第3話 高鳴る鼓動の易

 ヒ……ヒヒッ……ヒヒ〜ン!


 牛の刻。

 城門から聞こえる不自然な馬車馬のいななきに私は武者震いをしながら、再び黒百合の間へ向かいました。無論、二人目のお見合い相手、田中馬兵衞様にお会いする為にごさいます。


 形式な挨拶を済ませた後、暫しの歓談。


「夢月殿。それがしは易が出来ます」

「さようでございますか。しかしながら私は易の事は全く存じません」

 ※占いの事

「それでは、それがしに手のひらを拝見させて下さい」

「手のひら……でごさいますか?」


 若干目尻が下がった表情に違和感を感じながらも、手のひらを差し出しました。


「私が最も得意とするのは手相。人間の持つ家族愛、情熱、才能、運命、人気、金運が手のひらの線を読み解く事でわかるのです。太陽線、財運線、知能線、生命線、運命線、結婚線、感情線など、長さではなく線の濃さや形で判断します」

「さようでごさいますか。では早速お願い致します」


 馬兵衛様の話を聞いて神秘的な何かを感じた私は、今まで存じていなかった易と言う物に興味が湧いてきました。

 

「はて? なんて柔らかな手であろう。丸見えだ……隠さないでおくれ。じっくり見てあげよう」

「あの……」

「夢月殿はいけないお方だ……風呂敷の様におっぴろげて……」

「ただの手の平でごさいますが?」

「どうしたのでしょう? 恥ずかしいでござるか?」

「いや、ですから……手のひら……」

「これが生命線。ゆるりとなぞってけろう。それがしの指を感じるのでござるか?」

「こそばゆいだけでございますが?」

「この運命線をどうして欲しいんだい? 指かい? 舐めてけろうか?」

「いや、手のひらを舐めるのはひかえて頂き――」

「声を出してもようござるぞ?」

「易とやらはいつ始まるのでしょうか?」

「声を出さないとやめてしまうぞ?」

「いつでもやめて構いませぬが?」

「イク時は声に出してようござるぞ?」

「どこにも行きませぬが?」

「どうしたのだ? こんなに濡らして?」

「冷や汗でございますが?」


 無礼討ちに致しましょう。


 

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