第27話 第2王女の想い
「ここに隠れましょう」
建物が一軒森のなかにポツンと建っている。ひとが住んでいる気配はなく廃墟となっているが、裏には井戸があり、建物なかの家具などもそこまでは傷んでいない。食材さえ調達できるのであれば、ここでしばらく潜伏できると、裏地が赤いマントを羽織った裏切り者の近衛の男が説明した。
この時点でボクは裏切り者の男が考えていることが、だいたい予想できた。ここであの仮面の男と合流するつもりだろう。ひと気がなく、近衛ふたりさえ、ここで
あの仮面の男……。アイツは、ここにいる誰よりも恐ろしくウデが立つ。もしボクに神プレイヤの御力や、キュアのスキル【
──だからボクは圧倒的なチカラの差を埋めるべく作戦を考えた。
「なんだ話というのは?」
森のなかに裏切り者の近衛を「命令について話がある」とウソをついて呼出し、【指し手】スキルの兵士たちと不意をついて、取り押さえ【蝕魂】で洗脳することに成功した。
そして、建物の少し前にひとり立たせて、仮面の男が来るのを待つ。すると、いつの間にか裏切り者の男が立っているそばの木の陰から男に声をかけている。ボク達以外、目撃者がまずいないこの森のなかで、2回目の死に戻りで演じたような、「ヤラセ」の戦闘をする必要がないのだろう。なにを聞いても「あー」とか「うー」としか答えない裏切り者の近衛を放っておいて、仮面の男が建物に近づこうとした。
「ボクはあなたの正体を知っているッ⁉」
もちろん、これは
「ぐっキサマッ」
ボクの予想しようのないセリフ、暗殺者にはみえない恰好、しかしなぜか左手にハメている黒い指輪。急に現れた謎の男の意図をくみ取り、その対応をどうするか……。一瞬で膨大な情報量を与えたので、男の意識が思考の海におぼれた瞬間、無防備になった背中を洗脳された近衛によって、胸を貫くほど深く刺された。
仮面の男は無理やり剣を引き抜き、吐血しながらも裏切った近衛の男をその場で斬り捨てた。
他の近衛たちからしたら、仲間が斬られたようにしかみえない。「おのれェェ」と仲間の仇を討つべく、建物から飛び出そうとしたが、ボクが止めた。「王女を誰が守るんですか?」と告げると、彼らは怒りの矛を収め、公務の優先……王女を守ることに専念した。
次にボクは、二重に張っていた罠を発動させた。2本の矢が仮面の男の右肩と左の太ももへ突き刺さる。外に
男はこれ以上の矢での奇襲を恐れ、ボクに向かって突撃してきた。ここからが、仮面の男とボクの正面からの戦い。神プレイヤやキュアの左目が使えない以上、これまで培った技術とスキルだけで、目の前の男を倒さなければならない。
残りの兵士6体とボクの現在の最強戦力〝騎士〟を1体、喚びだし包囲する。以前、神プレイヤが対ローグ・グリフォン戦でみせたように兵士には大盾を3体持たせる。残り3体は側面から牽制してもらうため、長めの槍を装備させる。
騎士の方は、兵士たちより戦闘力は高いが、装備が選べないという欠点がある。片手剣と盾を持って、大剣を持ったボクに致命的な攻撃が入らないよう、上手くサポートしてくれている。
──それでも仮面の男は、止まらなかった。
胸に風穴を開け、肩と太ももを矢で射抜かれた状態で、ボクを含め、手練れの戦士たちに囲まれてもなおその強さは健在だった。この男が傷を負わず、万全の状態であれば、ボクらはすぐに制圧されていただろう。
6体の兵士は倒され、ボクと騎士も傷を負い始めた。だけどここで、スキル【指し手(U)】が新たなチカラを吐き出した。必死に相手の剣の暴威に全神経を集中していたからだろうか──もう一体〝騎士〟が出現した。
ここで仮面の男は、急に逃走に転じた。ボクは予想外の行動に後れをとり、そのまま取り逃がしてしまった。かなりの深手を負っていたはずなのに……。仮面の男は仮にボクを倒せたとしても、ボクの後ろにはまだふたりも近衛が残っている。自分の身を案じ、電光石火の撤退劇を演じたのだろう。
「キミ、よくやったくれた」
近衛騎士たちが出てきてボクを褒めてくれた。王女はまだ怯えたままだったが、徐々に落ち着きを取り戻すことだろう。
ボクは、王都へ行く途中であることを先に伝えて、よければ一緒に護衛をすると買って出たところ、近衛騎士たちは是非もないと歓迎してくれた。
そこからは、森を出て、徒歩で王都ファルカまで問題が起こることなく行くことができた。
✟
これがアーキテクト王国の王都……。
外郭のあまりにも堅牢な壁が左右に迫るなか、開け放たれた巨大な鉄門を抜けると、真っすぐ城まで、幅の広い道が続いている。大きな道に面している建物はどれも3階建てで、これまで回ったどの町より
王都ファルカまでの道中、近衛のふたりにボクの名前を明かしたら、父がマルコ・モティックであることに気が付いてくれた。彼らは父とは面識はなかったが、その類まれなる功績は先輩にあたる人たちから酒の席で、なんども聞いたそうだ。
それだけに謎が残るとも言われた。以前、イーヴェルの町の領主、ウィリアム・マークス卿にも言われたが、ボクの父、マルコ・モティックが〝紅い夜〟の首謀者とは思えないとふたりは首を傾げる。
「あ、あのセルさん、あとで城へきてくださいませんか?」
「え、いえ、ボクは褒賞をいただくためにお手伝いをしたわけではありませんので」
このセリフを神プレイヤに聞かれたら、耳が痛くなるほど説教されそうだが、今もまだ神のこえがボクには届かない。
「いいえ、これは私の父ペイジェルマン13世の王命だと思ってください」
「は、はい」
「ごめんなさい。こうでも言わないと、あなたはきっとどこかに行ってしまわれるから……」
「はい、わかりました。夕刻になりますが、あとで伺います」
この国の王族、アーキテクト王国第二王女ロゼが、頬を紅く染めて、目を背けたまま、ボクへ王命を伝えた。
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