国旗はためく影に

鉄のクジラ

迫りくる影

2030年7月1日

ギリシャ神話で海の長老の名を冠した石油タンカー「ネレウス」、載貨重量14万トンクラス、スエズマックス級とよばれるその船体が相模水道を一路東京湾へと向かっていた。神奈川県の三浦半島と伊豆諸島の北端を結ぶライン上、相模水道は夏になると黒潮本流の影響を強くを受けることから潮の流れは南西から北東に向く。相模水道から東京湾を目指す場合はこの波に乗って東にある浦賀水道に向かい、そのまま東京湾に入るのが一般的だ。

時刻にして18時。夕暮れで視界の変化がもっとも大きい時間帯であるので操縦室には船で一番経験の長いミッチェル一等航海士が就いていた。熟練の技で順調に浦賀水道に入り、船首を東京湾にまっすぐ向けたとき事件は起きた。

後部デッキで作業に当たっていた甲板員が叫ぶ。

「後ろから何かいるぞ!!」

異常事態を察知したミッチェル一等航海士は船長を呼び出し後部デッキが見える位置に走り双眼鏡で接近する脅威を確認した。一隻の中型漁船が少し迫ってきているだけに見えた。しかしその陰に隠れていたボートがまっすぐにタンカーに迫ってきていた。

「海賊だ!海上保安庁に連絡を急げ!!」

すぐに艦橋にいる通信士に指示を飛ばす。

「こちら浦賀水道を北上中のネレウス。海上保安庁ですか。」

「事件ですか事故ですか。」

「事件です武装している船に襲撃を受けました賊のにんず、、、」

カチャ

まさかあの距離からこんなに早く。

「電話置け。」

乗員は従わないわけにはいかなかった。

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