死にたいなんて考える暇もないくらい忙しい日常

紅あずま

七歳の僕

この世界に神様なんていない。


 小さい頃は幸せな家庭だったと思う。

 本当はどうかなんて知らないけど、子供は親からの愛を受けないと死ぬなんて実験結果があるくらいなんだから、今生きている僕はきっと愛されていたはずだ。

 ならば何故、その結果と僕の現状はどうしてイコールにならないのだろうか。

 実の父親に車で引き殺されそうになっている姉を見て何も出来ない僕はそんなことを考えていた。

 泣き叫ぶ姉を父親は引きずって外に連れて行き、車の前に寝かせた。

 特に縛られているわけでも無いのに姉は逃げずにその場で泣きわめいていた。

 きっとご近所迷惑だ。

 きっと他の家の人だってこの異常事態に気付いているはず。

なぁ、今カーテン閉めた向かいの家のお前、ニュースのインタビューで何て答えんだ?

「夜な夜な鳴き声が聞こえていたがまさか虐待だったなんて」って逃げるのか?それとも、「巻き込まれるのが怖くて逃げていました」って素直に答えんのか?

違うよな?これならまだ無理だと分かってても、口だけでも突っ込んでくれる偽善者の方がマシだ。

迷惑そうな顔してカーテンを閉めた向かいの家の人に八つ当たりした。

本当の最低な奴は、姉が殺されそうになっているのに何も出来ずに動けなくなっている七歳の僕自身だ。

止めたいのに怖くて動かないんじゃない。

ここで姉が死んだらこのことが公になって僕らは現状から解放されると思っているから動けないんだ。

だから母親でさえ助けに行かないでこの場で黙って見ているんだ。

今、この場に居る全員はもう限界に近かい。

いつ殺されるかも分からない家で毎日のように暴力や暴言を受けて、それに我慢できない兄妹は、兄妹間でも弱い者いじめをしてストレスを発散する。

父親の機嫌を損ねない様に常に空気になりながら生活するこの世界では自分以外なら誰が死のうが困らなかった。

僕たちが見ているだけの状態に一つの光と大きなエンジン音が響いた。

姉は僕たちが幸せになるための生贄だ。

もっと言ってしまえば、父親の機嫌を損ねたのがいけないのだ。

全部自分のせい。お前が悪い。

今思えば、これは自分を守るための洗脳だったのかもしれない。

エンジンのかかった車は静かに進む。

進む距離と比例して姉の泣き声も大きくなる。

 あと少しで僕たちは楽になれる。

 見ていられなくなり、目を瞑った。

 少ししてエンジンの音が切れた。

 しかし、姉の泣き声は止まないままだった。

 僕が目を開けると、車は寸でのところで止まっていた。

 僕は、安堵と絶望からその場に座り込んだ。

「あ、はは。そりゃそうか。」

 本当に殺すんだったら全員まとめて殺すよな。捕まりたくないもんね。

 冷静な分析のできる自分に少し引きながらも納得した。

 これからも続く絶望に僕はこれからも耐え続けます。

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死にたいなんて考える暇もないくらい忙しい日常 紅あずま @KurenaiAzuma

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