暴虐邪道天使ルシフェラちゃんが往く
@JULIA_JULIA
第1話 地上と天上
今日も地上では争いが起きている。至るところで起きている。小さなモノから大きなモノまで様々だ。そんな地上とは異なり、天上はなんとも穏やかである。
「ふぅ・・・。このカモミールティー、美味しいわね」
「ありがとう。このシナモンクッキーも美味しいわよ」
茶で喉を潤しつつ、菓子を口にして、優雅な
今日も今日とて、そんな甘いやり取りをラファエラとウリエラがしていると、遠くの方から別の天使が駆けてくる。天使だから翼があるのに、どういうワケか駆けてくる。
「ちょっと、二人とも! なにを呑気にお茶なんて飲んでるの! 相変わらず地上は、大変なことになってるのに!」
現れたのは、ルシフェラだ。彼女は日々、地上の人々のことを思いやり、苦心している。そんな彼女からすれば、毎日のように茶会を楽しんでいるラファエラとウリエラの姿は、とても信じられないモノである。
「そうは言っても、ルシフェラ。地上のことには、ワタシたちは干渉してはいけないのよ?」
ラファエラが言った。シナモンクッキーを噛りつつ、言った。
「そうそう。
ウリエラが言った。カモミールティーを
二人の言うとおりである。天使たちは無闇に地上に降りてはいけないし、気軽に人間たちと関わってはいけない。よって、如何に地上が荒れていようとも、
ちなみに天使たちは皆、女性である。そして
「そうだけど! でも、でも・・・。なんとかしないと、人間たちが可哀想だよ!」
ラファエラとウリエラから正論でぶっ叩かれ、思わず心情を吐露したルシフェラ。そんな彼女のことをラファエラとウリエラは笑う。
「可哀想? なにが可哀想なの? 人間たちは、
「そうよ。人間が生きようとも死のうとも、栄えようとも滅ぼうとも、それは
天上では、
「バカッ! ラファエラとウリエラの、バカッ! アンタたちなんて、お茶の飲みすぎで夜間頻尿になればイイのよ! 夜中に目が覚めればイイのよ!」
目に涙を浮かべながら、悪口らしきモノを口にしたルシフェラ。しかし彼女は悪口を言うことに慣れていないため、上手くいかなかった。よって、ラファエラとウリエラはノーダメージである。そんな二人はルシフェラを
やがて落ち着いたルシフェラは、
コンッ! コンッ! コンッ!
ルシフェラが三度のノックをすると、部屋の中から声がする。
「誰だ?」
「ルシフェラです。少し、お話があるのですが」
「入れ」
ヤヴァイネの許可のあと、扉がひとりでに開く。そうしてルシフェラは部屋の中へと歩を進めた。そんな彼女の目には、程なくして輝かしい光が飛び込んでくる。その光こそが、ヤヴァイネの姿である。
ヤヴァイネは唯一無二の存在であり、絶対的な存在である。そして、なによりも尊く、美しい。そのため、その姿は他の者たちには光のようにしか見えない。あまりの
ヤヴァイネの輝く姿を一瞥したルシフェラは部屋の中を進み、膝をつき、
「話とは、なんだ?」
「・・・地上の者たちを、助けたいのですが」
恐る恐るといった感じで伺いを立てたルシフェラ。
「助ける? 助けなければならぬことなど、起きてはいないぞ?」
「病や争いにより、多くの人間が苦しみ、死んでいます。そんな状況を見過ごす───」
「それは、予測の範囲内である。別に助けるようなことではない」
「しかし───」
「くどい。真に救済が必要なときは、ワレの方から告げる。この話は、もう終わりだ」
「・・・・・・・」
ルシフェラはそれ以上の言葉を発することが出来ず、ヤヴァイネの部屋をあとにした。その後、肩を落としてトボトボと歩いていると、一人の天使が現れた。天使たちのまとめ役───ミカエラである。
「ん? どうしたんだ、ルシフェラ? なんだか元気がなさそうだが」
「・・・別に、なんでもないよ」
ミカエラは天使たちのまとめ役であり、頼れる存在である。しかし彼女とて、天使の一員である。よって
およそ一週間後、ルシフェラは悩んでいた。いや、この一週間、悩み続けていた。
「どうすれば・・・、どうすれば、人間を助けられるのだろう」
「オマエが地上に降りて、人間たちを救ってやればイイ」
ふと漏れたルシフェラの独り言に、答えるモノがいた。それは蛇だった。真っ黒の体に黄金の瞳を持つ、一匹の蛇だった。
「地上に? けれども、それは
「ヤヴァイネが従えているのは、この天上にいる天使だけだろう。だったら天上を去ればイイ。そうすればヤヴァイネは、オマエの
「そんな・・・、そんなこと、許される筈が・・・」
「だったら、どうするんだ? ここでそうして嘆いていても、一人の人間を救うことすら出来ないぞ?」
言ったあと、真っ黒な蛇は真っ赤な舌を突き出して、チロチロと細かく動かした。まるで、ルシフェラの意思を刺激するかのように。
「・・・分かったわ。ワタシ、地上に降りる!」
そうして、ルシフェラは天上を去ることを決意した。
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