第4話
小学校に上がると、少しづつ母との時間がまた減って行った。
保育園から帰る時間よりも学童にいる時間の方が長くなったから。
それが辛くて千紗の所に母と遊びに行っている時に学校が終わったら
すると、千紗は快諾してくれた。
母も渋々だが承諾してくれた。
千紗にはなんでも話せた。
些細なことで喧嘩もできた。
そういう相手だった。
そしてある夜、僕は母に伝えた。
「ママ、あのさ、今日から一人で寝るね。」
小学校入学を控えた一か月前の事だった。
母は、「流星、無理しなくていいよ。」と言ってくれはしたが、
「大丈夫!もう一年生だから!」
と強がっていた。
と言っても2LDKの部屋。
僕が母の布団の隣で寝て後から母が来る。
小さな僕はより小さく丸まって布団を被って寝ていた。
母にはわかっていた。
僕の気持ちが痛いほど。でも、僕の気持ちも大切にしたくて言わないでくれていた。
だからと言って、千紗の家に行くのも千紗に負担がかかる。だから学童にも行って、母が帰る時間には自分で帰った。
寂しかった。
怖かった。
心細かった。
でも、大好きなママの為。独りで耐えた。
けど、ある日の夜、いつも通り母より先に眠りにつこうと布団を被って浅い眠りについていた時に悪夢に襲われた。
そう。僕がはに甘えた一言で母の顔が困り顔になって悩ませてしまう。…そんな夢。
僕は声にならない声で心の中で叫んで居た。
夢の中の僕を止めたくて夢の中で暴れていた。
すると、母が来て僕を起こした。
「流星、流星、一回起きて。流星、起きて。ママだよ。ほら起きて。一回お話しようよ。」
僕はパニックになっていた。
さらに母の顔を認識して、『困っている』と感じて、『迷惑かけている』と感じて止まらなくなってしまった。
そんな僕を小さな子供を抱くように、膝の上に乗せて落ち着かせてくれた。
一時間くらいしてやっと落ち着いた。
我に返ると僕はずっと母にしがみついて謝っていた。
甘えたい気持ちと、迷惑をかけたくない気持ち。
でもあまりに突き放すと捨てられてしまう…。
どうしたらいいかわからなくなっていた。
―――――――――――――――翌日の夜。
真夜中に家を抜け出した。
近所の公園の滑り台の下に居た。
ずっとそこで自分の手首を噛んでいた。
そこでひとつの決意をした。
『ママから離れよう。捨ててもらおう』と。
気付いたら僕はそこで眠っていて、母の呼ぶ声で起きた。
「流星…!流星!!…」
「ママ…。」
「何してんの!帰るよ!!」
「いいよ、もういいよ。捨てていいよ…。」
「捨てるわけないでしょ?!…」
「いいよ。捨てて。僕は居ない方がいい。」
「捨てない。あんたを捨てるわけないでしょ?」
「別にいいよ。だって僕、ママの子じゃないんでしょ?なら要らない子でしょ?迷惑かけないように居なくなるからさ。ごめんね。こんな所で寝てて。ごめんね。ママ。」
母は既に僕を抱きしめて泣いていた。
「流星は私の子…。ママの子だよ。捨てるわけないし、離すわけない。」
「でも僕は悪い子だよ。今だって。ママを笑わせられてない。泣かせてる。だからもういい。…死にたい。死なせて。」
「『死ぬ』ってどういうことかわかってんの?もう二度とママに会えなくなるんだよ?それでもいいの?」
「いいよ。だってその方がママは幸せでしょ?僕のせいで大変な思いしなくていい。好きなところに行ける。彼氏だって作れる。邪魔は居なくなればいいんだ。でしょ?生まれてごめんね。生きててごめんね。」
僕は6歳でこんな事を母に話していた。
もう母は何も言わなくなっていた。
ただずっとそのナイフ一刺し一刺しの様な言葉を受け止めて、僕を抱きしめてくれていた。
―――――――――その日母は仕事を休んで、
二人で千紗の家に行った。
僕はいつもの様に千紗にくっついていた。
そうすることが正解だと思っていたから。
そしていつものように千紗の膝枕で寝始めた。
「…千紗、流星寝た?」
「寝たけど変なこと言えないよ。聞こえてるし覚えてるから。」
「やっぱりそうか…。」
「色々言われたんでしょ。」
「うん。言われた。さすがに来たわ。」
「『死にたい』ってまた言われた?」
「言われた。」
「きついよね。」
「きつい。」
「流星は、お姉ちゃんが大好きだからね。」
「かなり無理させてたみたい。『一人で寝る』ってあたしの隣に布団敷いて寝始めるし。」
「マジで?」
「ダメだわ。私が寂しくなってる。」
「息子ってそうなるよね。姉ちゃん見ててよくわかるわ。」
「こんなに可愛くてこんなに大切なのになんでか違う方向に進んで行くんだよね。」
「…そういうとこ母さんそっくりだよね。」
「本当。」
「…あの人いまどこにいるの?」
「知らない。流星を毛嫌いして突き飛ばしたような奴だから。あたしはもうどうでもいいわ。」
「なんでそうなっちゃうかな。」
「…流星と一緒。素直になれないのあの人も。
本当は可愛がりたいのに後先考えたら中途半端になんて関われないって多分そう思ってる。だから流星に痛い思いさせて近付かせないようにしたんだと思う。でも流星にはそんな奴になって欲しくないからさ。もっと子供らしくいればいいのに…。」
「それだけお姉ちゃんが好きなんだって。」
――――――――――――その日の夜。
千紗の家で母と同じ布団で寝た。
母の胸の中で安心しきっていた。
「…流、ママの事好き?」
「うん。大好きだよ。」
「ならもっとわがまま言っていいんだよ?苦しくなるまで我慢しなくていいの。」
「ママも僕に話してよ。一人で抱えないで。」
「ありがとう。」
「ねぇママ…」
「なに?」
「ママと結婚したい。」
「いつかね、大人になったら考えてあげる」
僕は母の口にキスした。
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