第13話 身体の柔らかい人×身体の固い人

 After


 私の通うフィットネスでは、レッスンや清掃の時間以外は、ヨガスタジオを自由に使っていいことになっている。ゆえに、部屋のあちこちで、ヨガの自主練やストレッチを行う人が居た。私もその一人。今日も今日とて、のんびりレッスンの復習をしていたのだけれど。

「ふぅん。随分固まっちゃってるねぇ。こぉんなマシュマロボディの癖してねぇ」

「いだいっ! 骨折しちゃう! 皆が皆、たーちゃんみたいな関節してないんだよ!?」

 部屋の隅で、ヨガをしているおばあちゃん二人。というより、ふっくらしたおばあちゃんのポーズを、もう一人の瘦せ型おばあちゃんが直してあげているようだ。

 歳を取っても仲良しな、友人同士の微笑ましい光景……である筈なのだが。

「ここなんて」

「あっ……」

 何やら、手付きが怪しい。そのポーズを直すのに、そんな際触ります??

「あれだけほぐしてやったってのに……『運動』しないうちに、すっかり生娘だ」

「いっ」

 いや、話していることも怪しい。生娘って、何。

「ほら、こっちも」

「ああっ!」

 その所為で、痛みに耐える声も何やら聞いてはいけないもののようで。

「「「…………」」」

 スタジオ内に、微妙な空気が流れる。

「やっぱり今夜からまた『柔軟』再開するかぁ」

「やめて、この歳でするの怖い……!」

(それって、本当に柔軟か……?)

 そんな口に出せない問いが、ずっと部屋に満ちていた。 


 ※※※


 Before


 体育の時間。柔軟体操で。

「ほーら。もっと行ける、もっと行ける……」

「んんっ、も、無理ぃ……っ!」

 今日も今日とて、隣から怪しい声がする。

「……アンタらねぇ」

 私は、相方の背を押しながら眉を顰めた。

「ただの柔軟体操なのに、妙な空気出すのやめな?」

 そうそう、と相方も声を上げる。前屈中なので、くぐもった声で。ちなみに、周りのクラスメイトたちも神妙に頷いていた。二人は暫し、柔軟を中断すると顔を見合わせ。

「ほれ見ろ。お前のやらしい声の所為でバレただろ」

「ちっがうよ! たーちゃんが昨日も今も容赦ない所為だよ!」

 などと互いに罪をなすりつけ合っていたが、すぐにまた準備運動へと戻っていった。

 あまりに自然な流れで、我らも一瞬流しかけるも。

「「「……ん???」」」

 聞き捨てならない言葉があった気がして、思わず彼女たちを二度見した。

 相変わらず、そちらからは艶めかしい声が上がっている。

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