Chapter 002 いやいや、300年って……
あれっ?
──ここは?
私の愛しの惑星メラじゃない。
サクヤはベッドで寝惚けたまま上半身を起こす。
大きく両手を横に広げて伸びをし、大きくあくびを一つ入れたところで、段々と目が覚めてきた。
──そうだ。
惑星メラで色々と当面の対応策をプログラムに組み込んだ後すぐに課長から連絡があって……。
すぐに後任が来たからって、ひと月待たずに地球に戻ったんだよね……。
それから……。
あぁっ──────っ!?
ベッドに再び倒れ伏し、身体をあり得ない角度まで後ろに反らしつつ髪をかき毟りながら、断末魔のごとく叫び声を上げる。
あぁっ……。
なんでこうなった?
なんでこんな不幸が私に降り注ぐ?
Why?
サクヤが地球の勤務先に戻った直後に勤め先から言い渡された到底受け容れがたい宣告。
それは、会社に損失を出した分を借金として返済されるまで働くこと。
いやいや、そもそも私の過失じゃないし……。
むしろ三年間、頑張って必死に働いたと思うんだけど……。
なぜこうなる?
サクヤの帰宅直前に突然、なぜかサクヤの上司である課長は別の国の部署へ急に異動となって姿が見えず、サクヤの後任はまだこちらには来ておらず、代わりに本社から来た新しい上司が彼女を笑顔で出迎えた。
新しい上司は、サクヤに先の言葉を笑顔で説明をしてきた。
説明を聞くと本社の方へ、匿名の内部告発が届いたそうで、サクヤには全く心辺りがないのにも関わらず、彼女の故意での過失について、他より幾重もの謎の状況証拠が次々と出てきたそうだ。
動機は、惑星を当選し、自由を得た衝動でのこれまでの仕事に対する不満への憂さ晴らし……。
……なにその動機?
これからハッピーになる神の行動じゃないよね? 絶対!!
課長は、私のことを「アイツはそんなことするやつじゃない」と本社の神達に抗議してくれて、私を最後まで庇ってくれたらしい。
新しい上司に宣告されて簡単な説明を受けている途中に意識が朦朧となって、気を失ったんだっけ?
あれ? あれからどれくらい時間経ったんだろ?
ゆっくり起き上がり……。
のそのそと支度し……。
恐る恐る敷地内の会社の中に入った。
執務室に入ると、例の新しい上司の他に見知らぬ女神が仕事をしている。
「おはよう、サクヤ君」
例の新しい上司が不自然さを拭いきれない笑顔で挨拶を投げてくる。
「それでは今日から約三百年くらい、仕事頑張ってくれたまえ!」
(やっぱり夢じゃなかったんだ……あと三百年も辛抱することになるんだ……、しかもまったくの事実無根で冤罪なのに?)
思考が停止しているサクヤに向かって、見知らぬ女神が近づいてきて声を掛ける。
「どうも初めまして」
「あなたが例のとんでもないことをしでかした女神サクヤさんですか……」
「あなたの正気の沙汰とは思えない行動の所為で私も課長と同じく本社から急遽、決まった人事異動で来ました」
「……」
まくしたてるように話しかけてくる女神にサクヤは無言で話を聞く。
「──まぁ、貴方みたいな危険衝動を持つ
あははっと愛想笑いして
(うわぁ、きつい洗礼来たぁ……)
(こんな嫌味を言う神には、私こそ関わりたくない)
(ってか、あれ……
(他の社員の皆さんはというと、向こうの部屋からコッチ見てる)
(けど、皆さんの凍てついた視線が痛い!!)
(何これ……完全なる四面楚歌じゃん? いったい私の身に何が起きてるん?)
嫌味を高速で告げてきた女神に勝るとも劣らないほど頭を超高速で回転させて嫌味女神への処方薬を完成させた……「不干渉」……これで行こう。
私は周りに軽く挨拶を済ませて、これから三百年というあまりにも長い業務を周囲から冷たくされながら続けることになるだろうことに心底、溜息をつきながら、仕事に取り掛かり始めた。
「それにしても流石だなぁ」
「いえ……、貴方達が手を廻してくれたお陰よ……私はただああいう事もできると貴方達にお話ししただけ……」
「でもまあ、これだけ酷い目にあったんじゃ、儂はさすがにあの小娘も懲りたと思うぞ?」
「まだ足りないんじゃないですの? もっと
日本とは別の神域で四柱の神が話をしている。抽選会の夜、話していた男神と女神、他に二柱の老男神と気の強そうな女神が話に加わっている。
会話の内容は、これまでの女神サクヤに対する 度を越えた「悪戯」の数々について、語り合っている。
「まぁ、誤算があるとするなら、一度、惑星メラに休暇を取って行かれたところだよなぁ」
「そうよ!! あのまま惑星に行かれなかったら、惑星のエネルギーバランスが崩れるところまで行ってたんじゃない?」
「いや、さすがにそれは不味いじゃろう? 新築物件がいきなり壊れたら、契約書の瑕疵期間内だから、天界の抽選運営委員会の調査でも入ったらボロが出てきたかもしれんしのぅ…… でも一番堪えるのは三百年も地球で束縛されることじゃろうとも、儂の本社へのパイプがうまく使えて良かったよ」
「うふふっ、新築の物件が何者かに荒らされて、ずっと住めないまま自分の
男神、気の強そうな女神、老男神と順に話が出て、最後にこの悪戯を企てた計画犯である女神が、女神サクヤの現在の孤立無援なうえ、延々と業務をこなす姿を思い描きながら薄い笑顔を浮かべて話を締め括った。
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