第43話 あんまりですぞぉぉぉ!


(やっと着いたか)


<病み営業おじさん>

:セル君にあまり無理させないでね?

<アオリ・ダメ・ゼッタイ>

:なにあれ? スゴッ

<ムフフ99【司会者】>

:たしかに圧巻……


 スライムをほぼ全滅させてから10日かけて、トゥルヤ半島の北端までやってきた。


 三日月の形をした半島が囲うように巨大な真四角の水のはこがある。高さ、幅ともに1kmにも及ぶ巨大な水の函の表面は波立っていて、手を伸ばせば、おそらく水に触れることができるだろう。


 だけどおかしい。

 海面に繋がっているが、透き通った美しい海とは裏腹に泥のように淀んでいる。


 ムンク司祭から話を聞いていたが、水がこんなに汚れているとは言ってなかった。むしろ透明で中にプレイヤ神殿が見えてなんとも美しい光景が見えるとも言っていたのに。


 海に面した村が見えたので、とりあえずそこに向かった。


「セル殿ォォ、お待ちしておりましたぞォォォ」


(げッ、コイツは)


<福沢ゆきちん>

:いつぞやのうるさい司祭

<オカンしか勝たん>

:ストーカーじゃんw


 ムンク司祭。そうか、ここへの行き方は彼から習ったから先回りされたのか。でも途中のスライムの大群はどうしたんだろう?


「それなら音を立てずに抜けたんです」


 スライムは、音に反応して寄ってきて激しい振動で興奮状態になるそうだ。司祭は以前ボクが持っていた無音歩行のスキルを持っているので難なくここへ来れたそうだ。


 ちょっと待って。普通のひとなら知らなくて当然だけど、賢者シロワはスライムの隠れた習性は知っていておかしくないのに。


(まあ鍛えるためにワザと教えなかったんだろうな)


<ムフフ99【司会者】>

:いろいろ準備してたし、計画犯だなw

<ナニワの仔猫>

:ワイは始めから知っとった

<王!爺ザス>

:いや、ウソはダメだろw

<ナニワの仔猫>

:ホンマや、赤ん坊の頃から知っとった

<王!爺ザス>

:もう、エエわ


(楽しそうだな、おいw)


 なんか神々が楽しそうにしている。疲れた時なんか話を聞いていると、元気がもらえる。そしてボクはひとりじゃないって思える。だからどんなことにも立ち向かえる勇気が湧いてくる。


「あ、ゴメンなさい。なんでしたっけ?」

「なにも言わなくても大丈夫です。神がなにか話があったんですよね」


 「いえ、特に」と答えると「またまたご冗談を」と返ってきた。どうやらボクの言葉に耳を貸す気はないらしい。


「そうですか、この方が使徒なんですね」

「はいそうです。神プレイヤの名に誓って相違ありません」


 村の長老の質問に食い気味に答えるムンク司祭。

 名前のないこの村は〝水人族〟が暮らしており、代々、この四角い水の函〝水聖殿アクアリウム〟を見守っているそうで、彼ら水人族のなかから特に腕が立つものが、使徒の従者として、旅の供をする慣習があるそうだ。


「あの泥のようなものはなんですか?」

「ひと月前くらいになりますが……」


 村の長老がいうには、このトゥルヤ半島から沖を見渡すと火山島があり、中央にある火山がひと月前に噴火したそうだが、天まで届こうかという噴煙が巨人の姿にカタチを変え、この水聖殿に手を伸ばし、吸い込まれていったそうだ。


 水人族のチカラ【潜水気泡サブマリン】をかけてもらって初めて神プレイヤの祭壇に辿りつけるが、現在、水聖殿自体が淀んでいて、なかに入れないとのこと。


 これを解決するには、同じ火山島に眠っている〝浄化石アストヒク〟が必要になるそうだ。だが、火山島には滅多にひとが立ち入ることはなく、魔物に溢れかえっていて、生半可なもの達では、たちまち全滅してしまうとても危険な場所であると教えてもらった。


(なんかどうでもよくなってきたw)


<ムフフ99【司会者】>

:まあ無理することもないかも

<ナニワの仔猫>

:そこは行かんと? 行くな行くなは、行けってサインやろ?

<王!爺ザス>

:でも得るものが無いかもしれんしなw


 まあそんな危険を冒してまで、神殿に行きたいわけではないので、ボクも自然に浄化するまで待った方がいい気がする。それまで他の国を旅するのも悪くないと思ったが。長老の話では数年はかかるかもしれないという話だった。


「ちなみに火山島には12年に一度、稀少な鉱石・・・・・を生み出す魔物が出現すると聞いています」


(なぬ?)


<ナニワの仔猫>

:ほらなw

<ムフフ99【司会者】>

:デキすぎな気が……

<王!爺ザス>

:それを言ったら異世界なんて旅できんよw


 神々の空気が変わった。これは強制的に行かされるパターン。でも大丈夫。もう慣れっこになっちゃった(ぐすん……)


「もし行かれるなら、我々の代表を決めるのも兼ねてこの者どもを連れて行ってくださいませんか?」

「ええ、はい、わかりました」

「セルさま、よろしくお願いします」


 水人族というのは、外見は人族に近いが、水色の肌をしている。

 男女あわせて6人がボクと一緒に火山島へ行くことになった。


「私も行きますぞ」

「あ、はい忘れてました」

「セル殿ぉぉぉ、あんまりですぞぉぉぉ」


(うるせーな、帰りに火山島に置いて帰るか)


<王!爺ザス>

:それはさすがに犯罪

<オカンしか勝たん>

:大丈夫。こういうヤツは世界が滅びても死なんw


 

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