第9話 最終章への扉
レシピ本の最後に現れた言葉――「最終章へ――すべての答えが待つ場所へ」。
その一文を見つめながら、拓斗は迷いを感じていた。この本がもたらす恐怖と奇跡。その裏側にある「すべての答え」が、自分にどのような影響を与えるのか想像もつかない。
だが、拓斗は決心した。
「ここまで来たんだ……最後まで向き合わないと。」
レシピ本を手に取り、再びページを開く。今度は本が勝手にめくられるのではなく、拓斗自身がページをめくっていった。最終章に辿り着くと、そこには一つのレシピとともに、長いメッセージが記されていた。
「怒りの料理人より――」
「私の人生は孤独と怒りの連続だった。料理に救いを求めたが、その情熱が私を破滅へと導いた。人々を喜ばせるはずの料理が、いつしか呪いとなり、彼らを傷つける道具と化した。」
「しかし、料理は私だけのものではない。この本を手にした者が、私のように怒りに飲まれるか、それとも新たな道を見つけるか。それはお前次第だ。」
「最後の皿を作れ。それがすべてを終わらせる鍵だ――」
「白い調和の皿――すべてを受け入れる料理」
「白い調和の皿……」
拓斗はそのレシピを読み、意外なことに気づいた。材料や手順はどれも極めて簡素で、これまでのレシピと比べると拍子抜けするほどだった。しかし、その中には明確な指示があった。
「この皿を作る際、心のすべてをさらけ出せ。恐れ、怒り、悲しみ、そして希望――すべてを料理に込めよ。」
「心のすべてを……?」
翌朝、拓斗は早めに店に行き、誰もいない厨房で皿の準備を始めた。材料を揃えながら、自分の過去を一つずつ思い出していく。
いじめられた記憶、挫折の痛み、家族に認められなかった孤独――それらが彼の胸に重くのしかかる。だが、同時に料理を通じて出会った人々の笑顔や、自分を励まし続けた藤堂の言葉も思い出した。
「料理は感情を映す鏡だ……」
その言葉を胸に、拓斗は一切の迷いを捨て、料理に集中した。
皿が完成した瞬間、拓斗は息を呑んだ。完成した料理は真っ白なソースに包まれたシンプルなプレートだった。その美しさは静かで穏やかで、見つめるだけで心が安らぐような感覚を覚える。
だが、突然厨房の空気が変わった。本が強い光を放ち始め、周囲が歪むように見えた。
「何が……起きてる……?」
拓斗が皿を見つめていると、目の前にあの「影」が再び現れた。しかし、以前とは異なり、その姿は穏やかで安定している。
「これが……お前の答えか。」
拓斗は影をじっと見つめ、静かに答えた。
「俺は怒りを消すことはできない。でも、それを料理に込めて、調和に変えることはできると思う。」
影は静かにうなずいた。
「そうだ。それが私が求めていた答えだ。怒りは消えるものではない。だが、それを飲み込み、別の形に変えることができる。」
影の輪郭が次第に薄れていく。
「この本はお前のものだ。お前がこの先、新たな物語を刻むがいい。」
影が完全に消えた瞬間、レシピ本は静かに閉じられた。
その夜、拓斗は「白い調和の皿」を店の特別メニューとして提供した。その料理を食べた客たちは口々にこう言った。
「これを食べると、不思議と自分の嫌な気持ちを受け入れられる気がする……」
拓斗はその言葉を聞き、微笑んだ。自分の料理が人々を癒し、調和をもたらす力を持っていることを実感した瞬間だった。
次回予告
レシピ本が閉じられ、新たなスタートを切る拓斗。その背後には、新たな試練や出会いが待ち受けている――物語はまだ終わらない。
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