第21話 キャンパー×キャンパー
After
キャンプ場のサイトで。
「久々のキャンプが晴れて良かったな~」
「本当にねぇ」
テントの設営をしながら、何とはなしにお隣の話し声に耳を傾ける。今日のお隣さんは、おばあちゃん二人だ。私たちが挨拶したときには、もうテントも設営し終え、焚火もばっちり、椅子に座ってまったりモードだった。大ベテランって感じ、と茉奈花が楽しそうに笑っていた。
「やーっぱり、焚火にココアが一番だよ」
「ここ数年は、ずっと近場でチェアリングばっかりだったもんね」
「やあ、死ぬ前にもう一度キャンプが出来て良かった……」
「大袈裟……でもないなあ。うちらの歳だと」
「そうそう。あのお餅事件みたいなことが起こったら一発アウトだ」
「ああ、あれねぇ……スモア事件と二大オモロよねぇ」
おばあちゃん達の思い出話に、私たちは設営する手をおろそかについ聞き入ってしまった。お餅がそんな面白いことになるなんて……。スモアでそんな感動が!
人生って面白い、と茉奈花もしみじみ呟いた。全部盗み聞きだけど。
「いかん……思い出話してたら、無性に餅とスモアが食べたくなって来た……」
「餅はダメよ、餅は……。でもスモアなら、まだ行けるかなぁ」
クッキーとチョコレートはあるんだけどねぇ。抜かったねぇ。と話すおばあちゃんたちに、私と茉奈花は顔を見合わせ、それから立ち上がる。
「あの……」
手に菓子を携え、声をかけた。
「買い過ぎちゃったんで、良かったらマシュマロ、要りませんか!?」
素敵なお話を(勝手に)聞かせて貰ったお礼である。
※※※
Before
朝。目を覚ますと、テントの外から声がした。
「これから、どんどんキャンプしていかないとなー!」
「そうだねぇ」
先に起きたらしい榛名と赤城の声だ。焚火の音もする。私と同じテントで眠っていた心海も目を覚ました。ぼーっとした顔で外の声を聞いている。
「今回みたいなグルキャンはもちろん、お前との二人キャンプとか!」
「二人キャンプも悪くないね」
「だろー? 何したい? したいこと、ぜーんぶやってこうぜ!」
何十年かかってもいいから、全部一緒にさ。
なんてはしゃぐ榛名に、私は思った。
「何それ。プロポーズみたい」
そう、それ。心海も思ったらしい。うん、と頷いている。
「……そうだって言ったら?」
!
「え!」
赤城が、声を詰まらせた。私と心海は顔を見合わせ、息を殺す。
どれくらい時が経っただろう。いや、一分も経っていなかったかも。
「…………嬉しいって言う」
ぼそっと答えた赤城の言葉に、榛名が喜びの雄たけびを上げ、私と心海も思わず互いに抱き着いた。
もうすぐ冬が来るのに、ここだけ何と春が来た。
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