第2話 五・七・五の困惑

 チュンチュ〜ンチュチュチュ――

 種不明の鳥が静かに囀る中、私は眠りを覚ましました。そして枕元には母上様が一晩かけてしたためたと言う、思わずため息もれるなぐり書きの書。

 当然ながら昨夜は床の中で目を通し、読み終わる事なく疾風の如く眠りにつきました。


 改めて拝見致しましょう。

 

一、鈴木家当主 鈴木馬左衛門

 川柳・妄想・結論を語る前の過程が長すぎる・千里の道も一発から


二、田中家当主嫡男 田中馬兵衞

 易・自己陶酔・どこからでも切れますが切れない・能ある鷹は竿を隠す 


三、佐藤家当主 佐藤馬次郎

 小話・誘惑・一生の願いの乱用・時は玉なり


 なにゆえ全員、名に馬が付随してるのでしょう。


 サーッ――

 襖が開く音。


「夢月、ようやく目を覚ましたのですね」

「あ、はい。母上様、申し訳ありませんがふすまを開く前にお声がけして頂くとありがたいのですが……」

「なんですの? そなたはまた、一人せせりに興じていたのですか?」

「…………」


 いきなり寝所に突入遊ばされた母上様。その表情に迷いや曇りは微塵もあらず。


「間もなく子の刻。最初のお方である鈴木馬左衛門殿が城内黒百合の間にてお待ちですよ」

「かしこまりました」

「衣装を替え、早くゆきなさい」

「はい……」


 三人の下女がすぐに参上し、身支度を済ませた私は黒百合の間へ向かいました。


 さすがに緊張と気恥ずかしさがありますね。

「コホン」

 軽く咳払いをし、お声がけ。

 

「遅くなり申し訳ありません。鈴木馬左衛門様、近藤家の夢月にございます。入ってもよろしいでございましょうか?」

「夢月殿、良いでござるよ、待ちかねた」


 語感に若干違和感がありますね。


「失礼致します」


 鈴木馬左衛門様は凛々しく整った顔立ち、髭も少なく滑らかな肌艶の殿方でした。容姿に関しては私にはもったいのう、お方。


「これはまた、いと美しい、夢月殿」

「と、とんでもごさいませぬ……」

「器量よし、色気もありし、花盛り」

「とてもありがたいですが、お褒めはそれくらいに賜りましょう」

「勾玉の、光りて同じ、夢月殿」

「…………」


 これは意図的な五、七、五でごさいますね?


「あの……馬左衛門様が普段興じてるものは何でございましょうか?」

「寄席歌舞伎、相撲遊郭、伊勢神宮」

「……伊勢神宮? 馬左衛門様は旅行に行かれるのがお好みなのでしょうか?」

「はいもちろん、今日は南へ、明日は西」

「さようでございますか。羨ましい限りでございます」

「今日は吉原、堀ノ内、中洲すすきの異国の地」


 お引き取り願いましょう。

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