天下無双の大将軍、剣と魔法の世界を六度死んだ姫と共に派手に駆ける
陽和
第1話 天下無双の大将軍
「おおおおおお!!!!」
雄たけびを上げながら振るわれた
その一撃で、数十体の天使が吹き飛んだ。
2メートルほどある大柄の巨体で振るわれた黒槍は、返しの刃でさらに十数体の天使を斬り刻む。
「神の兵ともいえどこんなものか!! 我は
彼が纏うのは黒い鎧。
漆黒の甲冑に身を包み、手には背の丈以上に長い黒槍を持っていた。
彼は今、神と呼ばれる存在と戦うために人の身でありながら天界を進んでいる。
奥の空間には白い巨大な扉が鎮座しており、國包はがむしゃらにそこを目指す。
「人間ごときが主に会えると思うな!!」
「押し通らせてもらう!! 俺は神に用があるのだ!!」
行く手を阻もうとする天使たちを國包が次々と薙ぎ払い、突き進む。
國包は無数の天使を倒しながら進んでおり、彼の振るう槍は天界の空気を揺らすほどだ。
その力はまさに圧倒的であり、彼にかなうものなどいないと思われた。
だが――。
『よく来たな』
突如として響く声とともに、天空より降り注ぐ雷光。
國包はそれを黒槍の一振りで弾いた。
そして雷光が落ちた場所を見上げると、そこには一人の男が浮かんでいた。
「貴様が神か?」
『いかにも。我はこの世界を管理する主神である』
現れた男は一言で言うならば美丈夫だった。
輝く金髪に青い瞳を持ち、白銀の衣をまとっている。
頭上に浮かぶ姿だけでも威圧感があり、國包は思わず一歩後ずさった。
しかしすぐに持ち直し、國包は主神を名乗る男に向かって叫ぶ。
「貴様へ一騎打ちを申し込みたい!!」
『ほう……よいだろう!』
國包の言葉を聞き、主神の顔が歪んだ笑みへと変わる。
それはまるで獲物を見つけた肉食獣のような顔であった。
『お前の力を見せてみろ』
言葉とともにその姿は一瞬にして消え失せ、次の瞬間には國包の前に立っていた。
主神が無造作に手を振るい、國包を吹き飛ばす。
あまりの衝撃に國包の全身を包んでいた黒い鎧が砕け散る。
『身の程知らずめ。今のお前では話にもならぬわ!!』
「ぐうっ!?」
吹き飛ばされた國包だったが、なんとか空中で体勢を立て直す。
そのまま地面へと着地し、主神を睨んだ。
『まだやるつもりか?』
「当然! 俺はまだ戦え……ッ!?」
國包が言葉を詰まらせる。
突然身体を襲う激痛に膝から崩れ落ちてしまった。
そんな國包を主神は表情を変えないまま見下ろす。
『どうした? もう終わりか?』
「……ッ! ゴハァ!!」
國包は必死に立ちあがろうとするも、その度に襲ってくる痛みに顔をしかめる。
もはや立っていることすらできず、その場に倒れこんでしまった。
自分の力は主神の前には無力。
そう悟った國包の心中は、意外にも穏やかだった。
(これほどとは……)
國包は主神の強さを肌で感じていた。
圧倒的なまでの実力差。
それこそ自分など足下にも及ばないほどの隔絶された力の差があった。
戦いに溺れた人生の最後に主神と戦えて國包に未練はない。
むしろ、これで思い残すことなく逝けると思った。
『ふむ……』
倒れた國包を一顧だにせず、主神は再び歩き始める。
その先には白い巨大な扉があり、彼はそれをゆっくりと開いた。
開かれた扉の向こうは真っ暗で何も見えない。
その闇を背に主神は倒れている國包に問う。
『この扉の奥にはお主が見たことも聞いたこともない強気の巣くう世界がある』
國包は薄れゆく意識の中で、自分へ向けられている主神の言葉を理解してしまった。
『そこでならお主にも満足できるものがあるかもしれんぞ?』
國包はその言葉を聞いて、自然と答えを口にしていた。
「……俺も……そこへ……行けるのか?」
『お主へ、加護がない身でありながら神と対峙した褒美を授けることができるぞ? どんな願いでも聞いてやろう』
その答えを聞いた主神はニヤリと笑う。
まだ自分が戦うべき相手がいる。
それを知ってしまった國包は燃え尽きる魂の炎を再び滾らせた。
「俺は行きたい。その世界へ!!」
『クカカッ!! それでいい!! 行ってこい!!』
主神は國包の返事を聞くや否や背中を押す。
すると、國包の姿は一瞬にしてその場から消えた。
残されたのは主神と呼ばれる存在と、地面に転がっている黒い槍のみ。
『さて、あやつは再び我と戦うまで生きてもらわねば困るのだ』
主神は黒い槍を手に取ると、國包が吸い込まれた扉の前へ突き刺す。
そして再び姿を消した。
天界には静寂が訪れる。
天界の中心にある白く巨大な扉の前で、黒い槍だけが静かに佇んでいた――。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「レナード!! お前平民のくせに生意気なんだよ!!」
「王族であるマルコさまに歯向かうなんて何様だ!!」
「ゲホッ!! グウッ!?」
薄暗い路地裏で二人の青年が一人の少年を囲んで殴っていた。
彼らはレナードの同級生であったが、身分を笠に着た傲慢な男たちであった。
ひとしきり殴る蹴るの暴行をした後、男たちがレナードを見下ろす。
「なぁ、今ここで裸になって土下座したら許してやってもいいぜ?」
「そうですね。マルコさまはお優しいです!」
「…………」
マルコが下卑た笑みを浮かべながら言うと、もう一人の男が同意する。
しかし、その言葉を受けた少年は何も言わない。
ただ黙って俯いていた。
「おい!! レナード、何か言えよ!! ビビッてんのか!?」
「ははは! 情けない奴だ!!」
マルコたちの嘲笑が響き渡る。
だが、レナードは俯いたまま動かない。
「チッ! 面白くねぇ! まあ面白くなるのはここからだ!!」
何も言わないレナードへ再び男たちの暴行が浴びせられた。
「どうしてお前なんかが俺たちと同じ魔法学校にいるんだよ!!」
「汚らしい平民が! 目障りだから消えろ!!」
「ぐあっ!?」
何度も殴りつけられ、ボロ雑巾のように地面を這うレナード。
それでも、彼は抵抗しない。
魔法学校の教員たちから、自分が貴族となにか問題を起こしたら即退学だと、何度も言いつけられているからだ。
今回は相手が王族ということもあり、レナードはなにもすることができない。
そんな彼を見下ろしながら、二人は笑い続ける。
「ハハハハハハ! 本当に惨めだよなお前!! お前みたいなやつが俺と同じ学園ってだけで反吐が出るぜ!」
「まったくです! さすがはゴミカス野郎ですね!」
「も……もう……やめてくれよ! ぐっ!?」
二人から罵倒されがら殴られたレナードは涙ながらに懇願する。
しかし、その声は聞き入れてもらえず、さらに暴力が振るわれた。
「明日、魔法戦闘の授業があるだろう? 教授に頼んで、お前の相手は俺にしてもらったよ」
横たわるレナードへマルコが話しかける。
その顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいて、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のような顔であった。
マルコは倒れているレナードの顔を踏み、狂気的な笑みを浮かべる。
「魔法戦闘の授業では何年かに一度大怪我をするやつがいるらしい。お前はそうならないといいな」
そう言い切ったマルコは最後にレナードの腹を蹴り上げて、その場を去っていった。
「ゴホォッ!!」
腹を押さえ、咳き込むレナード。
口の中に血の味が広がる。
「ゴフッ……なんで……こんなことに……もう嫌だ……」
レナードは重い体を引きずり、街の端を目指す。
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