分の子供が増えることに快楽を感じる性癖であり、密かに楽しんでいる。

 ある日自分が死んだとしても血を絶やさないよう、村から出る計画を立てていた。


 しかし異常かつ狡猾でありながらも、攻撃される事に恐れてる。敵意を向けられたらすぐ綾女を使い殺す徹底ぶりだが、逆にいうと敵意さえ向けなければ見逃したりする。


 何処か間抜けな村長だからこそ、いつか始末出来ると確信した。


 絶対に血筋を絶たなければならない。この血筋は、迷惑しか産み出さないものだから。



ーーー


 そういうことか。村長の謎の発言は、相手の反応を見て楽しんでいたという解釈になる。快楽殺人の考え方には全く理解出来ないが......。

 

ーーー


 村のリーダー 綾女


 産まれた時からホルモン異常が見られていた。女性ホルモンが少なく男性ホルモンが多いため、幼い頃の風貌は男の子のようであった。


 物心がついた頃の綾女は、村長の洗脳により子供を産むのが女性の絶対あるべき姿だと認識していた。


 すると女性意識が高まり。性格は男性的とはいえ、外見は女の子らしくしようとした。

 女性ホルモンは、外見からでも変化に繋がると勉強していたからだ。


 しかし十八になっても初潮は来なかった。一度外部で検査してみたところ、昔よりホルモンの数値にかなり異常がみられ、初潮もおろか子供すら出来ないと診断される。


 綾女はそのショックで何度も自殺未遂をした。常に長袖なのは、腕の大量のリストカットを隠す為だ。


 彼女の辛さは数ヶ月続き、拒食症も見られていた。


 その時に村長から励まされた。詳細は不明だが、どうやら子供を産まなくてもいい、貴方には別に役立つことがあると言われていたらしい。


 綾女の頑張りは、村長から失望されないようにだった。時に体調を壊しても気丈をふり、指揮っていた。


 だが自分よりも若くて健康体の女性を見ると嫉妬をし、虐めをすることがしばしばある。その背景からして、産めない体をとても嫌っているのが分かる。


 ちなみに周りからは、綾女は十代だろうと思われがちだが、実際の年齢は四十代である。

 胸や尻の貧相、肌質は子供なのでよく間違われる。それを綾女はたまに利用してる。


 綾女は自己を一番敵視しているが、敢えてそれを気にしない素振りをしている。


 それがいつか歯止めの効かない暴走へ繋がると予想した。


 誰かが気付かせないといけない。村長以上の異常者は、もしかしたら綾女かもしれない。



ーーー


 真春 マー君 


 耳が長く目付きに独特さがある知的障害。純粋過ぎる為に異常的な性癖を持ち、動物を犯すことを好み、または人を襲う。

 

 もしかしたら他にも障害があるのかもしれないが、周りはほぼ黙認をし許している。綾女の圧がさらに制限をかけてるのだろう。


 本人には全く責任能力がない。力だけが強く、暴れてしまうと手がつけられなくなるので、しばしば綾女は、マー君に対し性的な慰めをしていた。


 マー君と綾女の関係は母と子のようだ。多分綾女は自分には子供が出来ない悲しさから、マー君に愛情を与えようとしてるのだろう。


 とはいえマー君は生きていても価値の産み出さない存在の為故に、一部の村人からは毛嫌い扱いだ。


ーーー


 衝撃的だ。性的な慰めって.......。好きでもない人に簡単に出来るものだろうか。


 でも。マー君は可哀想な子かもしれない。本人は欲望のままに生きてるから辛くないかもしれないが、産まれたくて産まれたわけじゃないから。

 

 この書き込みからしたら、理玖さんはマー君を殺したかったのだろうか。


 俺からしたらそうには見えなかった。寧ろ優しく、誰よりもマー君を理解してるように思える。



ーーー


 哲夫   辻島牡蠣太郎の親戚のおじさん 


 辻島牡蠣太郎を救済する親戚。元から辻島家は犯罪家系であるため、殺人は辻島牡蠣太郎のみだが、身内には窃盗、強盗、強姦罪等を簡単にやる輩ばかりだった。


 哲夫は、身内の中では辻島牡蠣太郎が一番仲が良かったらしい。その理由だからか、ヘリコプターで物資配給をしてるのかもしれない。


 ヘリコプターを奪うついでに、哲夫も殺すことは既に決めていた。彼が居ると、村人を外に出してしまうからだ。



ーーー

 

 キーパーソン的な存在だった、のか。仮に俺達が脱出しようがしないが、いつか殺さないといけない。


 理玖さんの決意はどれだけのものか想像出来ない.......。俺よりも歳下だと思うけどいや、人を殺す度胸は普通ないしありえない......。


 理玖さんの血には、やはり辻島牡蠣太郎の血が混ざってるのかな。


ーーー


 雪子 女性村人の中で一番子供を産んだ


 彼女の扱いは無惨であった。村長は雪子が子供を産めなくなったと分かった途端、冷たくあしらうようになる。


 雪子は五十代で歩行困難になり、歯が欠け咀嚼しにくくなった。肌や髪質は八十代の女性のようで、言語能力にも衰えが見られる。


 雪子は来客者達に逃げろと必死に伝えようとしていたが中々言葉にならず、周りからみれば精神障害者にしか思われていなかった。


 綾女はたくさん産んだからというより、自分の母親であるから介護をしていた。しかし育ては母親より父親の牡蠣太郎なので、やはり介護をするのは牡蠣太郎による洗脳かもしれない。


 俺はこっそりと雪子の介護をし、情報を集めようとした。言葉は難しくても首を振ることが可能なので色々質問してみたところ、村の実態が判明した。


 本当は雪子を助けたかったが、ヘリコプターまでは無理だろうと断念せざるを得なかった。


 それに雪子は生きたくなくて、死にたい気持ちが強かった。


 彼女の為に殺すべきだろうか。



ーーー


 俺も雪子さんは助けたかった。ヘリコプターの操作や早見を気にしていたら余裕が無くて結局.......。


 雪子さんとはそんなに関わりが無かったが、とても優しい方だとは思った。雪子さんのおかげで脱出する一つのきっかけになったし。


 雪子さんは亡くなったのだろうか。もし亡くなったとしたら、誰に.......。


 俺は頭をふり、一度深呼吸をした。


 次の資料で最後だ。



ーーー


 この資料を読んだ方はきっと記者であり、村の餌食となった生還者だとおもいます。

 

 資料の作成、写真は全てこの私、理玖がやりました。


 何もかも信じがたいものでしょうが、これが村の現実なんです。異常を異常とは考えず、正常を排除しようとするのは正に狂気の沙汰です。


 一番の元凶は当然辻島牡蠣太郎です。


 綾女が所持していたショットガンは、多分辻島牡蠣太郎の物だと思います。明らかにされていませんが、そのショットガンで惨殺行為をしたのでしょう。


 辻島牡蠣太郎は昔も今も変わらない残虐な人間です。生きている価値は全くありません。


 私は奴の子供であり奴が父親ですが、奴を父親だと思っていません。


 人を人としてみない快楽目的で支配する辻島牡蠣太郎は化け物です。


 こいつは絶対に誰かが殺さなければならない。それをするのは私か、或いは...。



ーーー


 

 俺はパソコンを閉じ、眠気覚ましに目を擦り、窓の外へ見上げる。


 空は雲一つもない澄明だ。妙に明るいと思いスマホの画面を見ると、時計は七時になっていた。


「夜が明けるまで没頭するのは、変わらない癖だな.......」


 コーヒーを飲もうと、一旦部屋を出た。


 この場所は、守られてる安心感がある気がする。



 あそこはこんな美しい空は無かった。



 そして今でもきっと、こんな空は見れないだろう。



 世界が違えば、見えるものも違う。



 理玖さんはそう、教えようとしたのかもしれない。


「理玖さん。本当にありがとうございました」


 呟いた後。なんだか罪悪感とスッキリした気持ちが同時に込み上げた。


 理玖さんは多分、この世には居ないのかもしれない。そう思うと悲しいというより悔しくなる。


 大事な人だからじゃなくて。真実を告げないといけないのは、理玖さんの方からでは。と、思うから。


 それでも俺達に託すのは、多分自分から発信したくないんだろうな。

 真実を知ってるからこそ、その真実を信じたくない心情も、分からないことはない。


 だって怖いから........。


 


 三日後の夜にリモート会議が開かれた。


 パソコンの画面には上司と早見が映っている。早見の顔色は前より若干良くなってる気がする。


 上司は俺と早見を敢えて長期休暇にしていたらしい。急に連絡が途切れたから、もしや事件に巻き込まれたのではと考えていたらしい。


「考えていたら警察に言ってくださいよ!」


「だってぇ〜。もしそうなら、俺のせいじゃんそれ」


「死ぬところだったんですよ!?」


「死んでないから良いじゃん」


 上司と早見は軽く喧嘩している。久しぶりでも相変わらず日常的というか。


 俺はやれやれと思いつつ喧嘩に区切りをいれ、報告をし始めた。



 報告が終わった後、しばらく沈黙が続いた。


 上司はいきなり俺達を褒めたたえた。でかい記事をありがとう! って。


「だがお前たちの名前をどうするか」


「会社のことを踏まえ、実名は隠した方が良いと思います」


 早見も同意した。


「二日前までは記事なんて大丈夫かと心配になりましたが.......。やるべきものではあると思いました」


「ふむ。お前達が命を賭けた記事は必ず売れるだろうな。よし。記事はお前達に任せる。思う存分に書け」


 上司の思う存分は正に言葉通りだ。


「.......はい。良い記事を書いてみせます」



 早速、俺と早見は共同作業で記事に取り掛かった。


 その間に刑事さんから電話があったので。実は村のデータがあると伝え警察署に渡した。


 警察はそれでやっと、村の場所へ行く事を決定した。予定では一週間は掛かるそう。


 

 俺達は一週間で記事を完成させ、入稿することにした。


 記事の内容は理玖さんの言い分と村の実態、俺達の感想と簡潔に纏めた。そして警察から許可を得たので、記事の所々に村の写真も添付した。


 記事を完成した時。本当にこれを世に出して良いのか迷ったが、意外にも早見が背中を押してくれた。



「真実を伝えれるのは私達しか居ないんです。そして私達だけしか、亡くなった方の供養が出来るんです。何が起きても私は水木先輩を裏切らないし、ずっと味方ですよ」


 

 早見は俺よりも意思が強かった。最初のころの弱かった早見はもう居なかった。



 

 一週間後に村が報道された。


 村長は村人達によって首を絞められ死亡。理玖さんと綾女さんは崖から落ち死亡。マー君他村人達は警察に保護された。

 

 多分理玖さんは綾女さんを追いつめ、一緒に死んだのだろう。力は綾女さんが圧倒らしいから、完全勝利は無理だったのだろう。


 村長は本性を出した末に、村人達は生きるために村長を殺したのだろう。その中には村人数人が村長により殺されてしまった。



 保護された者は罪に問われるが、多分最終的には一種の被害者であることが分かり、精神病院へ措置されるのだろう。


 理玖さんが言っていた種の生存はどうなるか分からない。

 俺達の記事がどこまで世間に渡るか次第じゃないかと思った。



 俺達の記事は報道後の三日後に、ホームページに更新された。


 すると今まで一番コメント数、閲覧率が上がった。

 すぐに記事ランキング一位を獲得し、会社の電話に賛否の意見がたくさん飛んできた。


 一時会社は慌ただしく混乱になったが、上司だけは冷静に対応していた。



「売れてる評価されてる間にやるべき事をしっかりするんだ」



 上司の意見は正しかった。この記事のきっかけで、大所のホラーメディアに注目されたのだ。勿論事件の方でも。


 俺達を取材したい者も現れたが断り続けた。音声だけでも嫌だった。


 真実は全て記事に書いてある通りで、その後の補足には何の意味も持たないと思ったから。


 ただもし。理玖さんがこの場に居たら受けていたのかもしれない。一番真実を知ってる人は、理玖さんだから。


 理玖さんの死は本当に残念で。だけど理玖さんが望んだ死じゃないかとも思う。

 

 そうなら彼は幸せなのかもしれない。そこを否定しようとは早見も俺も全く思わなかった。


 俺達はこの記事で、辻島牡蠣太郎の血縁が絶えたら良いなと切実に感じる。理玖さんと社会のためにも。

 


 それ以上に人を支配する恐ろしさが伝われば......。



 人を憎み恨み。人を犯し快楽を感じる事は異常だと.......伝えたかった。


 一人でも良い。一人でもそう感じてくれたら、俺達の記事は生まれるべきものに変わる。


 俺のやり方は乱暴だが、乱暴以上のメッセージ性を心掛けていた。


 

 小さな気付きは大きな気付きになる。



 それだけの為に。たくさんの記事を書いているんだ。

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