第6話 ネメアトリニティ

 一週間後。

「花川さんが拉致された。場所は」

「僕が前に連れて行かれたところか」

 スマホの時計は夜の九時を示していた。今から移動したら十分間に合う。


 僕はカメリアと赤入君と共に前に行った店に移動する。

 その店にもう少ししたら着く時に、血まみれの女性が僕達に近づいてくる。


「カメリア様。申し訳ございません。尾行に気づかれてしまいました。一名殺されましたが、それ以外は全員逃げ出しました」

「あなたも医療機関に行きなさい。それで場所は変わってはいないわよね」

 とカメリアは問いかける。



「我々がやってきても一切動揺することはありませんでした」

「余裕しゃくしゃくなのが癪」

「カメリア様。我々も一刻も早く編成を整え戦いに加わります」

「いい。この雑魚ウサギがケリを付ける。それに赤入君もいるしね」

「しかし……」

「俺はあんたらより強い。説明するまでもないだろう?」

「はっ、はい……」

 部下の女性は引き下がって、帰っていった。





 建物の目の前に近づくとハイエナ共が待ち構えていた。

「貴様ら。よくもくだらない尾行を寄こしてくれたな」

「ムカついちまったから一人殺しておいてやったぜ」

「あとはみんなに逃げられちまったがな」

「お前らを殺した後、追って皆殺し」

 と言った後にハイエナは楽しそうに笑う。


「どけ。獅子島に用事がある」

「くっくくく。楽しませてくれよ」

 ハイエナ達は僕らを通してくれた。







 店の地下に降りると、照明がぱっと光る。照明が照らすのは四角形のリングだ。獅子島はそこの主のごとく、リングの上に悠々と立っていた。


「よぅ寂野。よく逃げずに来たと褒めてやるよ」

「獅子島。花川さんはどこだ?」

「勝ったら教えてやる。怪物化したらリングに上がってこい」

「ああ」

 僕はウサギに変身し、獅子島もライオンに変身する。


 獅子島のスキルが発動して体が重くなったが、なんとかリングに上がった。



「この間より動けるようになったか」

 獅子島もこの変化に感心している様子だった。

 

 先に動いたのは獅子島だった。彼は連続コンビネーションで畳みかけ、僕が前に出られないようにしてくる。



「つまんねぇぞ」

 獅子島の言葉はスルー。

 僕のローキックが獅子島にもろに当たる。動きが一瞬鈍くなった隙を突き、右へと脱出した。

 獅子島は脱出した瞬間に右に回り込んで、乱打を繰り返して僕にガードを強いる。先ほどと同じ状況に戻ったというわけだ。



 防戦一方のこの状況。なんとかしなくては。

 あれを使わなくちゃ戦いものにならないんだ。

「月の女神の水瓶(ルナチャージ)」

 僕の後ろに水瓶を持った赤髪の女神が現れる。


 獅子島もこの異様な雰囲気を感じ取ったのだろう。チャージを成立させないように後ろにいる女神を狙っていく。


「無駄だ。この女神は霊体で攻撃は通用しない」

「ならてめぇだ」

 獅子島は僕を殴って攻撃しようとするが、エネルギーのバリアのようなもので彼の拳は焼かれる。



「はぁ……はぁ……なんだよこいつのスキル」

「もういいぞ獅子島」

「お前。随分様変わりしたじゃねぇか」


 俺は獅子島の言葉に応じず、突進した。

 獅子島は反応できず、殴り飛ばされる。

 とっさに体を逸らしたため、インパクトを逃がすことに成功していたため致命傷は逃れたようだ。


「絶対に勝ってお前をものにしてやる」

「俺はお前のものになんか絶対ならない」

「そうかい。だがそれは相当な負荷がかかるスキルのようだな」

 と獅子島はスキルの弱点を見抜いてくる。

 視界が先程から血で濡れて赤い。それだけじゃない。エネルギーが暴走して全身から血が噴いてくる。ウサギの回復能力で辛うじて保っているがそう長くない。


 俺は目の血を拭い、前を見る。


「この隙にネメアトリニティは完成した」

「お前が三体になったところで無駄だ」

「パワーアップするのはお前だけじゃないってことだ」

 獅子島がそれぞれの分身に向けて手をかざすと分身は体に取り込まれていく。

 獅子島の体はごつくなり、エネルギーの総量が爆発的に向上したのが分かる。



「俺をここまで追い込んだのはお前で二人目だ」

「どうでもいいな」

 俺には獅子島と話している時間はない。

 あいつも消耗の大きい変身を選んでいるんだ。

 勝負はそう長くない。



 俺と獅子島は肉薄した距離を保ち、インファイトする。

 一進一退の攻防が続き、打撃戦は五分五分の状態が保たれる。

 目から、いや身体から血が噴き出る。血が足りなくて死んでしまいそう。

 こんなに殴ってるのになんで耐えるんだ?

 エネルギーが足りない。

 そうだ。一撃一撃に込めるエネルギーが足りないんだ。

 ルナパワーを留めるガントレットとグローブを。

 俺の手が突然輝き始める。輝きが収まった後、緋色に月の紋様が描かれたガントレットと黒のフィンガーレスグローブが手に装着される。


 獅子島は新たなスキルを開発したことに気づいたのだろう。

 俺とすぐに距離を取る。


 この一撃に全てをかけた。

 拳と腕が爆発しそうなほどに痛い。

 体中のエネルギーが腕中に駆け巡っているのがわかる。

「月の墜落(ルナフォール)」

 すべてのエネルギーをかけた渾身の一撃を獅子島に叩きつける。

 エネルギーは獅子島を貫くだけではなく、後ろにあった壁もぶっ飛ばしてしまった。


「はっ、花川さんを探さなきゃ」

 僕は獅子島の息があるかを確かめる。

 息はかろうじてあった。


「獅子島。僕が勝ったんだ。花川さんの居場所を教えろ」

 と言うが反応はない。



「やりすぎた。花川さんを早く探さなきゃ」

 僕は痛みと血の量が足りなくてふらつく体に鞭打って歩く。




「待てよ寂野。まだ戦いは終わってない……」

「諦めろ獅子島。お前は僕に勝てない」

「怪物と人間が戦えば怪物が勝つに決まってるだろうが」

 獅子島の言葉を聞いて疑問に思った僕は自分の手を見てみる。

 怪物化が解けていた。

 力を使い切って怪物化が解除されたのだ。

 そして目の前の相手は怪物の姿を保っている。



 絶望的な力の差だ。



 だけど……



 絶対に勝たなきゃならない。花川さんに何かあってはならない。

「怪物は強い? 僕は怪物に勝っている人間を知っているぞ。獅子島」

「知った口を」

「花川さんを解放して二度と悪さをしないっていうなら見逃してやる」

 僕はボロボロで倒れそうなところを見せないようにしながら言う。




「良子をボロボロにしてお前を仲間にする。最強の怪物軍団を作るんだよ。俺は」

「なら今の僕を倒せよ」

「当たり前だろうが」

 全てくれてやる。

 ルナガントレット。先程のガントレットをもう一度装着する。さっきと比べて脆く、色も薄い。

「見る影もないな」

「人間が使うにはちょうどいい」

「明らかに弱体化してるだろうがよぉ」

 四つ足で走り、あっという間にトップスピードまで加速する。

 直線的な動きに対して、僕は腕を下に振り下ろし背中を思い切り叩く。



「がはっ」

 この一撃で溜まっているエネルギーは喪失した。ガントレットはその存在を消滅させる。




「はぁ……こんなはずは……こんなはずはぁ」

「お前は負けたんだ。獅子島」

「怪物は強いんだ。怪物は人間より圧倒的に強いんだぁぁ」

 獅子島は負けたショックで大泣きした後、すぐに気絶した。


 僕はスマホの時計を見る。そこには10時という時間が表示されていた。


 ごめん花川さん。君を助けられなかった。

 そう思っていた瞬間、下から誰か人がやってくる。この地下のリングより更に地下に部屋があったようだった。

 今は姿がまともに見えないけどよくわかる。


「もしかして花川さん?」

「えっ? えっ? なんで寂野君がここに?」

「何もされなかった?」

「うん。何もされなかったよ。カメリアさんが乱暴をしようとしていたハイエナ人間を倒してくれたの」

「よっ、よかった……」

 ここで僕の意識は途切れた。

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